Chapter-13 「今日は準決勝にうってつけの日なんだ」
その光景は、球場の観衆よりも、TV視聴者のほうによりわかりやすい形で伝わりました。
鳴り響く金属音。生まれる打球。
歓声。――そして静寂。
四角い画面が伝えるそれらを、ひとりの少年は、十歳くらいの年頃に見えるひとりの少年は、彼にとっては左に九十度傾いた世界で、彼以外には誰もいない世界で、余すことなく、そのすべてを受けとっていました。
ざわつく球場。
動かなくなったひとりの人間。
それを囲む、大勢のひとびと。
額に冷却シートを張り付けて、畳の上に敷かれた布団に横たわっている彼は、それらの情景に、その表情を変えることはありませんでした。熱に侵された目はいつ融けてしまってもおかしくないような色合いをしていて、その双眸からは瞬きという機能が失われてしまって久しく、四角い画面が映し出すありとあらゆるものに、その黒色の瞳は、さらされるままになっていました。
「――――」
少年の口が開いて、エアコンの駆動音にも勝てない声で、何かを言いました。
「あー、あー」
今度はしっかり空気を震わせましたが、その枯れた声は、意味をなさない音しか作りません。
「あー、あー」
同じ音を、少年は何度も繰り返しました。
同じ声を、少年は何度も発し続けました。
瞬きもせずに、身じろぎもせずに。
何かを訴えるように、何かを呪うように。
少年の声は、やがて聞こえなくなりました。TVの画面も切り替わって、エアコンに冷やされた空気は、さまざまな音色に踊らされるようになりました。
それからしばらくの時間が過ぎると、ひとりの男性が、四十がらみのひとりの男性が、少年のいる部屋に入ってきました。
男性は、流れるままになっているTVを認めると、「見ていたのかい?」と少年に訊ねました。少年が何も応えないでいると、男性は、「お父さんとお母さんは病院にいるよ。君は、どうしたい?」と続けて訊きました。少年が何も応えないでいると、男性は、「ひとりでここにいるのはよくないよ。わたしと一緒に病院へ行かないかい? 君も、診てもらったほうがよいだろうし」と、重ねて言いました。
「みんないるの?」
かすれた声が訊くと、男性は、「ああ、みんないるよ」と、やわらかい声で答えました。
「神様もいるの?」
続けられた問いかけには、痛みをこらえるような顔を見せた男性からは、なんの答えも返ってきませんでした。
ややあってから、身体を起こした少年は、「行くよ、病院」と言いました。それから彼は、男性に付き添われて、大勢の記者も集まっている病院へと向かいました。その道中で、「ずるいなあ」という声が少年の口から生まれましたが、その声を聞いた人間は、彼の周りには、ただのひとりもありませんでした。
* * *
聞こえたのは金属音でした。
どこか涼しげなそれを追いかけたのは、少年たちの活気にあふれる喚声。
空気を震わせるそれらの声が見届けたのは、紺碧の空に舞い上がったのち、伸ばされたグローブの手前に落ちて、グラウンドを転がっていく白球の行方。
「――スタートが一歩遅かったな」
蝉の声の途切れ目に、落ち着きのある青年のような声が言いました。
その声が発せられたのは、グラウンドにいる少年たちの中ではなく、グラウンドを仕切る、緑色の防球ネットの外側――。そこは木々に挟まれた歩道で、蝉の鳴き声に絶え間なく包まれているそこには、ふたりの人間の姿がありました。
ふたりの人間は、どちらも、半袖のTシャツに、ハーフパンツという装いです。年恰好はだいたい同じくらいと見えて、ひとりは、その頭に野球帽を、もうひとりは、その顔に黒縁の眼鏡を着けていました。
「それに、打球を後ろに逸らしたのもよくない」
先ほどと同じ声が、黒縁眼鏡をかけている人間の口から聞こえました。野球帽の人間の二メートルほど手前で足を止めた彼は、その身体と、黒縁眼鏡の下のこげ茶色の双眸を、グラウンドの一角にいる、半袖のユニフォーム姿の少年たちに向けました。
「外野手であれば、正面の打球は、最低でも身体の前に落とすべきだ。後ろに逸らせばランナーは次の塁を狙えるし、俊足のランナーなら、一気にダイヤモンドを一周される可能性もある。〝チャレンジすることは悪いことではないが、そのリスクはちゃんと頭に入れておくべきだ〟――と、FXで貯金のダイエットに成功した、母方の従姉妹もまじめな顔で言っていたよ」
「そいつはまた、ずいぶんと優秀な反面教師だな」
野球帽の人間が、黒縁眼鏡の人間のものより少しだけ高い声で、そして淡泊な調子の声で言いました。その黒色の瞳は、一度隣にやってきた人間の姿を認めたあとは、ずっと、緑色の防球ネット越しに、グラウンドのいる少年たちを向いていました。
