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ダンジョンと主人公 1

 ――ようこそ。



 何かの音に反応して、僕は目を覚ました。

 意識が朦朧としている、気分がひどく悪い。

 酷い吐き気を感じながら体を起こすと、見慣れない風景が飛び込んできた。

「っ――?」

 年季を感じる石造りの壁、苔むした固い黒檀の石畳が敷き詰められた床。

 僕は無理矢理立ち上がって、周囲を見渡す。

 そこは、この空間はまさしく……

「……ダンジョンだ」

 ダンジョンの回廊、そこに僕は今まで寝転がっていたようだ。

 本当に異世界に転生したのか?

 僕はあわてて自分の体を調べる。

 服装が現実世界の物と違う。

 革製の妙にしっかりした、いわゆる「旅人の服」といった物か?

 腰には剣がぶら下がっていた。

 ためしに引き抜いてみると、ジャアッっと小気味の良い音が鳴り響く。

「すごい、本物だ」

 まじまじとその剣を眺める、すると妙な物が視界に表示された。

【ブロンズソード D6 重量9】

「おおぉ?」

 注視することで、アイテムのステータスが表示されたようだ。

 これは面白い、まさしくゲームだ。

 だったら――

 僕は自分の手を目の前に突出し、それを凝視する。

 これで自分のステータスが見られるのでは?

 すると予想通り、僕のステータスと思わしき情報が網膜に映し出される。


【名前:未入力

 HP:21/21 MP:24/24

 ジョブ:魔剣士

 レベル1

 筋力:1 技量:2 知覚:2 持久:1 敏捷:2 魔力:3 精神:2 運命:1


 武器スキル

 片手剣(2)


 魔法スキル

 破壊魔法(2)

 神聖魔法(1)

 変性魔法(1)


 アビリティ

 近接適正

 ファストキャスト

 蒼き玉座の担い手


 装備

 ブロンズソード

 革の服】


「おぉおお?」

 思わずまた歓声を上げてしまう。

 すごい、本当に異世界転生したのか僕は。

 魔剣士? むっちゃカッコイイじゃん。

 名前未入力なのか、そうか、どうやって入力する?

 魔法使えるの? どうやって使うのだろう?

 というかこのアビリティはなんだろう「蒼き玉座の担い手」って、絶対に超強いアビリティだろ!

 僕は興奮で自分の心臓が高鳴るのを感じる。

 夢が叶ったのだ、僕は、「物語の主人公」に……


 僕は引き抜いた剣を両手で持つと、回廊を進み始めた。


 ここがダンジョンなら、きっとモンスターがいるはず。

 モンスターとの戦闘。

 憧れの、ファンタジー世界での戦闘。

 僕は魔剣士だ、ステータスを見る限り、技量と敏捷を武器に魔法を敵に叩き込む前衛なのだろう。

「やばい、やばいやばい」

 喜びと期待ではち切れそうな胸を押さえながら、ダンジョンを進む。

 なにも考えず、ただ適当に十字路や分かれ道を突き進む。

 そして直ぐにその時は訪れた。


 僕の進んでいた通路の前方、五メートルほど先にそれは突如現れた。


 鋼の鎧、複雑な紋章を刻まれた重戦士がこちらを向いて立っていた。

 鉄仮面の隙間から、蒼く光る一つの目がこちらを視ている。

 すぐに僕はその敵を注視した。


【名前:ザーリカの鎧鬼

 レベル:7

 評価:強そうな相手だ

 考察:防御力の高そうな敵だ】


 あれ?

 なんか思っていたより強そうな敵と遭遇したな。

 レベル差結構あるけど、大丈夫かな?

 そんな事を考えていると、鎧のモンスターが僕の方へ向かって歩み寄ってきた。

 敵は右手に直剣をだらしなく持っていて、その刃先が地面をガリガリと削り不快な音を奏でている。

 左腕には大きなラウンドシールドを下げていて、なるほど防御力は高そうだ。

「結構鈍そうな相手だし、いざとなれば逃げよう」

 絶対に無理はしない、そう自分に言い聞かせて覚悟を決めた。

 鎧の敵がのろのろと間合いを詰めてくる。

 ――いまだッ

 僕は十二分な距離まで敵を引き付けたのち、全力の突きを鎧のつなぎ目に向けて撃ち込んだ……が。

 ガインッ、と無慈悲な金属音が鳴り響く。

 敵がいきなり俊敏に動き、僕の突きはその巨大な盾で弾かれてしまった。

「え?」

 攻撃を受け流され、体制を崩している僕に向かって直剣が振り下ろされる。

「うぉ」

 僕はとっさに剣を横にして、その斬撃を受けようとする。

 金属がぶつかる破壊的な残響。

 そして僕の腕に、予想よりも遥かに大きな暴力の負荷がかかった。

 体が吹き飛ばされ、僕は回廊の床に転がる。

「え……」

 僕は無理に体を起こそうとすると、右肩から何かがボタボタと零れ落ちた。

 なにこれ?

 血だ、かなりの量の血。

 僕は受け流しに失敗して、肩を、斬られた?

 ――咆哮と共に、茫然とする僕に鎧がバッシュを仕掛けてきた。

 頑強な鉄の盾で殴りつけられた僕は再び吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に全身を強かに打ってしまった。

「ぐっ……ぇえ」

 潰れたカエルのような声をあげ、その場に崩れ落ちそうになった。

 全身の骨が悲鳴をあげ、斬られた肩の皮膚が燃えるように熱くなる。

 まずい、ここで倒れたら――

 僕はなんとか持ちこたえると、ボロボロの体で這うようにして逃げ出す。

 背後で敵の咆哮、そして僕を追跡するガシャガシャと騒がしい音。

「待って、待って、ちょっと待って……何これ?」

 勝てない、まったく勝てる気がしない。

 というか勝負になってない、一歩的に斬られた、肉を裂かれた。

 僕、ひょっとして今死にかけた?

