血戦と血末 2
駄目だ。
終わってしまう。
本当に終わってしまう!
ダズの刃が僕の首から離れた。
そして彼は嬉しそうに、心の底から嬉しそうに放物線を描くレイピアの元へ……
「駄目だぁあああああああ!!」
【詠唱成功
新魔法を習得
<雷襲>
詠唱可能条件
破壊(5)
変性(13)】
バチッと小気味の良い音がして、魔返しの麻紐が千切れた。
うっ。
何が?
……考えてる暇なんてない。
僕はそのまま、レイピアに気を取られてるダズ目がけて渾身のタックルをかます。
完全な不意打ちとなった僕の攻撃は、見事な程綺麗に決まり、ダズの体を突き飛ばした・
レイピアがカィンと乾いた音を立て、地面に突き刺さる。
「ロナッ――」
僕がそう叫んだ時には、彼女はもう弓を構えていた。
「――殺れ!」
白い閃光が三つ、漆黒のリザードマン目がけて放たれる。
「……小癪な」
が、内二発は彼の大剣「レインメーカー」で斬り落とされた。
残る一発も脇腹に命中するが、彼の強靭な鱗によってあっさり弾かれる。
「やれやれ。ルカ君、君は本当に俺を理解してくれないんだね」
ダズはそう言うと、気だるげに立ち上がる。
「俺は悲しいよルカ君。君と俺は同じ苦しみを味わってると思ったのに、憧れに届かない、どうやったって届くことの無い世界、理想は遥か遠く、それよりも足元を見る事ばかり強要される苦しみ、何一つ自分の思う通りにならず、世界が自分の心に牙を立て、噛み千切り、砕き潰し、その心を壊そうとする」
ロナは何度も矢を射続けたが、その全てが有効打にはならない。
火力が足りな過ぎる。
ダズの全身がゆっくりと戦闘態勢に入って行くのが見て取れる。
「ルカ君にはがっかりだよ。理解してるはずなのにそうやって突き放すなんて酷いなぁ、本当に酷い、殺したくなる」
全身の筋肉が膨らみ、目には殺意が揺らめき始め、剣の舞いが強く速く無駄の無い物になっていく。
「ルカッ! 逃げなさい、約束したでしょ!」
ロナが必死に声を絞りだす。
でも僕は首を振ってそれを拒む。
「逃げない、僕は絶対に」
鞄のなから短剣「クファンジャル」を取り出し、それを構える。
理屈なんてない、とある本能的な確信が、僕の中にあった。
「……じゃあ、君から死ね」
ダズが僕目がけ駆け出し、その刃を振るった。
閃光の様な、目で追う事さえ困難な達人の一撃。
でも、『今の僕』にはそれが見える――
ジャキっと金属のかち合う音。
そしてダズの刃は逸らされ、僕の肉でなく大地を抉る。
「おや?」
ダズは「レベル5の僕に躱された」という事実を飲みこめず、一瞬の隙を生じる。
「オラッ」
僕は右足を振り上げ、いまだ驚愕を浮かべるダズの顔面を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばしたつもりだったが……
黒いリザードマンが瞬時にバックステップし、それを回避する。
ダズの表情に、もう余裕や油断や平常心は完全にない。
「あははは、面白いねルカ君」
僕に対してあきらかな敵意が剥き出しになっていく。
――さっきの魔法、<雷襲>は身体能力を強化させる魔法だった。
恐らく、魔法で作った電気信号によって、脊椎や脳からの指令をより早く末端期間に伝える魔法。
多分、筋肉の収縮力を底上げしたりすることもできるのでは?
だから麻紐をちぎる事が出来た。
自己強化魔法だから、魔法返しにも掛からなかった。
「ロナ!」
僕は背後の少女に呼びかける。
返事は無い、たぶん言葉が出ない程に動揺してるのだろう。
僕がダズと対等に斬り合った、それに衝撃を受けてるのだろう。
「僕がダズを止める。その間にロナは強力な血線術の詠唱を!」
「俺を甘く見るなよ」
ダズが再び駆け出す。
彼の狙いは明らか、僕の後ろのロナ、彼女を直接殺る気だ。
「させるか」
僕はダズの前に立ちはだかる。
彼の斬撃が来る。
さっきよりも速い、肉食動物の一撃のような一閃。
だがこれも、僕の体は反応する。
いや、反応できるだけじゃない。
剣の重心、力の中心、それらが手に取るようにわかる。
何処をどう打てば、軌道を逸らせられるかが見える。
「喰らえッ!」
さっきよりもさらに数段軽い金属音。
大剣を弾いたというのにもかかわらず、まるでプラスチックの破片を鳴らしたような。
「ルカぁあああああ! 散華しろッ――」
ぞわり、と背筋が震える。
死。
それが突如迫った気がした。
うっ。
「――飛燕」
僕は咄嗟に二歩後退する。
その直後、 <雷襲>を持ってしても見切れない、一撃がッ。
「あ、っぐぁ」
顔の右半分が熱い。
反射的に触れると、べたつく液体が、血が溢れ出ていて。
斬られた?
