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ダンジョンと主人公 2

――ここは何処だ?

 目が覚めると、そこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。

 僕は首をもたげて、辺りを見渡してみる。

 石造りの壁、妙に太い丸太の柱、樫の木で作られたベッド、簡素で無骨な鉄と木で作られたドア。

「あれ?」

 ここはどこだ?

 僕の家ではない、なんでこんな所で寝ているのだ?

 旅行中だっけ?

 とにかく起き上がってみる。

 ふと、そこでベッドの前に脇に何気なく置かれた籠に、僕の剣が突っ込まれているのが見えた。

「僕の――剣?」

 そう言って、ようやく自分の状況を思い出した。

 神様、異世界、転生、魔剣士。そしてダンジョン、ザーリカの鎧鬼、傷、裂けた肉、死。

「うぁ、うあああああ⁉」

 それまでの記憶が一気にフラッシュバックし、僕は思わず悲鳴をあげてしまう。心を破壊するような恐怖がまざまざと蘇る。

 荒々しい暴力、体の芯にまで響いた傷の痛み、精神が壊死するような死の匂い。

 心臓が痛いくらいに早鐘を打ち、僕はその場にうずくまる。

「お、落ち着くんだ僕。落ち着け、まだ死んでない、生きているじゃないか。僕は助かったんだ」

 そう自分に言い聞かせ、なんとかパニックを鎮めようとする。

 でも助かったって、どうやってあの状況から僕は助かったんだ?

 鎧が剣を振り上げて、それで――それからなにが起きたんだっけ?

 そこから先の記憶が欠落してしまっている。というか僕は今、本当に「助かっている」のだろうか?

 もう一度今自分が居る部屋をよく観察してみる。

 石造りの簡素な居住空間。どことなく無機質な、まるで宿屋の一室のようだ。足裏に当たる冷たい石の感触は、どことなくあのダンジョンを彷彿とさせた。

「とにかく、今の状況を把握しないと……」

 僕は剣を手に取るとドアへと向かい、そっと数センチだけ開けてみた。

 わずかな隙間から覗く外の世界。

 それは幅五メートル程ありそうな、だだっ広い回廊だった。

 回廊の両側の壁には、ちょうど今自分が押し開けているドアとまったく同じ物が、いくつか並んでいるのが見える。

 ――人、もとい生き物の気配は無いな。

 その後暫くその隙間から覗ける世界の様子を見ていたが、なんの動きもなく悪戯に時が経っていくだけだったので、僕は意を決してその回廊に出てみた。

 本当に一切の気配がない、まるで死後の世界みたいだ。

 そんな想像が無駄に僕の恐怖を掻き立てる。

 ――ひょっとして、僕は死んだのか? ここは死後の世界か?

 稚拙な疑惑に苛まれながら、回廊を進んでみる。

 最初こそはその石造りの構造から、ここはさっきまでのダンジョンの回廊の一つと考えていたが、だんだんと違うように思えてきた。

 その理由はあちこちに見受けられる、妙な生活感だ。

 簡易な長椅子が設置されていたり、トランプの置かれた小さなテーブルあったり、そして床には麻紐の切れ端みたいなゴミが散らばっていたり。

「ここは居住区か何かだろうか?」

 ザーリカの鎧鬼から逃げ回ったあのダンジョンの回廊には、こういった物は一切ない「いかにもゲームなダンジョン」だった。

 そうこう考えているうちに、回廊の終わりが見えてきた。

上へと延びる短い階段、そしてその上の一際大きなドア。

 僕は剣を鞘から引き抜くと、背を壁に付けてゆっくりと階段を上っていく。

 先刻のダンジョン探索の時とは打って変わって、今の僕は完全に怯え切っている。

 階段上のドアを突き破って化け物が襲い掛かってくるかもしれない、そう思うと足が竦むし。

 背後から怪物がいきなり追いかけてくるかもしれない、そんな想像をすると今直ぐにでもこの階段を走り抜けろと脳が悲鳴をあげる。

 それでも必死に深呼吸を繰り返し、冷静な思考を必死に保ちながら、どうにかこうにかドアの元までたどり着く。

 先ほどと同じようにドアに張り付くと、今度は鍵穴からそっと向こうの世界を覗いてみた。

 大広間だ。

 長方形のだだっぴろい空間、中央には大きく長いテーブルが置かれている。

 そしてそのテーブルの一番手前、ちょうど僕に背中を向けるような形で誰かが座っている。

 いや、「誰か」という表現はあまり適切ではないかもしれない。

 それは明らかに人間の背中では無かった。

 竜鱗に覆われた背中。

 黒々とした鈍い光沢をもった分厚い鱗、それはまるで――

「――リザードマンだ」

 そのまま凝視しつづけていると、また例の如く相手のステータスらしき物が網膜に踊った。


【名前:ダズ・イギトラ

HP:581/581 MP:45/45

ジョブ:狂戦士

レベル:19

筋力:38 技量:25 知覚:20 持久:34 敏捷:27 魔力:11 精神:24 運命:20


武器スキル

 片手剣(27)

 両手剣(40)

 両手斧(31)

 大盾(26)

魔法スキル

 変性魔法(10)


アビリティ

 近接適正

 爪と歯

 鎧砕き

 レジストフレイム

 レジストアイス

 レジストエレキ

 ビーストキラー

 竜族の肉体

 囁かれし混乱


装備

 レインメーカー

 オーガジャケット

 ホーリーアムプラ】


 ――レベル19って⁉

 僕は反射的に鍵穴から離れた。

 冗談だろ⁉

 僕はさっきレベル4ぐらいの敵に、一方的になぶられたんだぞ。

 そんで次はレベル19のリザードマン?