「『貯金よりも理想のダイエットを試みないと、孤独な老後が待ってるぞ』っていうメッセージを、ぜひその大先生に伝えておいてくれ」
「直接伝えたらどうだ? ちょうど、近くまで来ているそうだから」
「やめとくよ。またひと前で泣きだされたりしても面倒だからな」
金属音が響いて、それを、グラウンドにいる少年たちの声が追いかけました。
ふらりと上がった打球は、左翼手に直接捕球されると、その左翼手の少年の手によって、すぐさま、タッチアップを行った三塁走者が狙う、本塁へと投げ返されました。
遊撃手が中継に入った送球は、三塁走者よりもわずかに早く、本塁で待っていた捕手のミットに届けられます。
走者は頭から本塁に滑り込んで、捕手は、両手でその走者へのタッチを試みます。
タッチプレイに対する球審の判定は、――セーフ。
「中学野球か」
少年たちの喜びの声が聞こえる中、黒縁眼鏡の人間が、喜びの外側にいる少年たちを眺めながら言いました。
「これを見るために、わざわざ太陽を出し抜いたのか?」
「まさか。こんな早い時間から紅白戦をやってるってことも知らなかったよ」
そう応える野球帽の人間の声は、起伏が少なくて、どこに向かっているのか、少々わかりづらいような印象を受けるものでした。
そんな声の持ち主を一瞥した黒縁眼鏡の人間は、そのこげ茶色の視線の先を、グラウンドに戻してから訊ねます。
「じゃあ、こんなところに何しに来たんだ? ナンパ目的なら、もっと時間と場所を考えろというとても適切なアドバイスができそうな気がするんだが」
「ほとんど監禁状態だった人間が、外に出たいと思うのに理由が必要なのか?」
野球帽の人間は、マウンドの上にいる身体の小さな少年にその目を留めたまま、口だけを動かすような形で言葉を発します。
「まるで二年ぶりくらいに外に出たような気分だよ。これで隣に見た目も性格も抜群な女子がいてくれたら、もっと晴れやかで朗らかな気分になれてたんだけどな」
「誰かを誘おうとは考えなかったのか?」
「アポなし早朝デートに召喚するにはみんな好感度が足りませんって、親切だけどそっけない声が特徴のシステム音声に注意されたからな」
特に残念でもなさそうな声でそう述べた人間は、少し間を置いてから、伝えるべきことを思いだしたような口調で、次のように続けました。
「ひとりぎりぎり大丈夫そうな子もいたんだけど、その子はシスコン・オブ・ザ・センチュリーな兄貴が高確率で一緒に召喚されるって注意書きがあったからな。二十秒くらい悩んだ結果、今回は見送ることに決めたってわけなのさ」
「それは賢明な判断だったな」
黒縁眼鏡の人間が、先ほどまでと変わらない、聞きようによっては少し冷たくも感じる声を、蝉の合唱の中に投げ入れました。
「仮にその召喚を実行していたら、おまえは今ごろ撲殺死体への換装作業に入っているころだ」
「それ以前に召喚に失敗して、みじめな気分を味わうことになってたんじゃないかと思うけどな、実際のところは」
金属音が蝉の合唱に割って入ると、ふたりの人間の視線は、それが生んだ打球の行方に集中しました。低い弾道の打球は外野手の間を抜けて、それを放った打者は、楽々と二塁ベースの上に到達します。
「野手のエラーがらみで失点したあとにツーベースか」
黒縁眼鏡の人間が、ひとつ息をついてから言いました。
「ピッチャーの精神力が問われる場面だな。どうなると思う?」
「二者連続フォアボールのあとに走者一掃のツーベース。なんなら賭けたっていいぜ?」
そんな野球帽の人間の即答を聞くと、黒縁眼鏡の人間は、少しだけ、怪訝な表情の出番をその顔に作りました。
「ずいぶん大胆な予想だな。そこまで悪いピッチャーには見えないと思うが」
「あれが悪いピッチャーに見えないなんて、その眼鏡はちゃんと度は合ってんのかい?」
淡泊な調子のままに言う野球帽の人間の目は、マウンドの上の小さな少年を向いていました。
「フォームが安定してないからコントロールが悪い。無駄球が多いから球数も増えて、リズムも悪くなるからチームの流れも停滞させる――。今のところは球威でどうにかなってるけど、疲れてそれもなくなったらジ・エンド。無料のバッティングセンターのできあがりってわけだ」
「ずいぶん辛辣だな。あのピッチャーに財布でも盗まれたのか?」
「別に。さっき女子マネージャーとイチャコラしてるところを目撃したから、すなおに腹を立ててみただけですよ」
気のない口調に隠れる嫌悪の響きに気付いたのか、黒縁眼鏡の人間は、隣の人間を一瞥すると、そのあごに手をそえて、思案顔になりました。そして蝉の合唱が途切れたところで、
