ルカとロナ 3
さて
さてさて、ここで少し整理をしておきたいと思う。
僕自身の事、僕が今いるこの世界の事、そして僕のこれからの事。
そもそもの話、僕はこの世界に「異世転生ラノベ」みたいな物を期待してやって来た。
やって来たはずなんだ。
だが現実はこのザマだ。
理想には似ても似つかない、随分と面白みの薄い状況に僕は今いる。
確かにこの世界にはモンスターだとか、剣と魔法だとか、ダンジョン、それから可愛いヒロイン、さらにはテレビゲームみたいなステータス表示、レベルという概念とかまで、そういう如何にもな設定は幾つも存在する。
だからパッと見はラノベな世界設定その物だ。
こんなにも理想通りの世界っぽいのに。
それなのに、何故こんなにも楽しくないのかというと――
「それはやっぱり、僕が弱いからだろうなぁ」
目覚めた僕は、そんな事を呟きながらベッドの上で体を起こした。
ここはギルドハウスの居住区、僕の自室。
異世界転生初日にダンジョンから助け出された後、寝かされていたあの部屋だ。
ベッドから降りると、僕はゆっくりと伸びをしようとする。
が、胸に鈍い痛みが駆け抜け、思わずうめき声を上げてしまう。
え? これってガイコツに刺された時の傷?
マジかよ、まだ痛むのかよ。
ダンジョンから帰ってきて、もう結構な時間が経ってるんだぞ?
「いろいろシビア過ぎる」
胸の傷だけじゃない、肉体的な疲労はもちろん精神的な摩耗も大して回復していない。
「ステータス表示ではどっちも全快してるのに」
これは参ったな。
鉄則その三「ダンジョンに潜るのは一日一回、それも午前中だけ」
その意味を僕は今、身をもって実感した。
気怠い体を無理矢理動かして、ふらふらと自室の外にでる。
廊下に設置された振り子時計が、午後八時を示していた。
「えっと、ダンジョンに潜ったのが朝の七時で、正午にダンジョンを出てオークションハウスに行って、三時過ぎにハウスに帰ってきたんだから――」
だいたい四時間ぐらい昼寝していた計算になる。
「――そんなに寝たのに、疲れが抜けないのかよ」
無意識の内にため息を吐き出すと、僕は傍にあった長椅子に座り込んでしまった。
レベルを1あげる。
というか、午前中一杯ダンジョンに潜るだけでこんなに大変なのか。
「駄目だ、いろんな意味で僕は弱すぎる」
主人公が弱い系のラノベだって無いわけじゃない。
それにしたって、これは酷過ぎる。
なんというか、最早「何もできない人」っていうレベルで今の僕は弱い。
ダンジョンの深い層に潜ることも出来なければ、強い敵と戦う手段だってもってない。
弱いなりにユニークな能力があれば良いのだが、相手の能力値が直ぐに見れるとかいう微妙な……
従って今の僕には「イベント」らしいイベントは一切発生しない雰囲気がある。
大抵の異世界転系ラノベでの序盤イベントといえば、突如現れた強敵との一騎撃ちとか、嫌味な奴隷主との決闘とか、魔物に襲われてる街を助けるとか、まぁそんな所だろうが。
もし仮にそういった類のイベントが発生したとしても、レベル2の僕なんかすぐ死んでお終いだ。
つまり胸躍る大冒険が始まる気配が全くないのだ。
さらにタチの悪いことに、僕は精神的にもただの一般人でしかない。
だからライトノベルによくあるタイプの主人公みたいな「最後まで自分の信じた道を、ただがむしゃらに貫き通す」みたいな根性も持ち合わせていない。
「毎日あのダンジョンに潜るとか、耐えられそうにないんだが」
そんな半分泣き言みたいな愚痴を口にしてしまう。
そんな具合で現状を再確認して卑屈になっていると、次第にジリジリとした閉塞感が僕を襲い始めた。
現実世界で幾度となく味わった、未来へ対する恐怖だ。
先には狭く苦しい道しか見えなくて、その道を辿るしかないという絶望感。
頭がくらくらする。脳の奥がずきずきと痛み、胸がざわめき張り裂けそうになる。
「――なんとか、なんとかこの状況から抜け出さなくちゃ」
そう呟いて唇を噛みしめる。
冷静な思考を保ち続けて、打開策を見出さないと。
無駄に焦って自失していたところで、事態は好転しない。
ジッと自分の手のひらを見つめ、ステータスを表示する。
――アビリティ
【蒼き玉座の担い手】――
多分これが、これがきっと僕を救い出してくれる。
僕がこの現状から脱する事のできる、唯一の手段なのではないだろうか?
