一、二、
東京都中央区銀座晴海通り
「ねーねー。優さーん。あの店。おしゃれじゃない?」
女の呼びかけに彼氏と思われる眼鏡の男が苦笑した。
「おしゃれだからって、もう駄目だよ?」
いち早く釘を刺され、えー、と駄々を捏ねる女。
「えー、って……。こんなに買ったからね。今日は」
そう言って男は両手に持っていた多くの紙袋を胸の辺りまで上げた。男は痩せているもののかなりの上背があるので、女からはその紙袋の模様しか見えないのだが。
「……で、でもさー、銀座来るのたまにだからいいじゃーん」
「もう財布がきついんだよ」
男は、そう言って苦笑した。そしてその笑みを、段々と純粋なものへと変えてゆく。その笑みにつられて女も笑顔になり、女は男の腕に抱きついた。
「おおっと」
男は一瞬驚いたような表情をしたが、また笑顔になりポンポン、と優しく女の肩を叩く。
その時、――そんな幸せな一コマに、ピリピリピリ、という音が割り込んだ。二人のズボンのポケットから軽快な音が同時に鳴り響いた。おっと、と男が細目を見開く。次の瞬間には口元に先程とは異質な笑みを浮かべていた。
「臨時収入が来るね」
女はパッと飛びのいた。
「じゃあここの店、後で来ようよ」
間に髪を入れない女の言葉に男は溜息さえつかずににっこりと笑った。
「いいよ。上手くいったらね」
「ホント? やったー」
喜ぶ女を見ながら男はポケットから音の発信源を取り出した。続けて、女も取り出す。
携帯電話のようだが、どこか違和感のあるそれは、形、色と共にお揃いだった。しかし、その青い機体にはそれぞれ違う絵が描いてあった。
眼鏡の男は目の絵。そして女はたくさんの黒い糸——いや、髪の毛の絵。
「路地に入ろうか」
「……うん」
二人――佐々本優と針矢沙羅は段々と緊張した面持ちになりながら近くの路地へ急いだ。
三十秒後には、彼らの賑やかな話し声は、——銀座から消えていた。