「そういえば、昔あんな感じのピッチャーを見た憶えがあるな」
そんなふうに、思い出し口調で言い出しました。その口元には、何かいたずらを思いつきでもしたかのような、そんな小さな笑みが生まれていました。
「投げるたびにフォームは違っていて、コントロールなんてどこかに置いてきたみたいに球はいつも荒れていて、――そう、まさにあんな感じのピッチャーだった。試合で投げさせればフォアボールやデットボールは当たり前。相手がこれじゃあ試合にならないと文句を言えば、〝打てない言い訳はそれで終わりか?〟と挑発までする始末」
その声は相変わらず落ち着いていましたが、楽しそうで、愉快そうで、そしてなつかしさにもあふれていました。それを生み出す口の持ち主は、けれど、その目には、ほんのわずかではありましたが、悲哀の色もにじませていました。
「確かに似てるよ、あのピッチャーは。――昔は小さかったからな、おまえも」
「何言ってんだい」
野球帽の人間は、防球ネットの向こうのグラウンドを向いたまま、平坦な口調で言いました。
「俺は昔からクールで親しみやすさもある男子ってことで、女子にもモテモテだったじゃないか。あんなチビ助とは似ても似つかないよ」
「うちにあるアルバムを見ても同じことが言えるのか?」
「写真なんて写真屋でいくらでも加工できるじゃないか」
「それは確かに。変えられないのは過去くらいのものか」
「それもタイムマシンが開発されるまでの話だけどな」
「いや、それでも過去は変えられないだろう」
グラウンドで金属音が放たれて、それを少年たちの声が追いかけます。蝉はマイペースな合唱を続けていて、黒縁眼鏡の人間の声は、その中でも、確かな存在感を持って、辺りの空気を震わせました。
「仮に変えられたとしても、それはすでに別の世界線の話だ。俺たちのいる現在は何も変わらない。この現在はこのまま未来に向かって、そしていつか終端を迎える。世界とはそういうものだと俺は思っている」
「たとえ過去を書き換えまくったとしても、この現在は変わらないと?」
「別の世界を生みだすだけだろう。行われた選択を覆すことはできない。もし改変された世界を望むなら、それこそ異次元同位体と意識を融合させるとか、その身体を乗っ取るくらいしか方法はない。可能世界同士の戦争につながりそうな話だが」
「個人的理想世界の獲得か」
球審が四球を宣告して、打席に立っていた少年が一塁に向かうのを認めながら、野球帽の人間は、淡々とした口調のまま言いました。
「パラレルワールドは無理でも、将来ネットの大海原のどこかで開始されそうなサービスではあるな。ソウルデジタライズ技術と一緒に実現すれば、それはそれで面白い未来になるかもしれん」
「ディストピア的な意味でか?」
「ユートピアと感じる人間もいるんじゃないか? 価値観なんてひとそれぞれだ。自分にとっての最高の物語が、隣にいる人間にとってもそうであるとは限らない。むしろ、そうでないことのほうが断然多いくらいだ。――まあ、その多様性ってやつが、人類を滅亡から救ってもいるんだけどさ。最近は自滅に向かいそうな雰囲気もあるけど」
防球ネットの向こうのグラウンドでは、少年たちの声が、マウンドの上の少年に、励ましの声を送ったり、プレッシャーを与えたりしていました。ふたりの人間のいる歩道を支配していた蝉の一団は、休憩に入ったのか、それとも新世界を求めて旅立ったのか、現在は、その支配権を、葉擦れの音や、遠くに聞こえる、バイクや、車の声にゆずっていました。
「おまえにとってはどうなんだ?」
そのために、黒縁眼鏡の人間の声は、これまでとなんら変わらない調子で発せられたその声音は、蝉の合唱などに邪魔をされることもなく、隣の人間に、次のような質問を送ることができました。
「おまえにとって、過去は変えたいものなのか?」
野球帽の人間からの返答は、すぐにはやってきませんでした。それが、出しぬけに蝉が大合唱を始めたからなのか、グラウンドで金属音が鳴り響いたからなのか、それとも、黒縁眼鏡の人間のポケットから着信音が聞こえてきて、黒縁眼鏡の人間が、スマートフォンタイプの携帯電話を取りだして、その世話を、右手だけで始めたからなのかはわかりません。
ひとつ確かなのは、その答えが返ってくるまでには、授業中の教室内で、ベランダ側の席にいる生徒と、廊下側の席にいる生徒との間で、小さな手紙が一往復するのと、だいたい同じくらいの時間が必要だったということでした。
「過去を変えたいと思ったことのない人間なんて、ひとりもいないんじゃないか?」
野球帽の人間は、グラウンドを向いたまま言いました。その声は起伏に乏しくて、ともすれば、口先だけで述べられている、誰かに用意されたセリフのようにも聞こえました。
