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ダンジョンと主人公 3

「記憶が無いだと?」

「はい、何も憶えてないんです」

 ――目が覚めたらいきなりダンジョンの中に居て。自分のこともこの世界も何一つ記憶になかった。

 一応そういう設定で僕は話を進めることにする。

 目の前に座る大柄の黒いリザードマンは、困った様子で首を傾げ尻尾をせわしなく左右に振った。

「やれやれ、それはまた大変な。精神攻撃を受けたのか? いやしかし第二層にそんな大技を使う敵はいないよな。新種のネームドモンスターにでも襲われたか……」

 彼は険しい顔でブツブツと何かを呟いている。

 そうやって僕の身を案じ、真剣に考えてくれている彼の姿を見ると。

 僕はなんというか、とても居た堪れない気分になってしまった。

 ――こんな親切な人に、さっき僕は剣を向けたのか。

 状況が状況で仕方なかったかもしれないが、僕はそう割り切れる程に肝の座った人間ではない。

 罪悪感、それと自分の不甲斐なさで胸焼けする僕に彼は質問を続ける。

「自分の名前も憶えてないのか?」

「え?」

 答えに詰まる。

「名前だ、お前の名は?」

 僕の名前。

 そっか、僕が自分で自由に決めていいのか。

 昔の名前なんて捨てよう、せっかく転生したのだし。

 どうせだから、えーっと、そうだな……

「えっと、『ルカ』です。それだけは憶えていました」

 現実世界で気に入っていたRPGの主人公の名前を選んだ。

「『ルカ』か、変わった名だな――」リザードマンはそう言うと椅子から腰を浮かし、僕に手を差し伸べて握手を求める「――俺は『ダズ』、ダズ・イギトラだ。一応この探究者ギルドのマスターを務めている」

 慌てて手を伸ばして握手に応じる。

 こういうのに不慣れな僕はちょっとぎこちない動作になってしまった。

 だがそんな僕の様子に構うことなく、彼は繋いだ腕を乱暴にぶんぶんと振った。

「よろしくな、ルカ」

「は、はいよろしくお願いします」

 細やかな竜鱗で覆われた彼の手は、意外としなやかな質感で、肌触りが良かった。

 いろいろ思う所のある握手が終わると、ダズは再び椅子に腰を下ろし、ニッと僕に笑いかける。

「それで、お前の方から俺に何か聞きたいことは?」

 僕の気を楽にしようと微笑みかけてくれているのだろうが、真っ赤な歯茎と鋭い牙が覗く彼の微笑みは怖かった。

「えっと、先ほど言っていた『ロナ』さんっていう……」

「あー、彼女は今外に出てるよ。スタニフの情報屋にお前の身元を確認してもらってる」

「身元?」

「そう。レベル1の人間が一人でダンジョンに入れるわけないからな、絶対に同伴者がいたはずだ。それ関係の情報を調べてもらってる」

「え? どうしてそんな……」

 どうしてそんな僕について調べるのだろう?

 僕を――疑っている?

「そりゃ、お前をちゃんと同伴者の下、っていうか仲間の下に帰してやる為だよ」

 あー。

 彼は僕を疑ってなんかいない、純粋に僕を助けようと。

 このダズさん、本当に良い人なのか……

 僕のなかで罪悪感が再びグツグツと湧き上がってくる。

 やっぱ本当の事を言うべきなのか?

