そう、こつこつと
簡単に話すとしよう。
グール達はプレイヤーが目に見えなくとも確実に一定以上接近しているプレイヤーの方向へ向かってくる。そして森からは出ない、また同じグールとはなるべく離れる。たぶん元々ランダムに動く様に設定して、その後に上の3つの傾向を持たせる様にしたんだろう。
よってグールが1つのアイテムから生まれる以上、グールはそのアイテムに近いほど密集するように、正しくはアイテムから離れれば離れるほど他のグールからも離れる様に広がっていってると見たほうがいいだろう。その事がわかればあとは簡単、グールを見かけたらとにかくそのグールがいた方向へ進んでいけばいい。グールが歪んだ放射状に広がっているからその逆を行けば良い言う訳だ。
ちょこちょこと採取した薬草をはみながらグールの集団を相手にしていると、またレベルアップをした。数えてないので確かとは言えないが今の僕は6レベルだったはずだ。だいぶ多くの魔法を使える様になったが、すこしふらつく。だが、とうとう目的地を目にすることができた。ところで、ゲームなんてあまりやってこなかったこの僕が思うに、流石にキーアイテムが野ざらしと言うことはないだろう。例えばダンジョンとかそういう物の奥に鎮座しているはずで……そう、このゲームでも簡単には解決しない様になっていた。
人間が3人は同時に入れそうな大きな穴が開いていた。そこからずるずると這うナメクジのようにしてグールやレッサーグールが出ている。中はどれくらいの広さなんだろうか、それによって潜るために色々と準備をしなければならなさそうだ。魔法によらない照明は大切だし、薬草もそこそこの量を揃えたい。それに幅の狭い洞窟なら時にはグールに追い詰められることもあるだろうから防具を用意しなければ……防具を……防具は無理じゃないか?
あのモヨモさんの剣は僕が試しに装備しようとしても大きさ的に無理だった。所有者によって大きさが変わるとかそう言うゲーム的なトンデモが起きてくれなかったから、僕は小動物用の装備を買い求めなければならない。そんな物はオーダーメイドで頼まなければないだろうし、オーダーメイドの装備なんてプレイヤーに頼まなければならないだろう。オンラインゲームで人と遊びたいわけじゃない僕はあとで邪神にどうにかならないか相談してみよう、できなかったら……装備の性能の違いが戦力の決定的差ではないことを証明しよう。
僕は踵を返しグールの巣から離れ、こそこそと街へ帰った。コソコソとしたのは魔法を使える体力の温存で、街へ戻ったのはナビさんに祈りを捧げスキルを得るためだ。1つレベルが上がれば1つスキルが貰えるらしいので、僕は5つのスキルを貰った。この情報はナビさんからだけど、僕と一緒に行動するナビさんは教会で現れるナビさんとは別人らしくレベルが上がったらその場でスキルを、と言うことは出来ないらしい。身近で言うとワタツホムラビメとホムラビの関係、本体と分体の関係だ。
僕が貰ったスキルは5つ、火を纏う術、火を吹く術、明かりを生み出す術、体を強化する術だ。どれも出力が低いが自分でやるよりもコストパフォーマンスが抑えられ、回数で補えばそこそこ費用対効果が良いと言うレベルだ。今回は被らないようにしたけれども、スキルとやらにもレベルがあって、火の玉を出す術を強化したりとかもできるらしい。少し悩みどころだ、実際の僕の魔術は応用ありきで、沢山の型がある。火を吹くとか火を纏うとかは序の口で、火の玉を遠隔操作したりとか色々と。だから出来るだけスキルを集めて戦い方の再現をしたいのだけれど……もしかしたら僕は戦い方の見直しが必要かもなあ。
まあ、今日の所の戦果は上々だ。少なくとも昨日よりかはだいぶマシになった筈、ナビさんに貰ったスキルを試すこともなく僕は教会からそそくさとセーフルームに戻り、ログアウトをした。
「理性的な行動は退屈であるものだとは思わんかね。」
白い教室でいきなり邪神が語り出した、なんなんだ一体。やれ聞くに、今日1日の僕はどうも大人しかったらしい。それでいいじゃないかとは思うのだけれど、混沌の神の勢力はそうもいかない。彼らは僕の気を狂わすとまではいかないものの、もう少し直情的な行動を取ってもらいたいらしい。しかし今日はそれほど理性的な活動をしただろうか、少し謎だ。
「君たち人間と我々では価値観も違えば使う言葉も違う、理性的な行動とは君使うの言葉で言うのならと言う話だ。翻訳を挟んでいるから話がある程度食い違うのは当然だろう。」
なるほど。まあ混沌の神様の仲間ならそう言うことなんだろう。理性的なと言うのも彼ら基準でと言うことだ。僕は神じゃないし彼の理性的じゃない行動の基準がわからないので善処すると答え、僕はプレイの感想を伝えた。正直なんで僕に聞いているのだろう、僕に聞いて何が見えるんだ?ゲームの品質向上だったら僕だけに聞いても意味ないからナビさんを使ってゲーム内でアンケートを取った方がいいだろう。ありえそうなのは僕の感想の変化を見てるとかか?ゲーム脳だかなんだか、邪神好みの精神構造にしようとしてるとか、そう言う感じかなあ?