「変えたい過去なら俺にだっていくらでもあるさ。その筆頭は〝俺が野球部に入った理由〟だな。あんな地球温暖化の要因と言われても納得できそうな熱血野郎の挑発なんかに乗って、あまつさえ勝負に負けてその軍門に降ったなんて死にたくなるような話は、末代までの恥でしかない。俺がこの世界の構成を任せられたら、まっさきに修正するのはその箇所だな。それから高一のときにテニス部に入ったのも失敗だった。美人ぞろいの女子テニス部を観察し放題なんて誘惑に乗らなければ、あんなしち面倒くさい人間関係に自分の名前が書きこまれることだってなかったはずなんだ」
「そのわりにはちゃんと練習にも顔を出して、インターハイのメンバーにも選ばれていたようだが?」
「テニス自体は面白かったんだよ、テニスに罪はないからな」
「そうなのか? 俺はてっきり、ポニーテールの似合う女子テニス部所属の後輩と、もっと顔を合わせる機会を増やしたかったからだと思っていたんだが」
「残念、俺の狙いは同学年の〝氷の女帝〟のほうだったよ。解かしきる前に留学しちまったのは計算外だったけどな」
少年たちの声がその勢力圏を拡げると、グラウンドの一角では、打席に立っていた打者がバットを置いて、一塁に向かって駆けていきました。二塁と三塁にもそれぞれ走者が進んで、空いている塁は、これで、全部なくなってしまいました。
「あと、入試がめんどいけど高校選びもやり直したいところだな」
マウンドに集まる少年たちを眺めながら、野球帽の人間が平坦な声で言いました。
「すなおに通学が一番楽なトコにしとけばよかったよ。わざわざ野球部のない高校を選んだってのに、なんで作りやがるんだろうな、あの熱血野郎は」
「野球がやりたかったからだろう」
「だったら野球部のある高校に行けって話じゃないか」
「しょうがないだろう、入学式当日まで、あいつはうちに野球部が存在しないことに気付かなかったんだから」
「そしてデウス・エクス・マキナよろしく、暇を持て余してたもの好きな阿呆どももあの学校に集まっていたと? 人外の意図的な意志を感じる話だな」
マウンドに集まっていた少年たちが散り散りになると、マウンドには、身体の小さな少年ひとりが残りました。
「おまえは女子剣道部が目的であの学校を選んだんだっけか」
「そのセリフから〝女子〟という単語を削除すれば、おおむね正解だな」
「やめてよかったのか? 剣道部」
小さな少年が投球を開始するのを眺めながら、野球帽の人間が口調を変えずに訊ねました。
それに対する黒縁眼鏡の人間からの答えは、小さな少年の投球がボールと判定されるまでは、辺りの空気を支配する、蝉の合唱の中に割って入ることはありませんでした。
「妹の頼みを聞くのは兄の務めだからな」
「このシスコン野郎」
「そう褒めるなよ。――おまえこそよかったのか? テニス部をやめてしまって」
継ぎ目のないやりとりの終わりに黒縁眼鏡の人間が言いそえると、野球帽の人間は、その肩を軽く動かしてから、口を動かして言葉を返しました。
「俺の場合は熱血主将との勝負の結果だっての。だから俺に選択権はなかったよ」
「じゃあ、その勝負で勝利にこだわらなかったのはなぜなんだ?」
黒縁眼鏡の人間が返す刀で訊ねると、防球ネットの向こうから、蝉の勢力圏を切り裂くような金属音が聞こえてきました。
低く速い打球は一塁線を切れたらしく、マウンドの上の少年は大きく息を吐いて、三人の走者は、それぞれの塁へと戻っていきました。
「三打席勝負で、おまえの投げたボールを一回でも前に飛ばせれば向こうの勝ち。逆に飛ばされなければおまえの勝ち」
捕手のサインに頷いて、セットポジションに入る小さな少年にこげ茶色の目をやったまま、黒縁眼鏡の人間は、これまでと変わらない口調と声で言いました。
「俺が見ていたかぎりでは、おまえは、二十一球中一球も変化球を投げなかった。全部フォーシームのストレートで、キャッチャーはミットをかまえているだけ。タイミングが合ってきていた三打席目も、同じテンポの投球動作で、最後の最後まで、緩急の〝か〟の字もない同じ速さのストレート一辺倒」
「まっすぐだけで押し切れると思ったんだよ」
「中途半端な投げ込みしかできていない状態の、真ん中高目のストレートでか?」
黒縁眼鏡の人間が問いを重ねると、辺りの木々で、蝉の騒ぎが大きくなりました。それはすぐには収まらず、ふたりの人間は、しばらくの間、音の作る見えない壁によって、蝉の歌声以外の音色からは、断絶させられてしまいました。