 多分このままだとこの人、本当に僕が記憶喪失だと思って全力で僕の素性を見つけ出そうとして……

「ふっははは、そんなを顔するなルカ。気に病む必要はない、こういうのも我々探究者ギルドの仕事の一つだからな」

 ダズはそう言って、快活な笑い声をあげる。

 これはマズい。

 彼はこの後きっと、僕の素性に関する情報が手に入らなくて焦燥してしまうかも。

 ……うーん、なんか違うな。

 僕の好きだったライトノベルではこういう展開は無かった。

 なんていうか、主人公の行動はすべて「絶対に他人に迷惑を掛けない、最終的に必ず感謝される」みたいな法則があったのだが。

 残念な事にあの神様、その法則をこの世界に再現してくれなかったようだ。

 閑話休題。

 こればっかりはどうしようもないので、ダズさんには苦労してもらう事にして――

「えっと、それから僕、少し外の空気を吸いたいのですが」

 ――街が見たい。

 きっとこのギルド施設の外に広がっているだろう、ファンタジーで異世界な街を。

「あーはいはい、そっちのドアから玄関に出れるから」

 でも大丈夫かルカ、お前はかなり消耗していたんだぞ? ダズはそう言って心配そうに僕の体をまじまじと見た。

「大丈夫です、お陰様で」

 僕はそう言ってもう一度深く頭を下げ、礼を言うと彼の指差したドアへと向かう。

 いってらっしゃーい、ダズはそう言って手をひらひらと振る。

 ドアの向こうはバカみたいに広い玄関だった。

 大量の剣が立てかけてある剣置き(?)や、雑然と脱ぎ散かされた防具の山、在中とかダンジョンとかそういう出先が掛かれた名札かけ。

 なるほど、確かにギルドっぽい

 いろいろ感心しながらも進み、ギルドハウスの出口へと手を掛ける。


 そして――


「うぉおおおおおおお? すっげ!」

 僕は思わず歓声を漏らす。

 探究者ギルドの扉を開き一歩外へ踏みでると、そこはまさしく王道RPGの街並みだった。

 木とレンガと石で造られたような建物の並ぶ巨大な街道、ルネサンス期直前な雰囲気の世界がどこまでも広がっていた。

 街道は多種多様な人々が行き交い活気に満ちている。

「すごい、すごいすごい」

 興奮を抑えきれない僕は、思わずその街道に飛び出る。

 すれ違う多種多様な人々。堅牢な重装備をガシャガシャと鳴らす人も居れば、薄手のクロークに身を包んだ戦士もいる。

 錦杖を持って歩く神官らしき人々の集団が居たかと思うと、背中に大荷物を背負ったキツネのような半獣の姿もあった。

 戦士、一般人、商人、そして人間と半獣、およそファンタジーの代名詞ともいえそうな人種たちが跋扈する幻想的な世界。

「すごい」

 もうそれ以外の感想が出てこない。

 ここは、この世界は、もう完全に僕が今まで居た世界ではなかった。

 僕を知る人なんて一人も居ないし、僕が知ってる人も誰もいない。

 今までの常識なんてものが一切通用せず、魔法や魔物やダンジョンといった新しい常識が支配する世界。

 そして何よりこの世界は、僕の望んだ、僕が望むがままに――

「すごい……」

 すっかり熱に浮かされた僕はふらふらと街道を進んでいくと、更にいろんな物が目に飛び込んでくる。

 魔法屋、武器屋、おそらくモンスターの物と思われる肉屋。

 道に座り込んで何やら言い合いをする冒険者達、派手で綺麗な魔法を披露する魔法使いの大道芸たち。

 ウサギのような耳を生やした少女を追いかける父親らしき半狼の戦士。

 見知った物、見慣れた物なんて何一つない。

 僕は子供のように胸を高鳴らせていた。

 つい数時間前に死にかけて恐怖のどん底に居た事なんて、すっかり忘れていた。

「この世界には、僕を縛るもの何て何もない。僕は『主人公』になれたんだ!」

 行きかう人々を注視して、そのステータスを見ていく。

 狩人、神官、白魔術師、騎士、フェンサー、僧侶、暗黒騎士――


 ――そうやってしばらく街道を歩いていたら、やがて大きな広場にたどり着いた。

 さしずめ街の中央広場といったところだろうか?

 噴水や長椅子、それに石づくりのアーチのような建造物が見受けられる。

 広場の中央には比較的最近作られたと思われる、銅像があった。

 少し歩き疲れた僕はなんとなく銅像の傍の椅子に腰かけ、近くにあった看板を見た。


<偉大なる探究者『グィンハム・ヴァルフリアノ』ここに眠る>


 ほぅ。

 お墓、というより記念碑的な物だろうか。

 探究者ってことは、さっきのダズさんと一緒でダンジョンでの仕事を生業にしている人かな?

 直ぐ隣にもう一つ看板があったので、そっちも読む。


<彼は探究者ギルド『ブラザーフッド』を率いて、第十層のワイルドキーパー『囁く者、ティトラカワン』を封じた英雄である>


 へぇー。

 ブラザーフッドって、さっき僕が居たギルドじゃないか。

 ってことは、かなり凄いギルドだったのか?

 僕はいろいろ想像を張り巡らせながら、どんどん看板を読んでいく。


<グィンハムは自身の命と引き換えに、不死のワイルドキーパーを封印した。その偉業によって探究者は今、十層以上の攻略が可能になった。よって我々ギルド連盟はその功績を此処にたたえ、この銅像を建立する>


 ワイルドキーパー?

 ボス的な物だろうか?

「囁く者」なんて二つ名を持っているあたり、如何にもボスっぽい。

 僕は顔を上げ、もう一度銅像をみる。

 勇ましい銅像だ。

 美しいローブを着た男。左手には波打つ刃の剣を持ち、右手には……

 なんだアレ? 魔導書?

 その右手にはタウンページ並みに分厚い本を持っているのだが、なんか変だ。

 全体的にボロボロで表紙には亀裂まで入り、しかもそこから何か液体が滴っているようなデザインだった。

「随分禍々しいな」

 そんな感想を呟きながら、他にも看板は無いか調べる。

 この「グィンハム」さんって魔剣士っぽい。だから彼のジョブとか年齢とか、あとレベルを知りたいな。

 そんな事を考えて周囲をぐるりと見渡したが、他に看板は見当たらない。

 ――と、そこで僕は今さらな事実に気づく。

「あれ? なんで字が読めるんだ?」

 この看板の文字も、どう見たって日本語じゃない。

 なんかアラビア語みたいにやたら線ののたくった奇妙な文字なのだが、僕はスラスラと読むことができる。

「……まぁ、ファンタジーだし」

 そんなテキトウな理論で無理矢理自分自身を納得させる。

 本当はかなり気がかりな事なのだが、それについてこれ以上何を考える事にあまり生産性を見いだせなかった。

 とにかく僕はこの世界の文字が読める、これは非常にありがたい事だ。

 お蔭でなんとなく自分がこれから取るべき行動が見えてくる。

 日頃からこういう「転生物」とか「トリップ物」を読みふけっていたので予習はバッチリ。

 その予習によれば、異世界に転生した場合まず重要なのは衣食住の確保、そして情報収集。

 衣食住は多分確保できていると思う。

 勝手な話だけど、あのダズさんのギルドに暫く面倒を見てもらえそうだ。

 なので文字が読めると判った今、僕が次にやるべき事は……

「図書館に行って、情報収集だな」

 そう呟くと、僕は再び歩き始めた。


【近接適正】

アビリティ―基礎アビリティ―価値:コモン

効力―近接戦闘において「筋力」「持久」「敏捷」にボーナスを得る


備考

「説明の必要が無いほどに単純なアビリティだが、決して侮る事はできない」


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