「力だ……力さえあれば」
絶対的な力、最強系の主人公みたいな、自分が自分である事を押し通せる力。
それさえあれば……僕は自分の、自分が望むような。
「よっし、やるぞ!」
自分に言い聞かせるように言うと、力強く立ち上がる。
もう一回図書館に行こう。
そこでアビリティに関する本を読み漁ろう。
そして見つけ出すんだ、このアビリティの使い方を。
意気揚々と通路をまっすぐに進み、階段を駆け上がる。
そして大広間を抜け、玄関に向かおうとしたのだが……
大広間の大テーブルに、数人のギルドメンバーが集まっていた。
テーブルの真ん中には豪快に調理された何かの肉の塊と、野菜の山が大皿に雑に盛られていて、五人ほどのギルドメンバーがそれを争うように喰っていた。
「お! ルカじゃないか!」
よぉッ、ダンジョンはどうだったか?
一番手前の位置に座っていたダズが僕に気づき、嬉しそうに声をかけてきた。
「あ、どうもダズさん」
ダズの声に釣られて、他の四人も僕の方を見る。
あ、ゼノビアさんが居る。
残りの三人は……えっとたしか「ユリアン・フィツロイ」と「ケイティ・グリーン」と……
「やぁルカ君、俺とは初めましてだよな」
俺は「ジェローム・ガスコイン」よろしくな、一番年少っぽい戦士がそう言って手を振ってきた。
「どうも、初めまして」
とりあえずお辞儀を返しておく。
「おいおいルカ、そんな所で畏まってないでこっち来い。一緒に飯を喰おうじゃないか」
ダズはそう言って手招きをした。
うっ。
図書館に行きたかったんだけどな……
だがギルドマスター命令となっては仕方ない。
僕はため息を押し隠す様にすると、大人しく一番近くの空いてる席に座る。
右にダズさん、左にジェローム、正面にゼノビアという配置になった。
「それで、ロナとのパーティはどうだった」
ノコギリのような物々しいナイフで肉を切り分けながら、ダズは僕に尋ねる。
「あ、はい。いろいろ手取り足取り指導してくださって、非常に助かりました」
「レベルはどうだ?」
「1上がりました」
「おぉ、早いね。やっぱりパワーレベリングは良いな」
その肉は妙に硬く、半ば力技で強引に引き裂かれていく。
なんだろうコレ、なんの肉だ?
牛肉じゃない事だけは確かだ。
喰えるのか?
「パワーレベリング? えーじゃあもう二層にもぐってたり」
ゼノビアの左に座っていたケイティが、甘ったるい声で僕に絡んでくる。
「いえ、ずっと一層で戦っていました」
「あー連戦する感じかぁ、まぁ確かにそっちのほうが勉強にはなるかぁ」
勉強?
それは経験値とは違うのか?
僕はそんな質問を返そうと思ったのだが――
「ほら、喰え喰え」
肉の塊と大量の野菜が積載された皿が差し出され、僕は機会を逸してしまう。
「あ、どうもありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
……一応、不味くはなさそうだ。
とりあえずフォークを突き刺し、なるたけ自然なそぶりで、一欠けら口に含んだみる。
不ッ味い!
泥臭ぇッ!
僕は吐き戻しそうになるのを必死に堪え、野菜を大量に掻き込み無理矢理飲み込む。
なんだこの肉。
一瞬エビっぽい味がしたかと思ったが、直ぐに泥そのものみたいな強烈な……。
慌てて周りのみなさんの様子を伺うが、僕の反応を別段面白がる様子はない。
なに、これってそういう食い物なの?
