安寧と懐柔 2
ロナとの話を終えて執務室から出ると、まるで僕を待っていたかのように壁に寄りかかるユリアンの姿が目についた。
僕は少し緊張する。
彼とはほとんど交流が無かった、多分僕に対して良い感情を持ってないだろうギルドメンバーの一人だ。
恥ずかしい話、僕がここでまともに会話できるのは「ロナ」と「ダズ」と「ジェローム」と、あとはせいぜい「ウルミア」ぐらいだ。その他大勢の所属メンバーからは微妙に距離を置かれている。
ハルヴァーさんに至っては露骨に嫌悪感を示してる。
「ハーイ、ルカ」
まるで僕が旧来の友人かの様な声掛けをされて、僕は目が泳いでしまう
「あ、どうもこんにちはユリアンさん」
彼はニコニコと微笑みながら近寄ってくる、意図が読めなくて割と怖い。
「ロナから裂月の変の報告を受けてたの? どう理解できた?」
この質問は僕をバカにしてるわけじゃない、それだけここ数日間の僕は退行著しくまともに物を考えられない状態だった。
「一応……多分、軍部の話はだいぶ省いてもらったので」
「あーなるほど、気が利くね彼女」
もっとも、軍だの連合だのの話は退行前の状態で聞いても理解できなかったろうが。
「体調の方はどう? だいぶ元気そうだね」
そう言いながら労るようにそっと僕の肩に手を掛ける。
何なんだ一体、何がしたいんだこの人は。これまでと明らかに違う態度に僕は戸惑う。
「えっと……はい、おかげさまで。あ、えっと、あの日、ウェイストウッズに助けに来てくれて本当にありがとうございました」
「え? アッハハハ、なにをそんな。俺たちは仲間じゃないか、同じギルドの一員だろ?」
ずっと僕の事を無視し続けていた男が、意味のわからない事を言っている。
少し怒りにも似た感情が沸いてきたがそれをグッと堪える。
「ところでだ、ルカ。今日の夜空いてるか?」
「はい?」
「なんか夜予定入ってる?」
「……いえ、特には」
そんなものは無い。「予定が入ってる」なんて言葉は産まれてこの方、現実世界でも使った事がない。
「じゃあ夜飲みに行こう、決まりな。10時に部屋に迎えに行くから」
「え?」
飲み?
え、なにそれ。
打ち上げ的な? そういう文化この世界にもあるの?
「じゃ、そういう事でティトにも伝えといて。あとこの話はロナには内緒な、頼むぜ」
彼は僕の肩をパンパンと強く叩きながら勝手にどんどん話を進めていく。
「いや、あの、僕はそういう――」
「あ、まだ酒は入らない? じゃあその辺も考慮して店選んどくから。それじゃバーイ」
断ろうとしてる雰囲気を察したのか、彼は勝手に会話を切り上げてそそくさと立ち去っていく。
僕はそれを呆然と見てることしかできない。
……飲み会、確かにそういう流れなのかもしれない。ウェイストウッズでの騒動を無事収められたから、それに対する労いの宴会を開くのは普通の事なのかも知れない。
ひょっとしたら、僕の事をこのギルドの人達が受け入れようしてくれてるのかも知れない。今回の一件を評価してくれて、それで――
「でも『ロナには内緒』かぁ」
つぶやきながら自室へとトボトボと歩き始める。
内緒ってことは、当然ロナは不参加なんだろう。ダズも謹慎期間中だからきっと不参加、ジェロームもまだ療養中らしいし不参加だと思われる。
つまり、想定できる参加者の中でまともにコミュニケーションが取れそうなのは「ウルミア」だけ。その彼女だってなんだかんだで僕を面倒臭がる。
「居場所無さそうだな……行きたくないな」
部屋の済で縮こまってる事になるかもしれない、そんな悲観的観測が僕の中で渦巻く。
なんだって異世界転生してまでこんな胃の痛い思いをしなくちゃいけないんだ……
「どうしたのじゃ、暗い顔をしおって」
通路の向こうから大声、ティトがお菓子を頬張りながら近寄ってくる。
「ティトさん、お菓子は部屋か広場で座って食べる。そういう約束でしたよね」
言いながら僕は彼女から袋を没収しようとする。
「嫌じゃ、儂は今食べたいのじゃ」
以前なら体格差を活かして簡単に奪えた。でも今の退行した僕は思ったより運動能力が低下していて、あっさりと躱されてしまう。
「ちょっと、ティト、いい加減に」
「それよりもじゃ、何をそんなに暗い顔しておるのじゃ、ロナにイジメられたのか?」
「違いますよ」
……まぁ、最悪ティトと話してればそこまで気不味くはならないだろう、大丈夫だきっと。
そう無理矢理自分を励まして、覚悟を決める事にした。