そのためなのか、あるいは別の理由があったからなのかはわかりません。ただ、「たまには首を振らずに投げてやろう」という野球帽の人間の声は、蝉の声がしっかり途絶え切るまでは、彼の口から、出てこようとする様子も、現れようとする気配も、まったく見せることはありませんでした。
「あのときの俺は、確かにテニス部を離れてもいいかなとも思っていたよ。インハイも終わったあとだったし、あのぎすぎすした人間関係からもさっさと解放されたいと思っていた。でも野球部に入りたいとは思わなかった。あの熱血野郎じゃなくてかわいい女子マネージャーに誘われなかったからってのもあるけど、高校野球だけは、自分から進んで始めようとはどうしても思えなかった」
「過去の記録から掘り出されるからか? おまえの兄貴が」
「七年くらい前なら簡単だからな、掘り返すのも」
辺りの空気を金属音が切り裂いて、打球は、今度は三塁線を切れていきました。
「だから、まあ、正直どっちでもいいやと思って投げてたよ。サイコロの偶数と奇数で行き先を決めるみたいに、気楽な気持ちで、ストライクだけを狙って投げていた。そしたらあの熱血主将に打たれちまって、俺は約束どおり野球部に入ることになっちまったってわけさ。親父たちはいい顔しなかったよ、気持ちはわからんでもないがね」
その小さな肩で息をしているマウンドの上の少年は、一度捕手のサインを嫌ってからセットポジションに入って、その右腕から白球を投じます。
打者のインコースを攻めたストレートは、しかしボールの判定。
「おまえにこの話はしたっけかな」
捕手からの返球を受けとる小柄な少年を認めながら、野球帽の人間が、その淡々とした口調を変えないままに言い出しました。
「俺でもぎりぎり知ってるくらいには有名な出版社が、兄貴を題材にした本を出さないかって話を、うちの両親のところに持ってきたことがあったんだ。確か、あれは兄貴が天国に引っ越してから半年後くらいで、親父もお袋も、ようやく兄貴のいない現実を受け入れ始めていたころだった」
「ちょうど今くらいの時期か」
「訪ねてきたのは男女のふたり組で、男のほうは四十代の半ば、女のほうは二十代の後半ってところだったかな。その場には俺もいたからよく憶えてるんだけど、最初は渋ってた親父たちも、交渉慣れしてるっぽい男の話に乗せられて、もう少しで、話はまとまりそうになっていた。『この本が出版されれば、彼は、多くのひとの心の中で、これからも生き続けることになるはずです』ってセリフが、きっと、昼に食べた素麺かなんかと、変な化学反応でも起こしちまってたんだろうな。とにかくそんなわけで、評判がよければメディアミックスもって方向で、話はまとまろうとしていたんだ。そんなときに俺が口を挟んじまったんだな。ほとんど置物役に徹していたみたいなもんだったから、俺が口を開くと、相手はちょっとばかし、その声の出どころを探さなくちゃならなかった。親父たちも若干まごついていて、動じてなかったのは、俺と同様に置物役に徹していた女くらいのものだったよ」
金属音が生じて、それに伴って生まれた打球は、バックネットに直接当たりました。
「俺を見る彼女の目は非難そのものだったよ。ようやく退屈な時間が終わろうってところで、まだ義務教育も終えていないガキが、何か馬鹿なことを言い出して、その時間を長引かせようとしているんだからな。腹を立てる気持ちはわからなくはなかったけど、そのときの俺の口は、彼女に対する謝罪じゃなくて、やっとのことで俺を見つけたらしい男への質問を選んだ。俺が訊いたのは、確かこんなことだった。『具体的には、どんなエピソードを、どのような順番で載せるつもりなんですか?』――賭けてもいいけど、この質問にはなんの意図もなかったし、俺はただ、思いついたことを訊いてみただけだった」
「口を縫い付けておく努力も怠らなかったと?」
黒縁眼鏡の人間が問うと、野球帽の人間は、軽くその肩をすくめてみせました。グラウンドには金属音が響き渡って、そこから生じた打球は、早々に地面と接触すると、三塁線の外側へと転がっていきました。
「その男は存外にお人好しな性格の持ち主だったみたいでな、そんな質問をした俺に、男は、紙とペンを使って、自分がどんな具合にうちの兄貴の人生を再構成しようと考えているのか、懇切丁寧に説明してくれたんだ。それは皮肉なしになかなか上手い説明で、親父たちも、興味津々って感じで聞き入っていた。俺も最初はちゃんと話を聞いていて、自分の記憶と違うところはないかって確認してもいたんだけど、男の話の中盤くらいからは、俺は、今にも自分が笑いだすんじゃないかって心配になって、正直それどころじゃなくなっていた。あの場で笑いださなかった俺は、わりと真剣に褒められてしかるべきなんじゃないかと思うよ。神童のごとき幼少時代。才能が開花し始めた小学生時代。上級生との対立に苦悩した中学生時代。無名校を甲子園に導いて、悲劇のヒーローとなった高校生時代。そして襲いくる突然の病魔、絶たれた未来、恋人との涙の約束、そして家族との最期の別れ――。男の説明が終わったとき、俺は思わずこう叫びそうになったよ。〝なんてこった! 自分が一度は憧れて、その存在自体になりたいとさえ願った相手は、お涙ちょうだいストーリーの主役だったのか!〟――ってな。代わりに俺がなんて言ったのかは、おまえなら予想くらいはできるんじゃないか?」