付け合せの野菜がやたら大量なのはこれが理由?
「でだルカ、君の身元の事なんだがね……」
ダズは何事もなかったかの様に、酷く動揺している僕の内心に気づく様子もなく話を続ける。
「……すまないが、まだまだ時間がかかりそうだ」
正直な話、何一つ情報が出てこないんだ。彼は酷く深刻そうな様子で僕にそう告げた。
「いえ、いいですよ、そんなわざわざ」
まだ泥臭い口の不快感に妨害されながらも、なんとか返事をする。
ってか、ずっと調査していたのか?
僕の素性の調査なんて無駄も良い所だ。
だって僕はこの世界の人間じゃないんだから、いくら調べたってなにも出てくる筈がない。
そんな事の為にギルドのお金や情報屋の労力が注ぎ込まれているのかと思うと……
「いや、いいんだルカ。君はそんな事に気を使わなくて、大丈夫君の苦しみはわかっているから」
「え?」
「憶えているのは自分の名前とレベルとジョブだけなんて、さぞかし辛いだろう? だから自分の素性を思い出すべく、無理をしてダンジョンに潜っているのだろう?」
はい?
何言ってるんだ?
ダズは妙に入れ込んだ様子で熱弁を振るっているが、見当違いも良い所だ。
「えっと、いや別にそんなつもりじゃなくてですね……」
僕のしどろもどろな反応に、ダズは少し怪訝そうな表情を浮かべる。
多分彼は、僕が涙を流して喜ぶとでも思っていたのだろう。
気の毒だ。
でも正直に言っておこう。
「僕は別に自分の素性は、どうでも良くて――」
「どうでもいいなら、なんでわざわざダンジョンに潜るんだ?」
なんでそんな大変な事をするんだ、彼に戸惑った様子でそう聞かれ、僕は答えに窮してしまう。
うーん、そういう返しをするんですかダズさん。
どうやらこの世界ではダンジョンに潜る「探究者」という職業は、よほどの物好きでもない限り就かないお仕事なのかもしれない。
もしそうだとしたら、僕の行動がかなり異様に映ったはずで、だから「素性を思い出そうとしてる」なんて風に見えてしまったのだろう。
「僕はなんというかその、ただ単純に好きなんですよ、ダンジョンに潜るっていう自体が」
ダンジョンに潜ることが好き。
実際にダンジョン攻略を生業にしてる人達の前で、そんな事を言うのは大分恥ずかしかった。
彼らはプロなのだ、生きていく為にマジメに毎日ダンジョンに潜って、真面目に戦ってる。
それをポッと出の僕が「好き」なんて言ってしまうのは、なんというか「何も知らない子供が『仕事って楽しそう』って無責任に言ってしまう」みたいな。
そういう恥ずかしさが……
と、そこで唐突にジェロームが笑い始めた。
それまで黙って黙々と肉を咀嚼していた彼が、唐突にケタケタと変な笑い声を上げたので、僕は少し驚く。
「うへへへッ、なるほどね、こいつは傑作だ」
彼は笑いながら、そんな要領の得ない事を言うと、大きく身を乗り出してダズの方を向いた。
「おいダズ、こいつお前と同じじゃん」
同じ?
「同じ? 何を言ってるジェローム」
ダズも僕と同様、彼の発言の意味を測りかねている。
「お前と同じ『夢追い旅』をしてんだよ、なぁルカ」
そう言って今度は僕の方を見る。
「夢追い旅……ですか?」
「うへへッ。いいか、そこのダズって奴はな。我らが偉大なるギルドマスター『ダズ・イギトラ』様はな……」
彼はそこで勿体ぶるような変な間を置く。
「……ガキの頃読んだ『エルシュ戦記』とかいう児童書に感銘を受けて。その主人公への憧れだけでレベル19にまで到達して、二六歳になった今でもまだ憧れてる変人なんだぜ」
笑えるよな、未だそんな英雄物語を愛読してるんだぜ?
