リスト×リスト
もし評判が良ければ、これをもとに長編を書けたらな~と思っていますが、面白くないと思います。
僕は何かにつけて、クラスメイトに変だといわれる。
まず、一応誰も聞いていない見ていないところでは一人称僕。だけど誰かが見てる訊いてるかもしれないところでの一人称は私。
次に、よくメモをとっていること。
授業中、ノートの上にはメモ帳が置いてあって、授業とはほとんど関係のないことを記している。
家に帰ると、自分の部屋にこもってそれをリストにする。
ランキングを作ったり、勝手にメンバー表を作ったり。
そうしてクラスメイトの交友関係を大体把握し、何かあった時のために役立てようと思っている。
その何かは、今のところ起こっていないが。
いじめもなく、僕以外ははぶられていない平和なクラス。
いつまでも、少なくともこの学校を卒業するまでは、この日常が続くと思っていた。
ある日、メモ帳を移動教室の時に忘れてきたのに気付き、放課後、取りに行った。
誰もいないだろうと思っていたその教室に、ある女生徒がいた。
僕にはコミュ力が発達していない。
たまたまその女生徒が座っていた机の中に、僕のメモ帳がある。
声をかけることはできない。
近付けば、迷惑をかけてしまうだろう。
だがあの中身を人に見られるわけにはいかないから、このまま帰るという選択肢はない。
迷っているうちに、女生徒が気付いた。
驚いたのか、目を大きく見開いていた。
「いつから?」
少しして、彼女は立ち上がり、手首を押えて近寄ってきた。
セーラー服の胸ポケットからは、刃を収納したカッターナイフがのぞいていた。
刃は錆がついていて赤黒い。
「いつからそこに立っていたの?」
顔を近づけてくる。
僕は身長が小さいから、上から見下ろされてる形。
答えに窮する。
さっきからと答えればいいのか、正確な時間を答えるべきなのか。
それと、人を前にすると緊張で、声が出ない。
普段ならば、滅多に声をかけられないので支障はないし、声を掛けられても筆談で乗り切っている。そこも、変だといわれる要因の一つ。
筆談の際は、常に持ち歩いているメモ帳の最後のページを使っている。
だが今、そのメモ帳は女生徒が座っていた机の中。
書くものがない。
シャープペンシルも、メモ帳に挟んである。
「なにか言いなよ」
このまま立っていても進展はないと判断し、彼女の横を通り抜けて机の中からメモ帳をとりだした。
最後のページを開き、返答を書こうとした。
だが、そこには明らかに僕ではない字で、すでに文字が書いてあった。
『 』
薄く透けて見えていた次のページもめくってみると、
『勝手にこれを使うことを
許して下さい』
その文字の上には、カッターナイフについていたのと同じ色をしたシミがあった。
入口に立ったままこちらを見ている女生徒のほうをうかがうと、彼女は俯いていた。
その反応からして、これは、彼女の字であろうと思った。
書かれること自体は構わないのだが、書いているということはおそらく、内容も読んでいる。そこは、どうしても、許せない。
小学校のころも同じようにノートに色々なことを書いていて、見られてしまったとき、感情が抑えられなくなって問題を起こした。
それから、周りとの間に距離が生まれた。
親が周りの視線に耐えられなくなって病気になり、僕は転校し、片親が事故で死んだ。
ますます病んだ親は、専門の施設に入院した。
それから僕も少しは反省し、絶対に中を見られることがないよう、細心の注意を払った。
持ち運びやすいよう、ポケットに入るサイズのメモ帳にし、その存在を隠した。
今日のように忘れたのは、初めてだった。
だが、見られてしまった。
感情が高ぶってくるのを必死に抑え、震える指でシャープペンシルをつかみ、文字を綴る。
荒くなった呼吸を整え、それを、近寄ってきていた女生徒に見せる。
『中を見たか?』
彼女はまた目を見開いた。
少しして頷くのを見、反射的に振り上げた腕をゆっくりと下ろす。
『私が来たのは
さっき』
『その手首の傷も
血痕の理由も
見てはいない』
僕が集めたリストに、彼女の名も存在する。
隣のクラスの美化委員で、成績中の上。外見はそれほど目立つわけではなく、秀でてよいところはない。運動が好きで、体育の授業中はよく笑っている。その笑顔に惹かれる男子多数。家の都合で部活動には所属していない。
そして、先生たちの間では有名な、要注意人物。
僕は因みに、重度の、注意しすぎるに越したことはない人物。
そこまで思いだして、カッターナイフについていたのが錆ではないことに気づく。
あれは、彼女自身の血液が乾いたものだ。
このメモ帳についていたのも、きっと。
『リストカットは
あまり効果的ではない』
それを見せると、彼女はまた、目を見開いた。
あまり彼女といると、また感情が抑えられなくなりそうだった。
足早に立ち去ると、教室で荷物をまとめ、立ち入り禁止の屋上へと向かった。
屋上につくと、ライターを取り出し、メモ帳の今日使ったページを破る。
赤く熱をもってそれが灰になって飛んで行くのを見届け、鞄で屋上へと続くドアを押えたまま、感情の高ぶりを抑えるため、屋上の床を蹴った。
屋上にコンクリートの欠片をまき散らし、それと共にこの感情も出ていくよう願いながら。