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結線と結末 4

「立て、リスベット」

 彼女はもう立ち上がれなかった。

 右腕はへし折れ、砕けた肋骨は内臓に当たり、左の足は歪んでいた。

「……終わりか、口ほどにも無い」

 チャズマは野良犬の死体のような少女の体を蹴り飛ばし、仰向けにする。

「なにが愛だ、偉そうな事を言ってもなにも守れはしないんだな」

 ブージを逆さに構えて、刃を彼女の顔面に突きつける。

 そして静かに降下する。

 リスベットは弱弱しく両手を上げ、その刃を掴んで迫る死に抵抗をする。

 チャズマはゆっくりと体重をかけ、彼女の顔に突き刺していく。

「味わえ、薄汚いメス犬に突っ込まれる最後のチンポだ」

 刃がじっくりと彼女の手のひらを切り裂き、顔の皮膚を貫く。

 リスベットはろくに抵抗することができない、彼女の体はもはや生きる事さえやっとの状態だった。

 刃が頭蓋骨に到達し、その白い骨に圧がかかる。


「――『何故の抵抗』『何故の現世』、黒紫電流(ナイトメアカレント)


 詠唱の声。

 とっさにチャズマはリスベットの上から離れる。そして飛んで来る黒く濁った紫電を回避した。

 ブージを構え、その魔法をの撃ち手を見る。

「……なんだ、コイツは」

 チャズマの見つめる先、広場の中央にはグロテスクな怪物が立っていた。全身が水疱で覆われて肉という肉がグズグズと垂れ下がる、人のような形をした何かが……

「『何故我に縋る』『何故我を守らぬ』、汚穢の(サークルオブ)加護(ヴェノム)

 怪物の肩についた大きな傷のような口が詠唱を行う。するとその口は大量の黒い液体を吐き出し、それが彼の体を包み破れた皮膚を補っていく。黒い液体はさらに漏れ続け、彼の背後に溜まり長大な影となる。

 リスベットは顔を傾けその光景を見た。そして何が起きてるのかを理解する。

「る、ルカ、魔力液を……の、飲んだの? マインドオーバーロードして、る」

 影が体に纏わりつき、欠損した腕を再生していく。意識が乱れてるのか腕は綺麗な人間の腕ではなく、不気味な多関節の物へと、壊死と成長を繰り返しながら再生される。

 腕だけじゃない、体のありとあらゆる細胞が死と再生を繰り返している。

「不死か、それとも擬似的な物か――」

 チャズマはブージを構え直し、かつてルカだった物と向かい合う。

「――生きたまま火にくべて確かめるか」






 曖昧だった意識が形を成していく。脳が、神経が、少しずつだが僕のこの異常状態に適応しつつあるようだ。

 駆け寄って来るチャズマに備えながら、僕は自分のステータスを映し出す。

【名前:ルカ・デズモンド

 HP:1/1 MP:1012/92

 ジョブ:魔剣士

 レベル6

 筋力:1 技量:1 知覚:1 持久:1 敏捷:9 魔力:16 精神:11 運命:5

 状態異常:マインドオーバーロード(深度8)

      薬物中毒(深度7)】

 これは推測だが、マインドオーバーロードはマインドクラックと対の状態異常ではないだろうか?

 マインドクラックはmpが負のオーバーフローをした時に発生する状態異常で、精神が崩壊して記憶が失われる物。

 そしてこの「マインドオーバーロード」は、mpが正のオーバーフローをした時に発生する、肉体が崩壊してフィジカルのステータスを大きく損なう物ではないのだろうか?

 黒い棺(ブラックコフィン)の燃料は魔力の濃縮物だった。それを過度に摂取した今の僕はmpが「1012/92」なんていうバグった状態になって……

「『何故歌わぬ』、『何故悦ばぬ』、闇哭(ディグ)!」

 ……つまりほぼ無限に魔法が使える。

 チャズマの大振りの斬撃を、影から生やした棘で弾く。

「『穿け』、『穿て』、雷の槍(エレキピアサー)

 生やした棘の一本、その先から紫電を放つ。

 だがチャズマは返す刃でその魔法を受ける。金属製の刃に電流は全て吸われ、彼女の体には届かない。

「お返しだ」

 そのままチャズマは雷を纒った刃を僕の体に袈裟斬りに叩き込む。 

 ガキッという耳障りな音がなる。

 僕の肩の口がその歯でブージに噛みつき、斬撃を受け止めてみせた。そして僕は咄嗟に肩を自切する。

 次の瞬間、刃が貯め込んでいた電気を放電し、噛みぶら下がった僕の肩を焼き切った。

 直ぐに二歩下がって間合いを取り、影を使って肩を再生させる。

 最初は異常に筋肉が発達した物が生成された、しかし筋繊維が肥大化し過ぎて血管を圧迫、鬱血して直ぐに細胞が死亡して剥がれ落ちる。そして次に再生されたのは骨組織が異常に複雑化した肩、可動域が極端に狭くなったが動きはするので採用、体に定着させる。

 「『何故その返歌は忘れらるる』、死線の(シャドウ)綻び(グレア)

【詠唱失敗

 スキルが足りません

 死線の(シャドウ)綻び(グレア)

 詠唱可能条件

 闇魔術(10)


 マジックバーストが発生します】

 強烈な痛みが走り、僕は黒い体液を噴水のように大量に嘔吐する、マジックバーストの反動だ。

 そして肩に亀裂が入り、それが開き口となる。「ギャハハハ」と笑いながら軟骨で作られた舌をだらりと垂らす。

 これまで消費mpの問題で使えなかった闇魔法や古代魔法をいくらでも唱えられる。一応唱える度にスキル不足でマジックバーストが発生して酷いダメージを受けるが、直ぐにその傷を不死の力が癒す。

 無限の魔力、無限の命。

 負ける気がしない。

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