第1話 英雄達の邂逅《かいこう》
2人が踏み入れたイニティウムの町並みは一言で
言うと綺麗そのものだった
盗賊どころかゴミひとつ落ちてなく町の人々も
身だしなみをきちんとしており砂漠を歩いてきて
服もボロボロな2人は完璧に浮いていた
男性は思わず「ヤバイな...」とつぶやいていた
女性に至ってはどっからか取り出した毛布にくるまっている
「ねぇ、ティラノ」
女性が眉を釣り上げながらその男性を呼んだ
「どうした?レイア、風邪でも引いたか?」
その男性ーティラノは冗談交じりにこう答えた
「そんなわけないでしょ!
この服のことに決まってるじゃない!」
レイアと呼ばれた女性は語勢を強めてこう答え、
さらにこう続けた
「こんなに綺麗なところなんだったらもっとちゃ
んとした服にしてこればよかった...」
そう呟くと毛布を巻き直してうつむいた
それを見かねたティラノは、こう提案した
「可能性は低いが、盗賊探して金でも奪うか?
その金で服でもなんでも買えるだろ
少なくとも俺とお前が着てるような
どこの世紀末だよ!って服よりかは
ましになるはずだ」
ティラノはさらにこう続けた
「めちゃくちゃ綺麗なこんなとこでも洞窟ぐらい
ならあるはずだ。とりあえずそこ目指そうぜ?
なっ?」
そんな世紀末な服を全く気にしてないティラノは
聞き込みを始めた。
「男ってみんなあんなものなのかしら...」
ため息混じりにこう呟きながらもその足は道行く人に向かっていた。
30分くらい聞き込みをした2人は、こんな有力な情報を得た。
「時々北の洞窟から盗賊が来て町一番の食堂を
襲う」
「どうするの?時間はちょうど12時ぐらい
だけど」
「金が少しだけ残ってるからそれで飯でも
食うか」
そういうとポケットから銀貨が少し入った袋を
取り出した。
「あれ?まだそんなにあったの?」
レイアが目を見開いて尋ねる
「金があるって思うと使ってしまうからな。
こんなこともあろうかと少し置いて
おいたんだ」
ティラノは自慢げだ。
「まあ、俺の優秀さは置いといてはやく食いに行
こうぜ」
レイアは自分で言わなきゃいいのにな、と
思いながらそうねと答えた。
今日も凄いお客さんねと彼女は思った。
イニティウムの町の少し外れにあるここ、
デザイア食堂では昼の時間帯になると人がごった返す事、そして盗賊に狙われている事で有名だ。
しかし、彼女は怖くなかった。
なぜなら、彼女はいわゆる能力者だからだ。
決して少ないわけではないが、ここイニティウム
では唯一の能力者である。
「ディアボロちゃん、これもお願い!」
「分かりました!」
彼女ーディアボロが能力者である事は
誰も知らない。
そしてこれからも誰も知らないまま終わる...と
思っていた矢先、
「盗賊だー!盗賊が来たぞー!!」
「今すぐ避難しろー!」
外からの叫び声がディアボロの耳に飛び込んだ。
嘘でしょ...よりによって私がいるときに...
ディアボロは決断を迫られた
能力で皆を救うか、自己防衛に走るか、
答えは決まっていた。
ここに新たな英雄の誕生である。
「なんか騒がしいな」
ティラノ達にも騒ぎの影響が出ていた。
「もしかして、もう盗賊が来たんじゃないの
かしら?」
汗を拭いながらレイアが言った。
「じゃあ、急ぐぞレイア!魔力全開でブースト
だ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
レイアがそう言った時にはすでにティラノは
いなかった。
「邪魔するぜ」
低く暗い声でそう言い、入って来たのは
5人ほどの盗賊だった。
「もう俺たちが何が欲しいかわかってるよな?」
ディアボロは、盗賊達に手をあげながらも
横目で店長を見た。
店長は、完全に怯えてしまっているようだった。
「はやく金と食料を持って来るんだ」
震えた声でこう言うと店長自身も店の裏に
行った。
どうやら食料を詰めるのを手伝うらしい。
これで店の客のスペースにいるのは、
ディアボロと盗賊だけになった。
よし、やるぞと意気込んだ瞬間、
凄い勢いで入り口を突き破りながら流星のごとく人が突っ込んで来た。
とても人が出せるスピードではなかった。
「またミスった〜今回は行けそうだったんだけど
な〜」
その人はとても悔しそうに話しながら立ち上がり
「君!大丈夫かい?」
ディアボロは、あまりにもいろんなことが起こり過ぎて「は、はい...」としか答えられなかった。
「それなら良かった!一緒に戦おう!」
あまりにも衝撃的な一言にディアボロは、雷に
でもうたれた感覚だった。
一緒に戦おう?どうして?私は何も言っていないしこの男にあった事もないのに......
どうして超能力者と見抜いているの?