ジェロームはそう言うと、また悪役みたいな笑い声を上げた。
――あ、なるほど。
ダズさん、ラノベっぽいの好きなんだ。
そういうのに憧れて探究者やってるのか。
おぉ、なんか凄い親近感。
「ジェローム、口が悪いぞ」
ゼノビアが結構強めの口調で彼に注意する。
「えぇ? あぁすんません。ジョークですよジョーク、いつもの軽口じゃないですか姐さん」
「私達はそれでいいが、ルカは別だ」
悪いね、コイツはいつもこんな具合で空気を悪くするんだ。
ゼノビアはジェロームを睨み付けながら僕を気遣う。
「笑うがいいさジェローム、『英雄』とは力であって、『力』とは『絶対』だ。絶対的な存在に憧れて何が悪い」
ダズは尊大にそう言って、余裕の笑みを浮かべる。
「うへッ、やっぱりマスターには敵わねぇな」
ジェロームは卑屈っぽく言うと、大人しく引き下がった。
――みなさん、なんかかなり仲好さそう。
普段からこうやって和気藹々としてるのだろうか?
僕は辺りを見渡すようにして、彼らのステータスを確認した。
―――
【名前:ダズ・イギトラ
レベル:19
ジョブ:狂戦士】
【名前:ユリアン・フィッツロイ
レベル:15
ジョブ:精霊魔術師】
【名前:ジェローム・ガスコイン
レベル:12
ジョブ:双剣士】
【名前:ケイティ・グリーン
レベル:17
ジョブ:神官騎士】
【名前:ゼノビア・カルルシャミ
レベル:15
ジョブ:召喚術師】
――――
みんなレベルが近い。
やっぱり、この人達はパーティか。
多分、このギルドで一番強い精鋭のパーティなのだろう。
「で、結局ルカはジェロームの言う通りなのかい?」
と、カチャカチャとフォークとナイフを鳴らしながら、ユリアンも会話に参加してきた。
「あ、はいそうです」
もう先ほどまで感じていた「恥じ」は微塵も残っていない。
だってそれは、「ダンジョンに憧れている」という思いは、ギルドマスターと同じだったのだから。
「へぇ、じゃあ『十四層攻略組』にも興味が――」
「ちょっと、ユリアン!」
ゼノビアが彼の言葉を遮るように声を荒げた。
ユリアンはそれに怯んで言葉を止める、が何故か彼以上にケイティの方がゼノビアの警告に驚いていた。
「えー、なんでそれを言っちゃだめなのぉ?」
「いや、別に駄目という訳では……ただあまり安易に彼の様な初心者に伝えるべきではないと」
「変にその気にさせて、怪我させても悪いしな。くぁー優しいなぁ姐さんは」
ジェロームはそう茶化すような、太鼓持ちをするような、どちらとも判断の付け難い合いの手を挟んだ。
……この人達は一体何の話をしているんだ?
十四層攻略組って、先刻のオークションハウスで一瞬話題になったよな。
たしか、十四層攻略組から外れてる、みたいな事をゼノビアがロナに言ってたような。
「じゃあ、ここは一つ試してみようか」
ダズはそう宣言らしき言葉を発すると、僕の方を見ながら席を立った。
そして大テーブルのから数歩ほど横、若干開けた場所に歩いていく。
え? 何?
何が始まるの?
「ルカ、ちょっとこっちに」
そう言ってダズが手招きをした。
僕はとりあえず席を立ち、言われるがままに彼の元へ向かう。
「ルカ、俺から五メートルほど離れた位置に立ってくれ」
5メートルってどれくらいだっけ?
とりあえず五歩、彼のダズのもとから離れる。
「あぁそれで良いよ」
と、そこでダズは背中に背負っていたクレイモアの様な大剣「レインメーカー」をいきなり抜刀した。
え? なに?
なに? なに? なに?
「よしルカ、エレキを一発俺に撃ってみろ」
はい?
今なんて言った?
「え? ダズさんこれは一体?」
「君の魔剣士としての実力を確認しておこうと思ってね。遠慮はいらないぞ、この大剣には魔法耐性があるからな」
そう言って刃を横にして、盾の様にレインメーカーを構える。
どういうことだ?