黒縁眼鏡の人間の回答は、金属音が生んだ打球が、三塁側ベンチの上を通過して、防球ネットに、その役割をまっとうさせたあとに聞こえてきました。
「〝それで、自分の兄はどこに出てくるんですか?〟」
「おまえはいつからエスパーになったんだよ?」
「一昨日の十五時くらいからだな」
「一昨日の十五時? メロンか?」
「いや、うまい棒のチキンカレー味だ」
「なるほど、チキンカレー味ならありうるか」
シームレスなやりとりに野球帽の人間は納得すると、グラウンドに目を戻して、「まあ、とにかくそういうことを口走っちまったわけなんよ、当時の俺は」と、相変わらず淡々とした調子で、けれど、最初の頃よりは起伏に富んだ声で、辺りの空気を震わせました。
「そのあとのことで特筆すべきことは、置物役の女がなぜかツボに入ったらしくこらえきれずに吹き出して、その仕草で俺をときめかせかけたことくらいかな。場は完全にしらけちまって、話はなんかうやむやになって、結局、うちの兄貴を題材にした本が、世の中に出回ることはなかった。親父たちはちょっと期待しちまってたみたいで、男のほうとは何度か連絡を取ってたらしいんだけど、執筆担当だった女のほうが降りたとかどうとかで、企画自体がなくなっちまったって話だったかな」
「つまりおまえがつぶしたわけか」
「つぶしてねえよ。ちょっと突っついたら勝手に倒れたんだよ、穴だらけのジェンガみたいに」
野球帽の人間がそんな言いわけを口にすると、防球ネットの向こうで、金属音が響き渡りました。
打球が向かったのは、二塁手の正面。ボールは二塁手から遊撃手へ、遊撃手から一塁手へと回されて、二塁へ向かった一塁走者と、一塁を駆け抜けた打者には、それぞれに、ひとつずつのアウトが宣告されました。
黒縁眼鏡の人間が、グラウンドを向いたまま訊きます。
「ここは走者一掃のツーベースじゃなかったのか?」
「打者の打ち損じは乱数扱いなんだよ」
「ご自慢のゴーストはどうしたんだ?」
「昨日から機嫌悪いんだよ。サヤちゃんと電話で話したあと辺りから」
「ちょっとその話を詳しく聞かせてもらおうか?」
「軽い世間話くらいしかしてないっての。疑うんなら本人に確認してくれ」
「もちろんそうするつもりだ。――で、何が気に入らなかったんだ?」
「俺の兄貴があんなに聖人君子なわけがない」
野球帽の人間は、急な問いかけにも特に戸惑うことも混乱することもなく、いとも簡単に、歌うような調子でそう答えてみせました。
「親父たちがどう思ってるかは知らないけど、あの兄貴は悲劇が似合うような人間ではなかったよ。文武両道、質実剛健、眉目秀麗――。そんな言葉が与えられてもおかしくない人間だったし、高校球児としても、全国でも指折りのピッチャーだったことは間違いない。俺も小さい頃は憧れていたし、あいつ自身になりたくて、あいつのいろいろなところを真似したりもしていた。野球を始めたのもあいつの影響だったし、俺がピッチャーにこだわっていたのも、あいつがピッチャーをやっていたからだった」
野球帽の人間の目は、先ほどまでとは違う少年たちが散らばるグラウンドを捉えていました。マウンドには背の高い少年が立っていて、その身体を存分に使った投球は、中学生のものとは思えないような迫力を携えていました。
「確かに兄貴は優秀な人間だったよ。周りからは男女問わず慕われていたし、無責任に背負わされた期待にも、そのほとんどには期待以上の成果を残すことで応えてみせていた。――でもそこまでだった。兄貴が主人公でいられるのは高校野球が限界で、そのあとまで主人公であり続けるには、どうしようもなく〝才能〟が足りなかった。兄貴にあったのは四、五年にひとりって程度の才能で、あの〝天才〟みたいに、百年にひとりってレベルの才能じゃなかった。だから、――だからあのわけのわからん〝介入〟の元ネタになったうちの兄貴の人生最後の試合も、兄貴にとっては、天国へ引っ越すきっかけとしては、悪くないどころか、うってつけでさえあったと思うんだよ」
蝉の合唱がひと息つくと、防球ネットの向こうでは、見事に空振り三振を奪ってみせた長身のピッチャーに対する、少年たちの歓声が生まれていました。
