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第二話

Q,赤ん坊のことがわかりません。

A,誰も覚えていませんからね。



 たぶん、一年ほどが経ったんじゃないだろうか。何日か前に家の中でちょっとしたお祭り騒ぎがあったんだけど、赤ん坊の体って兎にも角にも睡眠を欲するから半分寝てて、気づいた時にはもうメイドさんたちが後片付けに入っていた。恐らく俺の誕生日だったんだと思う。


 たぶん一年っていうのは俺自身がまだ、この世界の周期を知らないからだ。何せ最近になってようやく何かに掴まって立ち上がることができるようになったばかりで、何かを調べるなんてできるはずもなかった。

 今のところ俺がわかっている言葉は「パパ」「ママ」の二つだけだ。せめて、何も掴まない状態で歩けるようにならないと行動範囲も広がらないし情報も得られない。問題は、早い段階から歩こうとするとO脚の蟹股になりやすい傾向があるって話を前世で耳にしたことがあるから、どうしようか悩んでいるってところだ。だって、どうせならスマートな体形目指したいじゃん?あと、子供って平均何歳から歩くんだ?ネットがないのがつらい。


 食って寝て以外にすることがないので今後の予定という名の妄想をずーっと頭の中で繰り広げていた。最初の頃こそ転生したことに浮かれて「最強の魔法使い」みたいな派手なことを考えていたけど最近は割と現実的なことを考えるようになっていた。

 大まかには次の三つだ。


・言語の確認

・文明レベルの確認

・家が貴族だった場合、俺の立ち位置の確認


 言語は必須条件だ。これは何においても優先する予定だ。予想では、近いうちにメイドさんあたりが俺に読み聞かせをしてくれるんじゃないだろうかと考えている。とは言っても確定しているわけじゃないから当てが外れた時は自力で動けるようになってから手を打つつもりだ。


 実は文明レベルは大体予想がついてる。おおよそ中世ってところじゃないだろうか?確定できない理由なんだけど、部屋の内装は確かに中世のそれに近いのに、所どころ俺の理解できないものがあるからだ。

 その代表が照明器具だ。ろうそくやランプで明かりをとっている場所(主に廊下や使用頻度が少ない部屋)がある傍ら,部屋の照明器具が電気ともろうそくとも違う独特な、より具体的に言うと結晶体がそのまま光っているように見える物でできている。

 魔法か俺の知らない科学技術か。どちらにしろそういった「よくわからない技術」で動いているものが日常に溢れているせいで俺が今いるこの世界が「中世」レベルの文明だと断定できていない。もしかしたら中世に憧れて生活レベルをそこに合わせている酔狂な人の家系かもしれないし。


 最後に家が貴族だったら。これは文明レベルが中世の条件をクリアしていることが条件だ。

 まずは、俺が嫡男かどうか。あ、おむつ変えるときに無事、男性の象徴を確認しました。よかった。で、話を戻すと俺が長男か次男かそれ以下でだいぶ今後の身の振り方が変わってくるってことだ。

 長男なら最良だ。家長に無能の烙印を押されない限りは結構好き放題ができる。次点で三男以下。このポジションだと俺に家督が回ってくるには少なくとも長男と次男が死ぬか、不祥事で二人が家を継ぐに値しないと判断される必要がある。つまり、家からのバックアップは望めないけど実力で成り上がりが目指せるわけだ。

 ワーストは次男。できればこのポジションだけは当たってほしくない。立ち位置として、長男の「もしも」に備えてある程度丁重に扱われるけど、長男より目立つことは許されず家の中で基本的に飼い殺しにされる。

 まとめると、長男最高、三男以下なら許す、でも次男は勘弁してください。

 もちろん今言ったことは全部、俺が生まれた家が貴族だった場合だ。家の内装から考えて、たぶん当たっているとは思うけど、もう一つの可能性としては地方の有力者ってところだろうか。

 もし、地方の有力者なら話はもっと簡単だ。貴族みたいな「やれ、歴史だ。伝統だ。」といったしがらみが無いから、目の前にある障害を全部排除してトップに立てばいいだけだ。最悪、わざと勘当されて一から成りあがるのもいいかもしれない。


 まぁ、現実的とか言いながらも多分に願望を含んでいるんだけどね。



◆◆◆◆◆◆



 O脚になるのをビビッて余り立たないようにしていたら無理やり歩かされるようになった。普通なら歩いている時期だったんだろうね。メイドさんと母親が「何で歩いてくれないの!?」といった雰囲気で俺の手を引いて立たせてた。