 現状がうまく飲み込めない、僕は無意識のうちに意味不明な言葉を発し始める。

「何これ、聞いてない、聞いてない!」

 鋭い痛みを持ち始めた肩の傷に苦しみながら、僕は必死に逃げる。

 じわじわと鎧の敵との距離は離れているが……

 この状況で他の敵と遭遇したら?

 僕の体力に限界が来て走れなくなったら?

 というかこの出血はマズい?

 ってか僕弱い?

 恐怖におびえた頭が、パニック一歩手前の悲鳴を上げている。

「誰かッ! 誰か助けて! 殺されるッ」

 大声で泣き叫びながら僕はむちゃくちゃに走り続ける。


 今思えば、この行動は果てしなく愚かな物だった。

 せっかく鎧との距離を引き離しつつあったのに、僕のその悲鳴はそれを無為にしてしまった。しかもそれだけでなく、助けを求めることに夢中になって、何も考えず本能のまま道を選びつづけた僕は――


「いき……どまり?」

 袋小路に追い詰められてしまった。

 振り返ると、五十メートルほど後方に、僕の血でぬれた直剣を引き摺る敵の姿があった。

「嘘…だ、嘘でしょ?」

 殺される?

 そんなバカな。

 だって、だってまだ始まったばかりじゃあ……

 逃げなくちゃ。

「えっ、エスケープ! ろっ、ログアウト! 脱出! ワープ!」

 僕はとにかく思いつくゲームの言葉を列挙していく。

「シャットダウン! ヘルプ! 魔法!」

 魔法で反応があった。

 視界の中に、僕が使える物と思わしき魔法が表示される。


【破壊魔法

 エレキ

 神聖魔法

 なし

 変性魔法

 なし】


 待って、エレキ一択?

 とにかく僕は藁にもすがる思いで、その魔法を唱えることにする。

 鎧は三十メートルほど先に迫ってきている。

「えっと、選択、エレキ」

 反応はない。

 じゃあ、これはきっと……

 僕は右腕を伸ばし、その手のひらを鎧に向ける。

 肩の傷口が刺すような痛みを引き起こすが、それに構っている暇はない。

「え、エレキ!」

 唱えた瞬間、右手の平に何かが蓄積されるのを感じた。

 そして――


【詠唱失敗

 スキルが足りません


 エレキ詠唱可能条件

 破壊魔法スキル(3)


 マジックバーストが発生します】


 その表示はあまりにも一瞬で、僕はまともに読むことさえ出来なかった。

 そして蓄積していた何かが、コントロールを失って爆発するのを感じる。

「え?」

 次の瞬間、巨大な青い稲妻が右腕からほとばしり、それが鎧の体を貫いた。

 その雷光はあまりにも力強く噴出し、僕の体はまた吹き飛ばされ背後の壁に叩きつけられる事になった。

「ごぇ……」

 僕はそのまま崩れ落ちる。

 背骨がギシギシと音をたて肺が急速に委縮して、口には苦く酸っぱい嫌な液体が広がり意識が朦朧とした。

 ……死ぬ、死んでしまう……

 全身があますとこなく痛い、なのに一番痛かった右肩の痛みがかなりやわらいでいた。

 どうして?

 視線を動かしてみると、真っ黒に焦げた僕の右腕が目に入った。

 エレキを放った代償だとでもいうのか、表皮のほとんどが黒く炭化してしまっている。

「うそ……だぁ」

 なんで、なんなのこの状況。

 だがそれでも、それでもまださらなる絶望が僕を待っていた。

 ガシャガシャと金属音が鳴り響く。

 恐る恐る視線をあげると――


 全身から白い湯気を上げながら僕の方へと歩み寄る、敵の姿があった。


「――まだ、生きてるのかよ」

 ザーリカの鎧鬼はふらふらと今にも倒れそうになりながらも、歩みを止めていなかった。

 盾はドロドロに溶け、直剣の先は無くなり、鎧の大部分は消失していたが、それでもまだ僕を殺そうとしていた。

 もうどうしようもない、体は一ミリだって動かせない。

「頼む、許してくれ、殺さないでくれ、何でもするから」

 無駄だと思いつつも命乞いをしてみる。

 だが現実は非情だ。

 敵は弱弱しい咆哮を一つあげると、折れた直剣を振り上げる。


 ――死んでしまうのか、僕は。


 あきらめかけた次の瞬間、白い何かが敵の背後から飛んできて、それが鎧の体を貫いた。

 ザーリカの鎧鬼は胴体に三つの風穴が開けられ、蒼い水晶の塊となって砕け散った。

 何が――いったい何が――

 僕は無理矢理首を上げ「白い何か」が飛んできた方を見る。

 そこには弓を構えた一人の女性が立っていた。

 彼女の髪とその大きな弓は、どちらも雪のような美しい白色に染められていて――


「ねぇ、そこの君! 大丈夫?」


 僕はそこで意識を失った

【エレキ】

魔法―破壊魔法―レアリティ:コモン

必要スキル―破壊魔法スキル(3)


備考

「もっとも基礎的な雷属性の破壊魔法。雷の本質である『蓄積』と『放出』を体現する」

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