何処を?
右頬と右耳?
「なんと、これも避けるのか」
ダズはそう漏らすと、傷の確認をする僕から一歩退く。
「レベル5でそこまで動くとは、なるほど良い魔剣士だ」
ダズはそう言いいながら、自分の鎧に手を掛けると、幾つかのパーツを外し始めた。
「俺も本気を出す必要があるな、これは」
まずい。
さらに速くなるのか?
僕はロナの方を振り返る。
彼女はまだ血線術を詠唱していた。
右手から滴り落ちた血が宙に浮かび、何かを形作ろうとしてる。
――まだ時間が掛かりそうだ。
ロナは泣きそうな眼を、今にも心が張り裂けそうな表情を僕に向けて、必死に詠唱を続けていた。
……大丈夫だよ。
声に出さず口の動きだけでそう伝えると、僕は再び敵と向き合う。
「改めて自己紹介をしようか――」
鎧の両肩部と籠手を外し、ダズはニッコリと微笑む。
「――ようこそ第十層ワールンの舞台へ、我が名は『ダズ・イギトラ』、黒の王の眷属の一人だ――」
僕は相手のステータスを確認する。
【名前:ダズ・イギトラ
HP:272/281 MP:43/45
ジョブ:ベル9^tt?FYキ8^Pt??FZキ?Z V?T ??VZRV?P ?V?M ?8? Vt?G キ?6 ?? ?8Xu8^@キ$t?D$?$QV? ?8^AuワイルドキーパーSV? ???V???? ?V????;?tL8^@uG??囁かれし 8Xt<8? ?$t?@?? ???????3?8^Z????_[Y???????????????V?$W?キ ?混乱 t3?G ?? キj V???キ キjV???キ キjV???? ?~J tE?t u??~P t?~Z t??? ?Gキ?~X t??? キキ?B/ キキV???フラグエラーです?? キV???キ ?V????~A ua? u?? キV????? キV????~J t?W??無効な識別子です キRV?????キ キ??キRV???キ キj V????キt=?3??8W??dW??~@ t?? ?y u?3?8VZ?dP_^????????このメッセージを確認した人は、至急係員にお伝えください??$?xJ V?キ t?? ?P????^???????????V?$?キjjV???キ ?? V@ ?@?W@ ?@ ?キ?^????????????????$P?? 名前:英雄無き時代の英雄?????$Pキ? Y??????$?????????????$キ?A3
ジョブ:ワイルドキーパー
レベル:計りしれない強さの相手だ
攻撃力がとてもとても高そうだ
防御力が驚異的に高そうだ
魔法耐性が驚異的に高そうだ】
なんだ。
なんだこれは?
なんだこの表示は?
バグってる?
「――我が主『囁く者、ティトラカワン』に代わって、僭越ながらこの俺がワイルドキーパーを務めさせてもらおう」
レインメーカーから過度な装飾が外され、シンプルな直剣へと変貌を遂げる。
――クソが。
勝てるのか?
いや、僕が勝つことは絶対に無い。
僕はあくまでも「辛うじて相手の攻撃を受け流せてる」だけだ。
この「クファンジャル」のお蔭で、なんとか受けられるだけだ。
D値と引き換えに、機動性に特化された宝剣。
ダメージソースとしては絶望的だけど、こうして受け流すのが目的なら、これ以上無く頼もしい装備だ……
が。
が、それでも、ヤバい。
【名前:ルカ・デズモンド
HP:44/82 MP:21/65】
もうMPが尽きかけてる。
<雷襲>はめちゃくちゃ燃費の悪い魔法だ。
もうあまり長くは持たない。
またマインドクラックをすれば?
やった所でどこまで戦える?
いや、そもそも僕は彼の本気の攻撃を防げるのか?
「行くぞッ!」
ダズが駆け出す。
「クソがッ」
やるしかない。
頼むロナ、早く詠唱を完了してくれ!




