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スワッシュ一号『いやーいいねー。楽しみだよ。ゲスちゃん』
guess-man『何がや?』
すぐに返事が返ってくるパソコンの画面を見て、妙な髪型の少年は満足そうに笑う。彼、スワッシュ一号、こと桐繁深理は、暗室の中で妖しく光るコンピューターの画面だけを見ている。彼は今、チャットに興じているのだ。
右手にペットボトルを持ち、それをたまに口につける。そして、もう片方の手では爪切りを弄んでいる。
妙な髪型を除けば、至って普通の少年だ。彼は年齢的には青年になるのかもしれないが、童顔なので、少年という呼び名がふさわしい。
彼は、電灯を好まない。身体を照らす光は太陽だけで十分だ、とよく分からない考えを持っていた。
“テレビやパソコンの画面を見る時は、明るくして、離れて見てね”
そんな言葉が桐繁の頭に過るが、気にする様子は微塵も無い。なんせもうすぐ大学生なのだから大丈夫だろう。——実際はそんなことはないのだが、そう考えていた。
スワッシュ一号『僕の直感がね、疼いてるんだ』
guess-man『そんな言い方あるん?』
スワッシュ一号『そこはどーでもいいんだよ。俺は、楽しみなんだ』
guess-man『だから何がや?』
もう一度同じ事を聞かれた桐繁は、ニヤリと笑う。そして、画面に向かって、話しかけた。
「面白い物、いや、面白い奴が現れるって、俺の直感が言ってるんだ。アハハハハハハ」
吹っ切れたように笑い出すその姿は、どこか狂気に満ちていて、おぞましくも思えた。
その目には、ただ純粋に、欲望があった。しかし、その欲望はドロドロとしたものではない。子供がおもちゃを欲しがるような、純粋なものだった。本当にまっすぐで、まっすぐで、無邪気だった。
「俺は、面白いものが大好きだーーー!」
そう叫び、寝転がる。単純かつ明快。しかも、知能を持った人間にとって当然のことを口に出しているだけだった。
——しかし、それだからこそ異様だった。
桐繁深理は、異様という言葉で全てを語れてしまうような、そんな男だった。
guess-man『おーい。スワッシュー』
guess-man『おれへんのかいな』
アナウンス『スワッシュ一号 さんが退室されました』
guess-man『帰りよった!』
guess-man『身勝手な奴やなー』
guess-man『俺も帰るで』
アナウンス『guess-man さんが退室されました』
アナウンス『参加者が0名になりました』