夢の中で
「……………は?」
今まで生きて来た17年間の中で、1番マヌケな声だったと思う。
叫ばなかっただけ私を褒めてほしいくらいだ。
「なにマヌケな顔してんだよ。そんなに自分の顔見て嬉しいのかよ」
鏡に映る私は、小さいころそのままだった。
やっかいな癖っ毛や、色素が少し薄めで茶色に見える瞳も、端だけ変なカールをした睫毛も。
「どういう、こと…?」
「あら、久しぶりねぇ青葉ちゃん」
「ど、どーも………」
「青葉、緊張してるのかしら。ガチガチになっちゃって」
緊張してますよいろんな意味で、ええ、現在進行形でね!
あれからとりあえず千秋…君を部屋から追い出し(文句たらたらだったけれども)とりあえず渡されたワンピースに着替え(下着とかちっちゃい子用だし凄いスースーするけど)
ご機嫌ナナメな千秋君に連れられて一回のリビングへ降りた。
一階では2人の女性が談話していて、そこに手を引かれた私は千秋君と共に突っ込んでいく。
「母さん!青葉着替え終わった」
そして冒頭へ戻る。
千秋君のお母さんは、あら、なんて言ってるけどとてもボーイッシュな人柄のようだった。
染められていないツヤツヤした黒髪からは、清純さよりも凛々しさを感じられるし、それを肩口で揃えて切っているあたり仕事の邪魔にならないようにだろう。
「千景さん、せっかくお仕事お休みなのに車運転してもらってごめんなさいね」
「ふふ、いいんですよそんなこと。千秋も青葉ちゃんと出かけるの楽しみだったから」
千秋君のお母さん____千景さんは、女性にてしては少し低めの声でクスクスと笑うと、細身のパンツから出したキーをチャリ、と目の前で揺らしてみせた。
「もうそろそろ行きましょうか。海は暑いうちに入るのが一番でしょう?」
「俺たち先に入ってるから。行くぞ青葉!」
「え、ちょ、ま…っ⁉」
千秋君は千景さんから鍵を奪うようにひったくると、左手で私の右腕を掴んでリビングの扉へと走る。
「鍵さしてクーラーつけといてねー」
いや、あの、呑気に言ってないで千景さん千秋君を止めてくれませんかっ⁉
そう叫ぶことも出来ず、リビングのドアは無情にも閉じられた。
バタバタと慌ただしくサンダルを履いて、引っ張られるまま玄関から飛び出す。
不意に感じた熱気に視線を上げれば、目を刺しそうなほど鋭い陽光に、くらりと目眩がして_______、
「え………っ⁉⁉」
暗転と共に、ふと目を開ければ、何事もないように見慣れた木目の天井が広がっている。
熱かった体が、ざっと冷めていく。
寝てるうちに汗でもかいたのか、来ていたスウェットは湿って体に張り付いていた。
「ゆ……め…?」
夢にしては、リアルな夢だった。
体は自分の意思で動いたし、自分の意思で話すことも出来たのだから。
それと、掴まれた腕の質感。
“千秋君”に掴まれた腕が、冷えた体の中で唯一熱を持っていた。