ま、ゆっくり考えるとしよう。僕の意識は白の教室から現実に戻った。今得た情報によると、ボクは随分と赤の世界を楽しんでるようだった。僕を取り戻そうとナハト様やツムグ様、マシエッテ様などとともに赤の世界をひっそりプレイヤーに隠れて開拓しているそうだ。善性の神様を呼ぶ準備だそうだが……ああ忘れてはないと思うけど、ナハト様達は僕に黒蛇や赤蜘蛛を授けた神だよ。マシエッテ様は水を操る神で、水難事故を起こしたり色々と邪神寄りの行動をしている。いや待て、あいつら本当に秩序の神の陣営なのか……? そりゃあ敵対しているらしい神達は混沌としているが、いやまあ下手な考えで神の怒りを食らいたくないからこの思考は捨てよう。僕は好きな人とともに生きられればそれでいい。
さて、ぼーっとしながら身支度をされていると、クロノアデアが今日の予定を聞いてきた。おかしな事をおっしゃる、僕は今日も学校に通うのではないのか。などと思ったがまあ心当たりがある。
「今日は休日です。学校で授業はやっていませんよ。」
そう言う事だ。そう言えば馬車で旅している間にカレンダーで色々と説明をされた気がする。色々あって日付の感覚が曖昧なせいだな、心労がすごい。精神だけ人の二倍の時間を過ごしているからな。それに、僕の実感伴わないだけでボクのことも含めれば三倍だし。
でも何をしようかな、クロノアデアと訓練でもするか?弓を練習するのもいいかもしれない、あるいはゲーム用に火の魔術だけに頼った戦闘の練習をするのもいいのかもしれない。それとも絵でも描くか? 本格的な道具はないが、油絵の下書きをすると思えばそんなに道具は要らないだろう。小菫の練習でもいいな、何も考えずにブラブラと散歩するのも楽しいものだし、クロノアデア達と3人でこのままごろごろしているのも楽しそうだ。
不死について研究も良いかなぁ……そうだ、不死だよ。重要性を忘れてたとしか思えない程悠長に過ごして何をしちょるんだ僕は。さっそく色々と取り掛かろう。
ところで、不死についてのアプローチだけど、僕なりに黙って色々考えた結果やはり神の協力は避けられないと言う結論に至った。僕は人体を操る秘術、禁術を知ってる。クロノアデアが耳をエルフのように尖らせている知っている、それで定期的に体を若返らせれば擬似的な不死に辿りつけるだろう。そう、あくまで擬似的な不死だ。不慮の事故は避けられないし、何より避けられないのは精神や脳の老化だ。わかるか?
僕なりにそこそこ考えたんだけど、脳は老化する、人の力ではどうやってもそれは避けられない。まず脳が神秘に守られている、紛らわしい言い方だけどね。僕は脳の構造を詳しくは知らないが、まず脳を記録させて1日前の状態に戻らせたとしたらだ、脳は昨日の状態になるのだから今日の記憶は失われる。だが放っておいたらボケ始めるし、記憶はいつかパンクする。僕たちは物を忘れるように進化してきたのを無理に逆らって記憶して後世に伝えると言う進化した猿の末裔だ。物忘れはするし仮にしなかったとしてもそれはそれで人格は壊れる。
そこで僕が考えたのが神だ。神様に外付けの人格、いや記憶者を用意してもらうのはどうだろうか。そう、僕のような存在をもう一体作るんだ。思い出して欲しいんだけど、僕はいわゆる脳のシワとかを考えると、おそらく外付けの人格のはずだ。脳にくくりつけられた魔法生物とでも言おうかな? 現にこうして僕がいるんだから僕みたいな存在があり得ないと言うことはないだろう。
神に頼み脳にくくりつけられた魔法生物を増やしてもらう、僕のような意識はやかましいからいらないけどね。辞書とでも言おうか、脳を含める体は昨日の状態を延々と巻き戻し続ける。そこで僕のような辞書、情報保存機を作ってもらい、そいつと僕で体を動かすのが僕の考え出した不死の形だ。
クロノアデアをヒントにした。彼女は涙脆い、小さな事で喜ぶ、本当に少女のようだ。その年月過ごした年月に対して対して精神が幼すぎる。でも確かに彼女の持つ知識は本物だ、まるで辞書でも積んでいるかのように500年前は合法だった魔術や不死属の魔術に関する知識を持っている。あまり語りたがらないが人物にだって詳細に覚えているしね。彼女は記憶が実感を伴い人格へ影響を与える程の物ではない、記憶がただの情報でしかないんだ。少なくとも傍目にはそう見える。で、それを参考にしたのが今回の発案だね。
