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「つまり、ここは能力を持った人が集って、依頼をこなす組織だと」
「そうそう、自分の能力を有効利用してね」
佐々本は満足そうに頷く。
伸也の頭の中は、少しずつ解れてきていた。自分の居場所なのかもしれない、ここは。とも思っていた。しかし、まだまだ解らないことはある。百の混乱度が七十になっただけなのである。
伸也は、より深く理解するために、佐々本のもう一つの説明をゆっくりと思い出していた。
『僕達は、体の一部だけ、超人的な能力を持っているんだ。僕は目。沙羅ちゃんは髪の毛。で、君は舌だね。伸びたり、硬かったり、刃物のように鋭くなったり、本来その器官が成す役割が増強されたり……などなど、人によって多種多様さ。全部できる奴だっている。まあ、それが今解られている事。……で、その能力はどうやって手に入るかと言うと、なんだけどね……』
伸也の頭の中にいる佐々本は、そこで一息つく。
『君、痛みとか、苦しみを舌に感じなかった? で、気絶しなかった?』
伸也の中の伸也は、うーんと唸った後、あ! と豆電球が頭上に見えるかのような声を上げた。
『この前、というか昨日、ギネス級の辛さのポテチ食ってから歯磨きしたらものすごい刺激でぶっ倒れました』
『……ええ?』
頭の中の一同は、皆同じ角度に首を傾げた。
伸也は慌てた。そして、詳しく説明しようと口を開ける。しかし、佐々本が遮り、まあいいよ、と話を始めた。
『よくわからんけど、まあ、説明するよ』
そこで、佐々本の表情が変わる。
『能力は、体に入り込む、ウイルスのせいだと言われている。ウイルスは死なない。この世界には、それぞれの器官を強くするウイルスがそれぞれ一つずついるんだ。だから、舌の能力の持ち主は世界に君一人。……でね、その能力の持ち主が死んだとする。すると、ウイルスがその体から逃げちゃうんだ。逃げた時、その周辺——まあ、半径千五百キロぐらいだね——で増強される器官に一番痛みや苦しみを感じている人の体になぜかそのウイルスが引きつけられるんだよ。君の場合もそうさ。誰か舌の能力を持った人が日本国内で死んじゃったんだろうね。……駆け足の説明だったけど解った?』
頭の中で言葉を反芻しながら理解しようとしていた伸也は、数秒後に答えていた。
『大丈夫です』
余裕綽々とまでは行かないが、少しだけ自信に溢れたその表情で。
「あのさ、伸也」
既に名前呼び捨ての形で自分のことを呼んでいるのは、いつの間にか煙草をくわえていた針矢である。その声によって今に呼び戻された伸也だが、複雑な気持ちで黙っていた。
——全然理解できない。なんで解った気になったんだろう。
「ねえ、伸也ってば」
「……あ、はい。すいません」
考え事をしていた伸也は、慌てて答える。
フー。針矢は煙をゆっくりと吐き出した。
「あのパソコン見てよ」
針矢に指差された方角には、画面が暗くなっているが、開いたままのノートパソコンがあった。
「……はい。……あの、それで……」
「うん。あれはね、私達の“指揮者”と連絡が取れる一つの手段なの。他にも、私達専用の携帯電話を使う、とかがあるけど……。別室に持ってって、話してみたら? 私達専用の携帯電話もくれるかもよ?」
「……は……い。わかりました」
色々と解らない事が多いが、あのパソコンを持って別室に行けということなのだろう。それなら、と思い彼はパソコンに近づき、手に持った。
「壊さないようにな」
大西が心配そうに言い、カレンが、
「そんな、子供を扱うみたいに言わなくてもいいじゃないですか」
と笑いながら大西の肩を叩く。
きっと仲良いんだろうな。——伸也は勝手な想像をしながら大西に案内された別室へと足を向けた。