 っていうか無理だよ戦えない、ステータスが全然違う、桁が違う。

「落ち着け、落ち着け僕」

 落ち着いて、冷静に状況を考えるんだ。

 あれはたぶん、というか明らかに魔物。

 という事は、つまり今僕の居るここは「魔物の巣」

「つまり――今の僕は、捕虜とか食料なのか?」

 どうする?

 どうすれば良いんだ?

 僕は来た道を振り返る。

 さっきの居住区もとい独房に戻る?

 いや、いやそれは無い。なんの解決にもならないし、そこから打開策が産まれるとも思えない、

 もう一度鍵穴を覗いてみる。

 黒鱗のリザードマンは相変わらずこちらに背を向けてテーブルに座っている。

 おそらく何かを食べているのだろう。

 ひょっとするとこの状況はチャンスなのかもしれない。

 敵はあの一体だけ、しかもかなり油断している。

 逃げるか、戦うか。

 とにかく彼が食事を終える前に決めないと。

 僕は剣をしっかりと握り直すと、音を立てないようにそっとドアを開ける……開けているつもりだったのだが。

 ドアが開ききるより前にリザードマンが振り返った。

 目が合う。

 気づかれた、ヤバい!

 僕は急いで剣先を向ける。

 リザードマンはそんな僕の姿をジッと見つめると。

「え? ちょッ、お前何してんの?」

 言葉を喋った。

「え?」

 思わず僕も声を出す。

 なにこの敵、喋れるの?

 っていうか――

「ちょっと、ちょっとお前落ち着け、そんな物騒な物を人に向けるんじゃない」

 リザードマンはかなり動揺した様子でそう言った。

 分厚い瞼は大きく開かれ、爬虫類独特な縦長の瞳が戸惑った視線でこっちを見ている。

 僕も戸惑う。

 どういう事? こいつ、ひょっとして敵ではない?

「落ち着けよ、お前は助かったんだよ、ここはダンジョンじゃない」

 なんだこの状況。

 レベル19の強敵の筈が、殺しに来るどころか僕をなだめようとしている。

 僕は震える声で必死に質問を絞り出す。

「ダンジョンじゃないって……じゃあここは何処なんだ!」

 その高圧的な口調は、僕の心に蔓延る恐怖によるもので、もしこの会話の主導権を失ったらその瞬間食い殺されるのでは? という漠然とした妄想のせいであった。

 だけどリザードマンは、そんな僕の見苦しい威嚇を全く意に介する様子もなく、丁寧な返答をしてくれる。

「ここは地上、探究者ギルド『ブラザーフッド』のハウスだよ、覚えてないのか? 第二層で死にかけてたお前を俺たちが助けたんだ」

 ――正確には俺たちの一人、「ロナ」が君を助け出した。

 僕はそこまで聞いて、ようやく欠けていた記憶が蘇ってきた。

 ザーリカの鎧を貫く矢、白い弓をもった白い女性。


    『ねぇ、そこの君! 大丈夫⁉』


 そう言って僕のもとへ駆け寄ってきてくれた彼女。

 そして僕の右腕を――

 あ、そういえば僕の右腕、真っ黒に焼け焦げたはずだったのに。

 今現在剣を握りしめているその右腕は、健康的な腕そのもので――

 あの人が治してくれたのか?

「思い出したようだな」

 リザードマンは唖然とする僕の様子を見て、そう言った。

「あ、うん、その……はい」

「だったら剣を収めてくれ」

「す、すいません」

 僕は慌てて剣を鞘に戻し、深々と頭を下げた。

 この人、敵じゃないのか。

 言われてみればさっき表示された彼のステータスの形式、あの「ザーリカの鎧鬼」と大分違った。

むしろ「僕自身」のステータスの形式と似通っていた。

 という事はつまり彼は魔物じゃなくて、僕と同じ「プレイヤー」なのか。

「いいよ、そんな謝らなくて。お前もいろいろ大変だったんだろ?」

 彼はそう言うと、ニッと口角を上げて人懐っこい笑みを浮かべた。

 僕はそれを見て、やっと自分の中にへばりついていた恐怖心が、溶けて消えていくのを感じた。

 ――が、その安心もまた、すぐに薄まった。

「それで、お前は一体誰なんだ?」

 安堵の表情を浮かべる僕に、彼はそんな質問を何気ない様子でぶつけてきたのだ。


 誰?

 僕は……

 僕は、この世界では……



【チェック】

???―???―???

必要スキル―???


効果―対象のステータスを表示する


備考

 物を観察する際、もっとも重要なのは多角的な知に支えられた視点である。

 異なる常世の知を持つ者が、優れた観察眼を持つ事はある意味当然である。

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