彼女は言葉を返せなかった。
かろうじて頷いた。
「よし!じゃあいくぞ!ってその前に君の能力
ってなんの能力?教えて欲しいなー」
男がそれを言い終わるのと同時に痺れを切らした
盗賊が、
「何をごたごた言ってやがるんだ!
さっきから鬱陶しいんだよ!」
剣を振り上げ男に斬りかかる。
男が、同時に「細胞変形!両手剣!」
と叫ぶと男の腕が瞬く間に剣の形に変わり
盗賊の剣を受け止める。
「君!話は後だ!能力全開でいくぞ!」
そう言うと男は、盗賊の剣を弾き盗賊を
斬りつけた。
ディアボロは、飛び散る鮮血に驚きながらも
覚悟を決め、「はい!」と返事した。
ティラノは高揚していた。
たった5人とはいえ戦いが大好きな彼にとって
久しぶりの戦いは気持ちの良いものだった。
もっと敵がいればなーとも思うぐらい力の差は
あり、正直少し期待外れだった。
彼が4人目を倒した時、後ろから爆音が聞こえた。
振り向くとそこには、崩れた店のカウンターと
壊された壁、そしてあまりの衝撃でぐちゃぐちゃになっている5人目の盗賊、能力を使った英雄ー
ディアボロの姿があった。
レイアが、デザイア食堂に着いた時には
凄い光景が広がっていた。
転がる4つの死体。
潰れた死体。
半壊した食堂。
肩で息をしている女性に、両手剣の状態の
笑っている能天気な男。
「やっと来たか、レイア」
この光景の前ではあまりにも能天気な口調で
こう言った。
ティラノにとっては、この光景は普通なの
である。
「これでも急いだつもりだったけど、
もしかして助太刀が欲しかったのかしら?」
「助太刀どころか敵をもっと寄越して
欲しいぐらいだ。」
相変わらずの戦闘狂ぶりである。
「で、そちらの女性は?」
レイアは、女性を指差す。
「それを後で話そうと思ってたんだが」
「君、大丈夫?」
ティラノは手を差し出す。
「はい、なんとか」
その女性は、ティラノの手を取り立ち上がった。
「とりあえず、場所を移さない?
死体だらけは嫌だわ。」
「そうしたいのはやまやまだが、俺もレイアも
行くあてがないな」
そう言うと、ティラノは女性に目を移し、
「君の家って近い?」
レイアは、この男のクズさに驚くばかりだった。
しかし、女性は、
「はい、近いですが。」
と別に行っても構わないと言った口ぶりだ。
「今から、行ってもいいか?」
「大丈夫です。住んでるの私と妹だけですから」
女性は、嫌な顔ひとつせず笑顔でこう答えた。
「嫌だったら嫌って言いなさいよ。
この男は、人の優しさにつけこむ
タイプだから」
「人聞き悪いな、これでもこの娘を助けた
英雄なんだぞ?」
「英雄は、自分で英雄って言わないわよ」
「そうは言っても、本当はかっこいいって
思ってるくせに」
「誰があんたなんかをかっこいいって思うのよ!
誰も思わないわよ!」
「はあ?何言って
「あ、あの!早く行きませんか?」
2人が女性を見ると、女性は、不安そうな面持ちで
2人を、見つめていた。
「しょうがないな、今回は俺が手を打とう」
「何を言ってるの、私が手を打ってあげるのよ。
感謝することね」
「また訳のわからないことを言いやがって、
今回は、俺だろ!」
「いーや、私よ!」
「俺だ!」
「私よ!」
「俺だ!」
「2人とも!いい加減にしてください!
さもないと、能力使いますよ?」
女性は、そう言うと2人を睨みつけた。
「すみませんでした!」
2人が、頭を下げるのを見て
「案内するのでついて来てください」
女性は、笑顔でこう言い歩き出した。
「そういえば、君の名前はなんて言うの?」
「ディアボロ・クロウリーです!
はやく行きますよー!」
彼女は、笑顔で手を振りながらこう答えた。
「元気だな、ディアボロ」
「元気なのが何よりよ。もっとも人を殺してるけ
どね」
「あの感じだと、俺らの仲間にいいんじゃない
か?」
「そうね、能力も強そうだし」
「飯は食えなかったけど、結果オーライだな!」
「そうね!ってティラノ」
「うん?どうした?はやく行くぞ?」
「金貨かなんか手に入った?
服はやく変えたいんだけど」
「あーなかったなー」
ティラノの目は泳いでいた。
「拾ったのね?」
「いや!拾ってない!断じて!それより
はやく行くぞ!」
と言うと逃げるようにティラノは走り出した。
「あっ!待ちなさい!」
慌ててレイアも追いかける。
「ディアボロ、走るぞ!」
「はい!」
こうして英雄達は、走ってディアボロの家に行く
事になった。
果たして、ディアボロは仲間になるのだろうか?
彼らの英雄としての人生は、まだ始まった
ばかりである。