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祈りと決意 3

「感傷に浸るのその辺にするのじゃ、儂らには時間がないのじゃからな」

 ティトの声で僕らも意識を差し迫る問題に戻す。

「あぁ、そうだな」

 言うとジェロームはダンジョンの封鎖されたドアを蹴り破る。

 同時に中からを大量の風が吹き荒れる。

 強い風だ、音も大きい、塔全体が風の通り道になっているのかもしれない。

 ジェロームが中に足を踏み入れる、僕達もあとに続く。

 入ってすぐの部屋は「中央の呪城」の「玄関」と呼ばれる物とほぼ同じだ。ダンジョンの出入り口に後付で人が付けた建造物で、探求者証明書の提示や簡単な食料の販売、治癒術師やオークションハウスまでの輸送屋なども待機してる空間。

 当然だが、今は無人だ。誰もいないダンジョン管理組合の受付や、散らかったパーティー募集の掲示板などが寂しさを演出している。

「ふぅむ……」

 ジェロームが何か気になる物があったようで、売店の方に近づいていく。

「何をしておる、急ぐのじゃー。夜明けまであと15時間程度しか無いのじゃぞ」

 二時間で一階層、リスベットさんから地図を貰っているとは言え、未経験のダンジョンをそのペースで攻略するのはなかなかに無謀だ。

「いや……なんか『食料がなくなってんなぁ』と思ってね」

 彼は言いながらカウンターの上に空の携帯食料の空き箱をどんどん積んでいく。

「そんなのどうでもいいじゃろ、どうせワンダラーが略奪したんじゃ」

「いやぁ腹ごなしでもしながら、話そうかと思ったんだが――」

 言いながら、彼は売店のカウンターを飛び越えてくる。

「――まぁ無いもんしゃーないな。よっし、ルカ君、一応ダンジョンの攻略方針を伝えておきたいと思う」

「はい」

 何か策があるのだろうか?

「よっしゃ。まず大前提の確認だけど、普通の潜り方をやるのは駄目ね、時間的にも戦力的にも持たない。だから俺達は、俺達ならではの手法で潜る……いや、登る必要がある」

「もったいぶっとらんで早く言わんか」

 ティトが焦れて叫ぶ。

「うぇへへ、じゃあ結論から言う。ルカとティトには悪いが、君たち不死の二人には捨て駒になってもらう。まずはティト――」

 言って少女をビシッと指差す

「―――君が先頭を走れ、全力で走るんだ。そして罠という罠に引っかかり、敵という敵に先制攻撃されろ」

 ティトが悲鳴のような声で抗議する。

 だがジェロームは意に介さず続けて僕を指差す。

「ルカ君、君はティトの後ろを走ってくれ。ティトが罠に引っかかってれば解除、敵が居ればティトと強力して場を整えておいて欲しい。ダメージは無理に与えようとしなくていい」

「で、最後にお前さんがゆうゆうとやってきて止めか? ふざけるのも大概にするのじゃ!!」

 ティトはカンカンだ。まぁ気持ちも分からなくは無いが、僕はジェロームの案に反対するつもりはない。

 僕達三人の中に、まともな治癒魔法を使える人はいない。だからジェロームはもし重症を負ったら、その瞬間彼は離脱確定になってしまう。でも僕らは違う、僕とティトは自己再生ができる。

 アビリティ「不死」への信頼を全面に特攻戦略はかなり精神的に来るものがある、が今はそんな贅沢を言ってられない。

「うぇへへへ、まぁーティトの気持ちも分かるがこればっかりは我慢してくれ。五層以上の敵には君達じゃダメージを入れられんし、七層は俺でもキツい敵が湧くだろう。だから考え得る最善手で進行したい」

 ここは一つ、頼むよ。軽い口調で彼はそう言ってみせる。

「ティト、終わったらお菓子を山ほど買ってあげますよ、ね? だからやりましょう」

 僕だってこの攻略法には不満だ。結構色んなラノベを読んできたが、こんなマラソンみたいな馬鹿げた手法をやってるのは読んだことがない。

 ダンジョン攻略パートっていうのは、パーティーの仲を感じさせるような、互いが互いを補い合うコンビネーションの場面だ。なのになんだこの手法は……

 完全な個人プレイのゴリ押しだ。まったく魅力的じゃない。

 だが、仕方ない。

 今はそれしか手は無いし、そんなワガママを言ってる場合じゃない。

「ティト……頼むよ、ガキっぽい真似は止してくれ」

 少女はそれでキーキー喚くのをやめ、仕方なくといった様子で顔を上げてくれる。

「よし、行きましょう」

 ティトの気が変わらないうちに、僕は急いで第一階層へと繋がるドアを開く。

 強風と植物のダンジョンが、そこには広がっていた。

 壁という壁は錬られた木々の根で作られ、刺すように冷たい風がその間を駆け抜けている。

 湿り気と黒曜石で作られた陰気な「中央の呪城」とは違い、生命力を強く感じる。根の壁をよく見ると、ところどころ大理石が覗いていて、かつては普通の構造物だった事が伺えた。

 ……なるほど「廃域」か。

「ここは鳥っぽい敵と、植物っぽい敵と、カエルっぽいのが多いって聞いたな、まぁそういうのに注意な」

 ジェロームがまったく参考にならないアドバイスを言う。

「ティト、始めよう」

 彼女はなかなか迫力ある目で僕らを睨んだ。

「この仕打ち……許さぬからな……いつか百倍で返すから憶えておくのじゃぞ」

 そんな捨て台詞を吐いて、少女は走り出す。

 僕も五秒遅れて彼女を追う。

 さらに遅れてジェロームも続く。


 ダンジョン攻略が始まった。

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