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プロローグ

 Q,人生で一度は阿呆なことをやってみたい?

 A,そこにロマンがあるなら。






 一度きりの人生でその思い出を他人に語った時に、すごい、うらやましいと言わせるだけのことをやってみたい。

先天性の疾患のせいで二十を超えれれば御の字。そこからは加速度的に生存率は低下すると医者に告げられた時に心に決めたことだ。


 最初は自分の病気の謎を解き明かして治療法を見つけてやろうと医学書を読み漁った。でもわかったのは医学の入り口までだった。せいぜい、一般人よりは体の構造と病気に詳しいねと言われる程度だ。


 何かに挑むきっかけなんて結構あっちこっちに転がっているもんだと思ったのは中学で進路に悩んでいた時だ。きっかけはテレビでやっていた「高校生のロケット打ち上げコンテスト」。

 簡単に言えば高校生がロケットを打ち上げて小さな人工衛星を宇宙に飛ばそうというものだ。

 これほどのロマンが他にあるだろうか?

そう考えた時には出場経験のある高校を選んで進路を提出していた。


 無事入学を果たして一年のころから先輩より基礎を学び実験と研究を繰り返した。

気づけば幹部メンバーになっていて、チームを引っ張っていた俺は「主任」、プログラム代表だった奴は「博士」、メカニック代表は「おやっさん」、経理担当の女子は「山姥やまんば」と呼ばれるようになっていた。

 いや、うん。彼女は本気で怖かった。


 陽気で阿呆な仲間と挑んだ最終学年でのコンテスト。先輩の作ったロケットと衛星ではなく、自分たちで設計した「娘」だ。

 衛星の名前は「ちあき」。搭載した機能は「古い通信規格のエミュレーター」、つまりは未だ宇宙に漂っている古い衛星に呼びかけてみる機能だ。

 プログラムのベースの部分は俺が作ったけど、他は仕様書と一緒に全部「博士」に丸投げしている。まさに、鬼発注・神下請けだ。

 作った「博士」本人も、よくわかんないけどうまく動いているからこのまま乗せてしまおう、と言っていたので中身は完全にブラックボックスと化してしまった。


 無事に打ち上げ、切り離しを終えて、さあこれからだといったときだった。

悪夢が起きた。

 会場の大型スクリーンには「ちあき」のステータスが表示されていて待機状態から起動状態に切り替わった瞬間だった。

 スピーカーから流れてきたのは起動を通知するビープ音ではなく大音量のノイズが流れてきてステータス画面は「ちあき」から送られてくる大量のノイズデータの文字で埋め尽くされてしまった。

 運営と審査委員が呆然とする中、俺たちは懸命に復旧を試みたけどそれをあざ笑うかのように「ちあき」からの通信がすべて切れてしまった。

 緊急用の通信システムを使っても何をやっても「ちあき」から応答が返ってくることはなかった。


 大会の結果は「失格」。

 

 審査委員は、完全なイレギュラーだから気にしないようにと言っていたがその言葉は何の慰めにもならなかった。


身内からの突き上げはほとんどなかったけど、学内での多額のの予算をつぎ込んだ結果があの様だったから外野からは、特に幹部に対しての叩き方は尋常じゃなかった。

 曰く、「主任」が無茶な要求を出したから。曰く、「博士」のプログラムが原因だ。曰く、「おやっさん」の腕のせい。曰く、「山姥」が予算を私的利用していた。

 噂は多岐にわたるけど大体はこんな感じだ。たかが噂、されども悪意。他者との関わりが減って、幹部だけで集まるようになったのは自然な流れだった。



◆◆◆◆◆◆



 高校を卒業するころに体が限界を迎えた。いままでの無理とストレスから病院なしではいよいよ生活が厳しくなった。

 ただ、不思議と絶望だけはしなかった。仲間がいたからと言われればそうかもしれないし、諦めていたからと言われればそれも当てはまる。ただ、心の中にしこりの様なものがずっと居座っていたけど、それも全力で残り時間を楽しむ中では些細な違和感だった。 

 

 成人式を無事終えて、数年たったころにいよいよ体が動かなくなってきた。病院の個室で大量の管に繋がれて日がな一日、ぼーっとしているのも暇なので最後の悪あがきと思って「ちあき」から送られてきたあのノイズデータを解析してみることにした。

 もちろん、意味があってのことじゃないけど何もしないよりはましだと思って取り組んだ。

 結果として分かったのはデータの中に意味が通りそうな信号があって繋げて復元してみると意味の分からない英語と数字の羅列になるだけということ。


 ベッドの上で意味もなく昔のことを思い出していると睡魔が襲ってきた。目を閉じて体の欲求に身を任せていると病室のドアが開く音が聞こえた。

 回診の時間はまだ先だから誰か見舞いにでも来てくれたのだろう。残念ながら意識が落ち始めているから相手にできそうもない。まあ、本当に用事があるなら起こしいてくるだろうし、そうでなければ適当に帰るか俺が起きるまで待つだろう。

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