僕自身、神様の力の限界十分に知っているつもりだ。その上でこの作戦は可能だと踏んだ。問題はどの神様へ新しい存在を作ってもらうかだ。ホムラビやツムグ様、マシエッテ様に頼んでもいいが、それは本当に信頼できる存在なのかどうか、色々と怪しい。まあ目処が立っただけソコソコの安心ができるが……。
僕はクロノアデアの耳を触りながら耳を伸ばす魔術を教えて欲しいと頼んだ。本当は違うが、不老不死の為に術を教えて欲しいですなんて言っても不死なんか良いものではないですよと、自分がどれだけ思われているかも知らずに断るだけだ。だから、いかにも僕らしい言動で騙し切る。彼女が僕の考えを読めるのは、僕の思考を電波で受信してるとかじゃない。僕がわかりやすいシグナルを出してるからだ、眉をひそめたり口元を緩めたり、そう言うシグナルで容易に感情を判断できる人物だからだ。だから僕はそのシグナルを意図して偽れば普段それに頼っている人物を容易に騙せる。
「……あまり、人前では使わない事ですよ?」
クロノアデアは仕方がない子だとでも言いたげに笑い、術の仕組みについて教えてくれた。耳には実は柔らかい骨があって〜〜なんて話をしてくれた。僕は人体に関する情報は人並み以上に持っているつもりだ、少なくとも筋肉と骨だけは一般人以上に詳しい。耳が伸ばせる事は、僕にとって五体全てを弄くれる事と同じだ。僕は試しに中座してトイレでさっそく指や腕を伸ばしたり縮めたりした。思い通りに変わったし、神経がずれて大変な事に……なんてこともなかった。ちょこちょこっと耳を伸ばし髪で隠して、部屋に戻るなり僕はクロノアデアに抱きついた。
「ふふふ、見て、お揃い!」
可能な限り元気に笑って魔術の使用を誤魔化した。クロノアデアの事だ、僕が中座したのは魔術を試す為だとわかるだろう。だから子供らしい考えで誤魔化す。クロノアデアはまんまと騙されてくれたようで、まあ何て言って上品に笑った。美しい、彼女とともに生きれるなら僕はなんでもしよう……。
まあそもそも、魔術の禁術指定なんて魔術師が戦争にかられない為の物だしね。魔術師ができる範囲が大きいと戦争は魔術師頼りになって魔術師の本業である神秘の探求とか個人的にやりたいことができなくなる。魔術師は一般人の脅しなんか怖くなくとも魔術師の周りの人間はそうでもないから、魔術師は結局嫌々ながらも戦争に加担するし。
そもそも、魔術師がいたら戦争はいともたやすく終わる、魔術師は矢や剣が効かないからね。それなのに帝国に魔術師がいてなかなか戦争が終わらないのは、帝国が全く戦ってないからだ。神殿が命令を出したらちょこっと相手の領地を削ってすぐに帰るのが帝国魔術師だ。それで戦いから帰った帝国魔術師は研究をするか自分の家を改造するかのどちらか。正直、魔術師ってなんかの神様から洗脳でもされているんじゃないかってくらい省エネだ。領地だって必要最低限しか欲しがらないし、動物の肝やらなんやら必要な物は自分で用意したほうが早いし、欲だけは人一倍らしいけど。
そもそも殆どの魔術師は争いを嫌う。土地を得たって自分の体は1つだし、なんなら自分の家のベッドが良くなるならそっちの方が嬉しい。非魔術師がいくら暴れたって怖くないし、魔術師同士で争うのはお互いに命の危険があって得るものが少ない。食うにも困らない、遊ぶにも困らない、寝る場所も困らないのに、どうして争う必要があるのかって話だ。
でも、さっきも言ったけど魔術師は強くても魔術師の周りにいる人は強くない。例えば子供が生まれてその子が魔術師じゃなくて、それで誘拐されてしまったら魔術師は誘拐犯のいいなりになるしかない。そういう事が起こるから魔術師は元々一人で仙人のように生きるだけだった。でも一人は寂しいから、帝国は周りが魔術師だけでいればそういう事も起こらないだろうと言うコンセプトで生まれた国だ。国になった事で色々と弊害はあるらしいけどね……。
僕は帝国民として愛する人と共に過ごすことを改めて心に誓い、クロノアデアと緩やかな時を過ごして行った。




