頂点と最強 2
「随分盛り上がってると思ったら、めちゃくちゃつまんない話してるんですね」
声が背中にかかかる。振り返ると、ギルドメンバーの一人、カルヴがアルコールを片手に立っていた。
「めでたい飲みの場でそんなキナ臭い話しますか? 常識的に考えて」
彼のもっともな指摘にハルヴァーは苦笑してる。
「いや、まぁ、ただこういう話をコイツにするには良い機会だと思ってね、こうやってロナ抜きで話せるチャンスなんてそうそう無いだろ」
コイツ、と呼ばれた。だけどその口調に棘はなく、僕を飲みに誘った時のユリアンのような嘘くさい馴れ馴れしさも無かった。
気を許したが故の粗暴な口調、僕はそう前向きに捉えることにした。
「そうですか、私も少し会話に混ぜて貰っても?」
「あぁ俺は構わないよ」
僕に視線が注がれる。
「はい、僕も、喜んで」
カルヴが席につく。てっきりハルヴァーさんの隣に座ると思っていたが、何故か僕の左隣に座った。結果として僕は彼とハルヴァーの間に挟まれる形になった。
「どうした、何か話したい事がありそうだな」
言いながらハルヴァーは身を寄せる。
「実は先程ウェイストウッズから連絡がありました。コリエル・ヴァルフリアノが例のメイド軍団を引き連れて、街に押し入って占領を始めたとのことです」
吹き出す音、ハルヴァーが飲みかけていたアルコールを吐き出してむせ返る。かなり汚い。
「エ゛ホッ、冗談だろ。占領って、あそこは今軍部の――」
「当然軍部と衝突してるそうで、少なくない死者が出てると聞ききました」
「――マジかよ、狂ってる」
ハルヴァーはハンカチで口を拭いながら呆れた様子で首を振り、そして僕を見た。
「あー、ルカに説明するとだな。あの街での例の奴隷暴動は、俺達じゃなくて軍部が制圧した事になってるんだ。だから探求者ギルド連合じゃなくて、治安部隊がついさっきまで街の復旧に努めていた」
「ロナが民族解放戦線を殲滅したのに、軍部が街を奪還した事になってるんですか?」
「あぁ、そうだ、情勢を鑑みて忖度したんだロナは。あの城塞都市は奴隷捕獲と売買が主な生業で、だから殆ど軍部が牛耳ってた場所だ。そんな街で『軍部がワンダラーに負けて占領され、奪還にも失敗して、探求者ギルドに奪還してもらった』なんて事になれば軍部の面子が潰れすぎる。だから俺達ブラザーフッドは『ジェローム及び数名の生存者の救出』をしただけって事にして、制圧の手柄は全部軍部に譲ってやった」
そんな政治の駆け引きがあったのか、でも確かに合理的かもしれない。
ロナは僕の存在を隠したいと思ってる、不死の存在が露見する事を嫌ってる。それなら目立つ手柄は人に譲って恩を売ったほうが……
「彼女にしては冷静で良い判断でしたね。大方ゼノビアの入れ知恵でしょう」
「俺もそう思う、まぁそういうわけでウェイストウッズの結末は割と美談になってた。探求者ギルド連合と軍部の協力、緊張緩和、わだかまりの平和的解決の兆しって具合に。それがコリエルにたった今ぶち壊された」
ハルヴァーは忌々しそうに口を拭ったハンカチをカウンターに投げた。
僕それを見て少し安心した。彼は随分と軍部を憎んでるようだったから、てっきり軍部を乱暴に潰したがってる人間だとおもってた。でもこの悔しがり様を見るに、平和に事を収めたいと思ってるのだろう。
「どう思いますか、ハルヴァーさん」
カルヴの問いかけ。
「おかしいだろ、いくら何でも……連合からのコメントは?」
「まだ出てませんね。しかし、どうせコリエルを擁護するでしょう、軍部にだって落ち度はあるわけですし。なにせ軍部が防衛に失敗して奴隷共の反乱を許したわけです、常識的に考えてその街の復興及び原因調査を軍部に任せるのは間違ってる、隠蔽阻止を言い訳にすればコリエルの押し入りも正当化されるでしょう」
随分難しい話だ、正直ついていけてない。
そんな僕の様子をカルヴはチラチラと横目で見ている。細かい解説を入れるべきか迷っているのだろう。
「なぁ、カルヴ、いくら何でもコリエルの行動は性急過ぎないか」
「ですから、思ったんですよ私。例の噂が真実かもしれないと」
ハルヴァーは何も返さず、やけくそ気味に酒を呷った。
そしてカルヴは、何故か僕をジッと見つめる。
「ルカ……ウェイストウッズで、何かを見ませんでしたか?」
なんだその抽象的な質問は。
「何か……って」
「噂があるんですよ。ウェイストウッズにワンダラーのクソ共が攻め込めたのは内部からの手引きがあったから――」
僕はそこで思い出す。
ウェイストウッズの東門が壊れて開きっぱなしだった事を。
「――その手引きをしたのが、コリエルなんじゃないかって噂があるんですよ。常識的に考えても、その説にはかなりの信憑性がある」
……え?
どういう事?
「どうして、コリエルはそんな事を?」
「コリエルを筆頭に、探求者ギルド連合内には『軍部を潰したい』と思ってる『タカ派』が結構な数いる。彼らにとってウェイストウッズでの暴動には三つの利点があった――」
ハルヴァーが説明を引き継ぐ。
「一つ、軍部の面子潰し。ワンダラーにさえ負ける雑魚に成り下がってると民衆に強く印象づける」
街一つがまるまる虐殺の舞台になったという事実は強烈で、この国の人々は言いしれぬ恐怖と軍部への不信感を強く抱く事になる。
「二つ、ドラギーユ殺し。碧晶大戦終結の表の立役者で、軍部の中で最も崇高な血統とされているドラギーユ家を殺す事は、軍部の組織としての正当性を揺るがす強い一撃になる」
今回死にかけた「ナドラ・ドラギーユ」は優秀な兵器職人でもあり、ドラギーユ家の中でも特に高い価値のある人間だ。彼の死がもし実現していたら、大きな波紋をもたらすことになっただろう。
「三つ、ハト狩り。ウェイストウッズの探求者ギルド『ファミリア』は場所柄もあってか軍部とのつながりが強かった、それ故に『軍部との平和的和解』を望む所謂ハト派で、たびたびコリエル達タカ派を非難していた。ファミリアの存在がどれほど邪魔だったかは想像に難くない」
……おっかねぇ。
もしそれが事実なら無茶苦茶も良い所だ、僕の背中に冷や汗が流れる。
「では改めてルカ――」
カルヴが身を乗り出し、熱のこもった強い視線を僕に向ける。
「――何か見ませんでしたか?」




