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【紡ぎ師】アリス -始まりの物語-  作者: 『記し師』アリス
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第1章「非日常」

ミーン……ミーン……

暑い日差しが降り注ぐ中、蝉はその命を使って懸命に鳴いていた。その姿は、儚くも自分は確かにそこにいて、今を生きてるということを示してように思える。

そんな詩人的なことを思いながら外を見ている少女がいる。

クーラーが効いた教室の中、紡希つむぎ 有栖ありすは黙々と授業を受けているふりをしながら窓の外を眺めていた。

月日は7月から8月に差し掛かる頃、夏休み真っ最中だというのになぜあるのかわからない休み途中の午前中授業にきていた。

(ひまだなー……)

大したこともないのに呼び出され、先生や同級生達とたわいの無い話しをするだけ。果たしてこんなことに何の意味があるというのだろうか。

(早く帰りたい……)

有栖は机にうつ伏せになり目を閉じる。どうせ寝ていても注意しない担任なので構わないし、わいわいと盛り上がってうるさい連中がいるので注意されるのであれば先にそちらが注意いされるだろうと思ったからである。

高校一年のこの時期だと大体いつものグループというのも決まり大概その面子で話して盛り上がっている。有栖は端から見れば誰とでも仲良く接している方ではあるが本人からすればあくまで上辺だけでなのが大半だった。別に友人などを作るのが苦手ということはないのだが、あまりうるさいのを好まない上に何をするにしても一人の方が気を使わない分気楽でいいからである。だがしかしそこは社会の初心者学習というものか付き合い、会話ぐらいは合わせれるようでなければ世渡りできないのが世間というものである。面倒くさくても疲れていてもしなければならない。おかけで登校してすぐぐったりである。

(眠い……)

学校に加え朝見た不思議な夢のせいで少し早起きしたため非常に眠かった。

予想以上に眠さがあったのか有栖の意識が落ちるのははやかった……




ポタッ

有栖の顔に水滴が一粒落ちる。

「ん……冷た……」

有栖は頰についた水滴を拭いて目を覚ます。起きたばかりの頭で辺りを見渡す。目覚めた場所は藁の敷かれた地面の上だったようで身体は特に痛くないものの藁が身体中についている。辺りは一面見渡す限り木々に囲まれていてどうやら水滴は有栖の上にある木々の葉から落ちてきたようだ。

「私、教室にいて……ここどこ?」

木々に囲まれているせいか辺りは薄暗いものの見える範囲だけでも異様な光景が目に入る。知らない実がなっている木、見たことない花、羊の毛のようにふわふわしている藁、まるでファンタジーの世界にでもいるかのような感じがした。

静寂に包まれた空間の中で有栖の思考は停止していた。

「…………」

むくりと身体を起こした有栖はとりあえず身体中についた藁を払いながら深呼吸する。落ち着いたところで頭の中の整理が追いつく訳ではないがパニックになるほど焦りがあるわけでもない、それなら冷静になるのが今一番優先することである。

「はぁ〜……」

よく見渡して何もかもが知らないものだらけだということを再確認してからため息をつくいて肩を落とす。

(寝ちゃったとはいえ、学校にいたよね?私。ならここどこなの? ……誘拐? いやそんなわけないから。それなら手とか足とか縛られててもおかしくないし……あ)

何かを思い立ったのか有栖は再度周りを見渡し藁の中に見覚えあるものがあるのを見つける。

「あ、あった」

藁の中に埋もれていたが持ち手部分とキーホルダーが見えていたのでそれを藁の中から抜き出す。

有栖が通う学校の黒いスクールバッグ、一発で自分のだとわかるように外側に動物のキーホルダーをつけていた。

鞄を開けて中身を確認する。

(筆記用具、手帳、ポーチ、財布、充電器、携帯……)

無くなってるものがないことにほっと一息つきつつ携帯の電源をいれて画面を見てみるもむなしく『圏外』の二文字が表示されている。日付は変わっておらず時刻は12時過ぎぐらいである。

携帯をバッグにしまい直すと有栖は立ち上がった。

「まあ、いつまでもここにいるわけにもいかないよね……」

案外冷静になっている自分に少し驚きすらあったものの、もしかしたらつまらない日常ではないこんな非日常を待ち望んでいたのかもしれない。

頬を両手で叩くと辺りを一周見渡しぴたっと止まる。

「よし、こっち」

見据えた方向に決め、バッグを持ち上げて歩き始めた。ここがどこなのか、どっちに何があるのか何もわからないのなら直感で決める以外ない。そう考えながら有栖は薄暗い木々の中を進み始めた……

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