撃滅と殲滅 2
相手は二人の戦士、武器は二人とも剣。
僕は素早く、手足を縛られたリスベットに近い方の敵へと駆け寄る。
「『駆けろ』―― 雷襲!」
刃を振り上げ、素早い一閃を放つ。相手はその一撃を回避できない。
血の飛沫、男の悲鳴、切り飛ばされた相手の右腕が宙の待った。
僕はそのまま返す刀で相手に袈裟斬り叩き込んだ。
肩から刃が食い込み、胃の辺りで止まる。コボコボと口から血を吐きながら相手は絶命した。
……まずは一人。
そう思った瞬間、胸に熱い痛みが走った。見ると体の中心から刃が突き出ていた。
もう一人の戦士に、後ろから胸を刺されていた。
「ガキが死ね!」
相手が刃を引き抜こうとする、僕はそれを素早く握る。
「――付呪:雷槍」
強力な電流がその剣を伝い、背後の男の全身へと流れ込む。男の両手は炭化して崩れ、悲鳴をあげながら後退する。僕はそれを振り返りながら斬りつけ、頭部を刃で切断した。
処刑台の周囲の人々の動揺が聞こえる。彼らは困惑し、僕を恐れ始めた。
当然だ、突如空から降ってきた僕の胸には刃が突き刺さり、そこからは大量の血が流れ出ているのにピンピンしているのだ。これほどの劇的な登場があるだろうか?
「ルカ……貴方、どうして」
リスベットの声がした。
僕は胸の剣を引き抜き彼女の方へと投げる。
「貴女を助けに来ました」
リスベットは直ぐにその剣を拾い、自分の手を拘束していたロープを切断する。
「『助ける』だと? お前はバカか――」
見ると処刑台の端にチャズマが立っていた、どうやら何時の間にか登ってきていたようだ。さらに4人の部下が彼女の左右に並んでいる、処刑台を取り囲んでいた戦士たちも続々と台の上に登り始める。
「――この広場に、何人の民族解放戦線の同志が居ると思っている?――」
チャズマは勝ち誇ったような、サデスティックな色に富んだ語り口で僕らに宣言する。
「――87人の戦士をたった二人で相手にする。そんな覚悟がお前達にはあるのか?」
リスベットが足の拘束も解き、立ち上がる。
僕は倒れている老人、ナドラ・ドラギーユに肩を貸して無理矢理起こす。
「いいえ、ありません。でも貴方たちこそ、覚悟はできてるんですか?」
僕がそう問いかけるのと同時に、広場の隅が騒がしくなる。
最初は困惑の小さな声、それが直ぐに大きくなり悲鳴も混ざる。
チャズマが振り返り、その騒動の方角を見る。
広場から南方向に伸びる道、つまり留置場へと繋がるその大通りから、群集が押し寄せてきていた。
鋼鉄の防具と武器で武装した謎の群集、そしてそれを率いてるのは、全身にタトゥーが刻まれた色黒の奇妙な少女だった。
「私の声を聞きうる全ての高潔な魔血の民達よ!――」
その少女は、ティトは、大音声を広場に響かせる。
「――諸君! ついに4日にも及ぶ忍耐と暴虐の歴史が終わるときが来た――」
ティトに付き従う群集は、彼女のアジに喚起の声を上げる。
「――今日この日をもって、我々はかつての自由と尊厳を取り戻す。そして醜き奴隷共に裁きを与えるのだ!」
彼女はそう言うと手に持った刃を構え、広場を指し示した。
群集が走り出す。武器を右手に、盾を左手に、口に魔法を唱えながら。
チャズマが僕を睨む。
「ルカ! お前まさか!」
少女が引き連れてきたのは、留置場から解放したイベルタリアン達だった。
「覚悟はいいですか? 怒り狂った元ご主人様ご一行のご到着ですよ」
チャズマが広場のワンダラー達の方を向く。
「全員戦闘準備だ! イベルタリアンを一匹残らず殲滅してやれ!」
「撃滅せよ! 思い上がった奴隷共に本当の差別を思い知らせてやるのじゃ!」