なんでこんな展開になってるんだ?
魔法を撃ち込めって、本当にそんな事をしていいのか?
状況が全く理解できず、僕は軽いパニック状態になりかける。
が、これ以上ここでまごまごしていると、なんだか準備万端で僕の攻撃を待っているダズに申し訳ない気がしてきて……
「安心しろルカ、レベル2になったんだろ? きっともうマジックバーストはしないさ」
する可能性もなくは無いけどな、ジェロームが楽しそうに茶々を挟む。
「わ、わかりました」
僕はとりあえず自分のステータスを確認する。
――――
魔法スキル
破壊(5)
神聖(3)
変性(6)
――――
大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのか?
テーブルのギルドメンバー達が期待の籠った視線を僕に注いでいる。それが何故か判らないがとても辛い。逃げ出したくなる。
ええい、もう知らない。
どうにでもなれ!
「行きますよ……エレキ!」
僕は半ばヤケクソ気味に魔法を唱えた。
瞬間、あの時と同じように自分の右手に何かの蓄積を感じる。
そして……
【詠唱成功】
細く鋭い紫電が指先から迸る。
それはダズ目がけ一直線に――
バチッっという張りつめた音が鳴り、僕の雷撃はレインメーカーによって受け止められた。
紫電は蛇のようにその両手剣の刀身に巻き付いたかと思うと、巨大な炸裂音と共に小規模な電撃の爆発が巻き起こった。
「おぉ!」
ソフトボール大のスパークをもろに浴びたダズが声を上げる。
首元の鱗の一部がわずかに紅く焼け、嫌な臭いが微かに漂った。
「だ、大丈夫ですかダズさん」
「心配するなルカ、ちょっと熱かっただけだ」
彼はそう答えると、まだ僅かに帯電している両手剣を地面に軽く突き刺し、放電させた。
今のが、僕のエレキ?
最初に唱えた、マジックバーストとかいうのをした時に比べると大分威力が落ちている様ではあったが……。
「どう思う、魔術師のお二人さん」
ダズはゼノビアとユリアンの方を向いて問いかけた。
「今のが本当にレベル2のエレキ? いや凄いな」
ユリアンが感心した様子で答える。
「随分原始的な『発現』だな、まるで雷魔法の性質そのものじゃないか」
ゼノビアはそう言って、鋭い視線を僕に向ける。
「ルカ、貴様はその魔法を誰に習った?」
「え、いや、それもその――」
「それも憶えていない――か、面白い。なるほど、あの引き籠りが入れ込むわけだ」
彼女は一人納得したようにそんな事を言うと、意味深に微笑んだ。
引き籠りって誰の事だ?
僕に入れ込んでるって……ロナの事?
「魔法火力は平均以上にあるようだ、将来良い探究者になるぞルカ」
ダズは満足げな笑顔で言うと、僕の肩をバシバシと叩く。
「……そうは言っても、所詮低レベルの火力だ、まだ高階層での実践に耐えうるレベルではない」
厳とした口調でゼノビアが釘を差す。
わかっているさと一言、投げやりな言葉をもって返事をするとダズは再び僕に視線を戻した。
「来月、俺たちは十八人の大所帯で、十四層を攻略して未踏査の十五層へ乗り込むつもりだ。それまでにレベル5まで上げておけ、途中までは引きつれてやろう」
お前も興味があるだろ? 誰も見たことのない、未開の階層。
ダズは僕の顔を覗き込み、その反応を伺う。
――自分の心臓が、ドクンと一つ強い鼓動をしたのを感じる。
「未開の階層」その単語は、僕の心を引き付けるに十分な魅力があった。
誰も行ったことのない、誰もがたどり着いたことのない。
「がんばります」
僕は無意識のうちに両の拳を握りしめながら、威勢よく返事をした。
【レインメーカー】
武器―両手剣―レアリティ:レア
概要:D45 重量21 魔法耐性+10
備考:太古に作られたと思わしき大剣。
元はごくありふれた物だったようだが、その名の由来を忘れ去られるほどの年月を経て、不思議な力を備えたようだ。




