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祈りと決意 3.5

 ギャーッというティトの悲鳴が、通路の先から聞こえた。

 僕は走りながら右手に魔法を込める。

 ティトは何故か何度言っても自分が「モンスター」に襲われてるのか、「トラップ」に引っかかてるか教えてくれない。今みたいにやかましい悲鳴を上げるばかりだ。だから僕はこうして万全の体制をいちいち取ることになる。

 ダンジョンの暗がりからティトと、彼女に悲鳴を上げさせてる物が浮かび上がってくる。

 それは植物でできた人間だった。細く歪んだ「ねじれ木」が体の中心にあり、それに蔦植物や蛇が巻き付いて人の四肢のように振る舞ってる。頭部には巨大なバラのような蕾があり、見るからに毒々しい花粉を放出している。

 右足でティトを踏みつけ根で絡み取り、吸収しようとしていた。

「ジェロームさん、ドライアド族です――」


【名前:ラブスルスカン

 レベル:8

 評価:強そうな相手だ

 考察:攻撃力の高そうな相手だ】


「――それもラブスルスカン」

 またこいつか……もうこの階層だけで3体目だ。

 ティトのやつ、どうせまた壁の中から奇襲を食らったのだろう。

 迫る僕に対して、ラブスルスカンは頭を激しく振り回し、大量の花粉をばら撒く。

 異様な刺激臭があたりに広がる、目と鼻を破壊する厄介な毒粉だ。でも僕は右目だけを閉じて、一切躊躇することなくその毒の中に突っ込む。

 強烈な刺激に左目と鼻を瞬時にやられるが問題ない。僕は剣を大振りで振り上げ、ラブスルスカンの弱点「ねじれ木」のある体の中心を狙う。

 相手が動いた気配があった、右目を開き敵のアクションを確認する。

 ――防御、両の腕を体の前でクロスしてる。

 行ける!

「ティト! 今だ沈め!」

 僕は剣を振り上げながら叫ぶ。それに反応してティトの体がぐんにゃりと溶けて影に沈む。そして、彼女を吸収しようとしていたラブスルスカンの足も、巻き込まれるように影へと吸い込まれる。

 斬撃が当たる手応えがあった。だがそれは弱点の胴体を守るラブスルスカンの腕の物ではない、首だ。足を取られ、姿勢を崩した敵の首を僕の刃が撥ねた。

 巨大な花の蕾が切り飛ばされて転がる。

 僕はそれを蹴り飛ばしてさらに遠くへやると、ラブスルスカンの横をすり抜けるように離れ、距離を取る。

 根本とはいえ蕾を切ったせいか、右目の視力まで毒によって殆ど奪われていた。

 だから頭を無くした不格好なドライアドが、全身をギシギシと鳴らし怒り狂っていて、影に食われた右足を自切して、僕を打ち倒そうと立ち上がってる様子も、いまいち良く見えていなかった。

 でも問題ない。

「ウェへへ、完璧だよルカ君――」

 そこにジェロームが……毒花粉が雲散霧消するのを待っていたジェロームが突っ込んでくる。

「――『死に晒せ』、内蔵抉り(エヴィサレーション)

 ラブスルスカンの背後から高速の突きを放ち、そしてねじれ木を体外へと引きずり出した。

 敵は最後の断末魔と共にグズグズと崩れ落ち、ただの植物と小さな蛇の固まりになる。

「良くやったな二人共、最高だよ君たち」

 ジェロームはねじれ木を切り刻みながら、僕らへ惜しみない称賛を送る。

「き、気持ち悪かったのじゃあ。吸収されるのは最悪なのじゃ」

 ティトはいつの間にか僕の影から出現していて、その場でえづいている。今にもゲロを吐きそうだ。

 僕はさっさと自分の目を再生させながら、体についた残りの花粉を払う。

「良いペースですね、今四層で、夜明けまであと10時間はあります」

「あぁ、全部君たち二人のお陰だよ。どんどん行こう」

「貴様らは鬼か!」

 ティトが大声で抗議する。



 ――ダンジョン進行はかなり順調だ。

 僕らの「不死」の能力はかなり強かった。

 再生には一切のリソースを必要としない、足りない体積は影の欠片が補ってくれる。例え体の大半が消失しても完全に元通り復活することができる、チートも良いところだ。

 一応復活には「mpは回復しない」、「hpが0になると自動的に発動、hpが1に戻りそこから秒間3ぐらいの速度で回復、1でもダメージを食らうと回復は停止」、「復活はhp0になったときのみ発動」、「損傷が進むほど回復速度は上がる」などと、細かなルールはあるっぽいが……

 まぁとにかく便利なアビリティだ。

 便利すぎる。

 どんなに強く厄介な敵だろうと、僕やティトに致死量ダメージを与えると油断する、死亡を確信して注意を完全に怠る。そしてそれを利用した奇襲は、必ず成功する。

 クソゲーだ。

 それこそ最強系ラノベ主人公並みの卑怯さだ。

 この世界に来て初めて戦闘に役立ててる気がする。

 初めて、憧れのラノベの主人公っぽく戦えてる気がした。

 気がしたのだが――


 それも五層中盤までだった。

「グェッ!」

 僕は壁に叩きつけられる悲鳴を上げる。

 内蔵がボロボロになるような強烈なパンチだった、僕はそのまま倒れ込み起き上がれなくなる。

 トード族のモンスター「メイジトード」が悠々と僕に近づく。

 体長は2m弱で、青いローブに樫のような木製杖をもった大ガエル、そんな如何にも後衛な外見の敵に、僕は物理で負けていた。

 ティトはその足元に転がってる。拘束魔法に囚われて、まな板の上の鯉のようにビチビチすることしかできなようだ。

 僕は落としたスパタを拾い上げてなんとか立ち上がる、トードは何か魔法の詠唱を始めていた。

 させるか!

 僕は走り、電撃(エレキ)を付与した斬りと叩き込む。が、簡単に杖で防がれてしまう。

 くっそが。

 相手の武器が鉄製なら、通電でダメージを与えられるのだが、生憎木製で効果が薄い。

 雷襲(ブリッツ)もさらに重ね、素早く剣を振り、ニ撃目はなんとかトードの体に突き刺すことに成功した、が。

「くっそ抜けねぇ!」

 トードが刃を右手で刃を握りしめ、万力のような力で固定してる。そして足を振り上げ。

 腹にまた強烈な衝撃。トードの全力の蹴りをもろにくらい、僕はスパタを手放して無様に転がる。


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