次に打席に向かうのは、少年たちの中でも、ひときわ小さな身体を持つ少年。その姿に目を留めながら、野球帽の人間は言葉をつなげます。
「打球は兄貴の頭蓋骨にひびしか入れなかった。でも、その半年後に当たったところとちょうど同じところに悪性の腫瘍が見つかって、その進行は、ふつうよりも異常に早かった。治療が始まって三ヶ月後にはほかの臓器への転移も見つかって、その九ヶ月後には、天国への単身赴任がどこぞの誰かから言い付かわされることとあいなった」
金属音をふたりに届けた打球は、バックネットにまっすぐ直行しました。
「正直ずるいと思ったよ。俺がほしいと思ったものはなんでも簡単に手に入れて、見目麗しい幼なじみの彼女なんてフィクション以外では滅多にお目にかからないような絶滅危惧種まで持っていたやつが、ようやく自分が主人公なんかじゃないって現実とご対面すると思ったら、それを一気に飛び越えて、天国の住民票を手に入れやがったんだ。そりゃないだろって思ったよ。兄貴はこれからプロになって、そこで才能の限界を知って、一軍でもある程度の活躍はするかもしれないけど、二十年後くらいには、一部のマニアしか知らないような選手になってるはずだったんだ。それなのに、神様の依怙贔屓野郎は兄貴を悲劇の主人公に仕立て上げて、自分の力じゃどうしようもない挫折ってものから、きれいに違和感なく逃れる方法を与えちまいやがったんだ。これを笑わずに何を笑うって言うんだろうな。ようやく兄貴も〝ただの人間〟としての人生を始めるんだと思ってたら、泣くことを強要される悲劇のフリした喜劇が待っていて、舞台が跳ねると、うちの兄貴はそのまま、天国の住人になっていやがったんだ」
グラウンドに金属音が響いて、ふたりの視線が追った打球は、一塁線を切れていきました。
「この頃くらいからだな、俺が、神様のくそったれ野郎を、いつか全力のグーでぶん殴りたいと思うようになったのは」
野球帽の人間の黒色の瞳は、打席を外れて、素振りを行う小さな少年を向いていました。
「あいつは自分が気に入った人間のためなら、その周りに不幸を振りまいたってなんの問題もないと思ってるんだ。冗談はよしてくれって感じだよ。うちの兄貴が泣ける小説の主人公よろしくとっとと天国に移住しちまったおかげで、うちの両親は兄貴を天使か何かと勘違いしちまってるし、元恋人に至っては、いまだに兄貴の魂を追い求めることをやめらんなくて、俺に会うと、三回に一回は泣きだす始末なんだぜ? まったくふざけた話だよ。人間はてめえの道具なんかじゃないってことを、どうにかしてあのドぐされ野郎に思い知らせる方法はないもんかね? できれば相手が、猫のくわえてきた何かみたいな気分になるようないかした方法で」
金属音が鳴り響いて、速い打球が外野手の間を駆け抜けます。
一塁ベースを蹴って二塁に向かうのは、少し前まで、マウンドの上に立っていた小柄な少年。
「強気に引っ張るところもおまえに似ているな」
「俺なら柵越えさせてますよ、あんな甘い球は」
結局三塁に到達した身体の小さな少年は、三塁側ベンチに向かって、大きなガッツポーズを作ってみせます。それに応える三塁側ベンチの喝采は、蝉の合唱の勢力図の、その半分以上を奪ってしまうほどのものでした。
「一条カノンか。女子みたいな名前だな」
「同じ名前の女子が三人も同じ学校にいるおまえさんが、ひとのこと言えんのかい?」
「――俺たちにできることは多くはない」
黒縁眼鏡の人間は、これまでと変わらない声で、変わらない口調で言いました。そのこげ茶色の双眸は三塁ベース上にいる少年を捉えていて、その顔には、いくつもの感情の折り重なった、一見するだけでは無表情にしか見えないような、ひどく薄くて、やわらかさのある、不思議な色彩の表情を乗せていました。
「相手は見えないどころか、この世界にハッキングして、俺たちの人生を好きなように書き換えることも可能な存在だ。こちらからは手の出しようもないし、その存在の在処を知覚することも叶わない。まさに〝神〟という名にふさわしい存在だ。そんな存在にとって、俺たちは実験動物みたいなものなのだろう。その手のひらの上から逃れることはできないし、そもそも、俺たちは、その手のひらの上のどこに、自分たちがいるのかということさえも理解することができない。彼我の差は圧倒的で、たとえ人類が結束してかの存在に戦いを挑んだとしても、それは勝負にすらならない。というより、かの存在は、俺たちが存続するためには不可欠なもので、その消滅は、俺たちの消滅をも意味する。俺たちが選べるのは〝共生〟の一択だけ――。そんな相手に対して俺たちができることは、ほとんどひとつだけと言ってもいいかもしれない。それは〝自らを保つ〟ということだ」