 歩いていいなら歩きますよ?そりゃもう、全力で家の中歩き回りますよ。


 因みに母親は黒髪に緑色の瞳の持ち主だ。顔立ちはキレイと言うよりはカワイイ感じの女性……じゃないな。ぶっちゃけ少女だ。年齢は十七か八といったところだろうか。

 身長も小柄なほうで一六〇センチにはたぶん届いていないと思う。にもかかわらず胸のほうはかなり主張が激しい。サイズ的にはFかGと予想。いや、前世DTのまま終わっちゃったから全然詳しく知らないんだけどね。山姥(やまんば)が何かの時に口を滑らせて「Cじゃない!Dだ!」って自爆してたからそこからの目算だ。

 まあ、つい最近までこのおっぱいにはお世話になっていたんだけどね。最初の頃こそ「でかっ!なんじゃこれ!すげーっ!」って思っていたんだけど、これが母親って認識があるせいか性的な意味で興奮しないし、だんだんと「あ、ごはんだ」ぐらいの感想しか持たなくなってきて、終いには「もうちょっと小さいほうが飲みやすいんじゃ?」とか思うようになってた。今はもう歯が生えて離乳食に移行してるけどね。


 さて、母親が若ければ父親も若いかと言えば全然そんなことはない。こっちは前世の俺と同じぐらいか少し若いぐらいだ。確実に三十には届いていない。

 見た目はさわやかなイケメン……じゃなく、ラグビー選手の様な金髪の偉丈夫だ。身長は確実に百八十は超えてるだろうね。瞳の色はきれいな蒼だ。正直、前世ヒョロガリだった俺には苦手なタイプだ。……コンプレックスも多分に含んでるよ!

 そんな男が俺を抱っこすると途端にでれっとした表情になるもんだから正直気持ち悪いったりゃありゃしない。普段はキリっとしててかっこいいのに全部台無しだ。母親に何か言われては表情を正しているけど三秒と持ったためしがない。これ、俺に妹なんかできた日にはもっとすごいことになるんじゃ……。いや考えないようにしよう。気持ち悪くなってきた。




「●●●●●●……」


おっと、そうだった。今は大事な語学習得の時間だった。俺は犬っぽいメイドさんの膝に乗って絵本の読み聞かせをしてもらっているところだ。

 絵本…と言うよりは紙芝居に近いもので古い羊皮紙の表面を削ってそこにメイドさん自ら文字を書いた手作り感溢れるものだけどね。なんでこんな事になっているかというと、原因はもちろん俺だ。

 両親とリビングでくつろいでいる時に、たまたま近くに置かれてた本に手を伸ばして開いてみた。本を開くまでは良かったんだけど開いてページをめくろうとしたら、赤ん坊の身体って大雑把な動きはできても細かい動き、例えば洋服のボタンを止めるとか、が全くできないのね。うまくページを捲ることができなくておもいっきり破いてしまったのだ。

 破いたその本が貴重だったのか本そのものが貴重なのかはわからないけど、とにかく父親が血相を変えて俺から本を取り上げた。それが一回だけで済めば話はそこで終わっていたんだろうけど、本が読みたい俺は二、三回それを繰り返してしまって気づけばメイドさん自らが本を作って俺に読み聞かせてくれるようになったわけだ。


 念願の語学学習だけど、メイドさんの作ってくれた絵本は全部で二五ページ。使われている文字の種類は記号らしきものを含めておおよそ五〇個。多分、大文字と小文字が各二五で計五〇ってところじゃないかな。

 そうなるとこの絵本は前世で言うところの「あいうえおの絵本」ってところか?各ページに描かれてる絵に統一性がないのはその文字から始まる物を描いてるからか。

 肝心な文字はアルファベットとロシアのキリル文字にもうちょっと何かを足したような文字だ。


 自分でもなんとか読めないかとメイドさんが読み上げる声を聞きながらボーッと文章を目で追っていく。因みにメイドさんがやめようとする度にグズるふりをして引き止めているから声にだいぶ疲労感が漂っている。これで最後にするからもうちょっと付き合ってください。後もうちょっとで読めるような気がするんで。

 最後のページに差し掛かったところでダメ元で知っている読み方を試してみた瞬間、全てがカチッと当てはまった。


英語だ、これ。


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