金属音から生まれた打球は一塁側ベンチに飛び込みますが、ひとりの少年が華麗に捕球を決めたため、先ほどまでとは、一風変わった少年たちの歓声が、グラウンドの一角を占めることになりました。
「自らの意思で物事を選別し、自らの意志で行動を決める。簡単に言えば自分らしく生きるということだ。自分らしくとは言っても、己の欲望の奴隷になれということではない。自らを律し、自分がすなおに、その心の底から〝そうあるべきだ〟と感じる自分を捉えて、それを目指して自らを生きる。神の如き存在の介入に対抗するには、これ以外の方法はないと俺は思っている」
「空気なんか読まずに自己中になれと?」
「ある意味ではそういうことだが、俺たちは俺たちだけで成り立っているわけではない。正しさはその立場によっても変わるものだ。自我は環境から離れることはできない。理想はその差異も乗り越えることだが、理想は理想で、現実は現実だ。それでも各々が〝かくあるべきだ〟と感じる自らを志すことは無駄ではない。己を持つということは、自分の中に一個世界を持つということだ。即効性はないが、それは確実に、ゆるやかに、世界に影響を与える行いになる。そうしてひとつの流れを得た世界を、仮に見えざる書き手が歪ませようと試みれば、その歪みは、はっきりと、俺たちの目の前に現れる。与えられた条件から、曲がらなければいけないはずボールが、直進するといったような形を取って」
少年たちの声が蝉の一団に対抗して、三振を奪ったピッチャーに、祝福の声を送り届けます。
二死三塁。
打席には、三塁側のネクストバッターズサークルから、この回四人目の打者となる少年が歩みを進めて、その背には、三塁側ベンチから、期待と声援が与えられました。
「あんな一瞬じゃあ、相手を捕まえることもできないけどな」
「それでも無抵抗にはならなくてすむ。――もっとしっかり打球を弾いて、ボールをセカンドの守備範囲に落としてくれていたら最高だったんだが」
「むしろ触んないほうがよかったんかもな。あの打球の速さじゃあ二塁ランナーは帰ってこれなかったろうし」
「そして次の五番を抑えてゲームセットか。もし本当にそうなっていたら、今日は〝王様〟とデートをしなくてもよかったんだがな」
「何言ってんだい」
野球帽の人間は、淡々とした調子の声に、ちょっとした軽さを与えてから言いました。
「今日は準決勝にうってつけの日なんだ。こんな日に決勝なんてやったら、もったいないお化けが出てきておまえんちのサヤちゃんをさらって行っちまうぞ?」
「おまえはさらわないのか?」
「おたくのサヤちゃんを?」
「その従姉妹をだ。――初恋の相手なんだろう?」
「初恋は上手くいかないもんだよ」
蝉の合唱にまぎれるように、野球帽の人間の声が言いました。そのセリフには、「俺じゃあ代打にしかならないからな」という続きがありましたが、勢力を拡げた蝉の合唱や、グラウンドで生まれた金属音の産声と重なったために、その言葉は、黒縁眼鏡の人間の耳にも、ぎりぎり届いたかどうかといったあんばいでした。
「そろそろ戻るか」
黒縁眼鏡の人間が提案すると、「そうだな」と、野球帽の人間が応じました。
「時間までに戻らないと、もの好きな馬鹿どもが俺らの分の朝食まで平らげてしまいかねないからな」
「そのあとは対〝王様〟戦か。――あの〝天才〟から三振を奪えたら、サヤカを一回くらい泣かせても許してやるぞ」
「おいおい、こっちは寿命を数年縮ませる思いで投げるんだ。そこは一気に〝口説いてもいい〟くらいのサービス精神を発揮していただきたいね」
「意味ないだろう、どうせ口説かないやつにそんな許可を出しても」
「おまえの妹じゃなかったらなあ」
「彼女の従姉妹じゃなかったら、だろ?」
野球帽の人間が肩をすくめると、ふたりの人間は、そろって、木々に挟まれた歩道を歩き始めました。左右の緑の間には蒼穹が覗いていて、それを覆い隠してしまうような雲は、どこにも見当たりませんでした。
「おっ?」
聞こえたのは金属音でした。
どこか涼しげなそれを追いかけたのは、少年たちの活気にあふれる喚声。
「こりゃ外野フライだな」
「いや、その頭を越えるスリーベースだろう」
「賭けるか?」
「望むところだ」
熱気を帯び始めた空気を震わせる、そんなふたつの声が見届けたのは、
「何やってんだ、あのヘボピッチャーは」
ひとつの声がそんなことをぼやきたくなる、とあるグラウンドでの一場面でした。
「じゃあ、PS4をよろしく」
「〝ノーゲーム〟ってことで手を打たないか? 相棒よ」




