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「で、僕がここに連れてこられた訳はなんですか?」
大西に差し出された椅子に座り、向かいと隣にいる大西とカレンに向かって話しかける。
「えっとそれは……」
口籠るカレン。それとは対照的に、大西は堂々とした様子で煙草をふかす。
「いや、まあ何とも言え無え。皆が来てから話す」
「皆?」
自分が対峙しようとしているのは集団なのか。――そう思い、少しだけ身震いする。この二人だったら全く問題は無さそうなのだが、集団は苦手だ。
集団は、世の中のミニチュアと言っても過言ではない。――そう伸也は思っていた。ざっくり言うと、集団の中には、良い人がいれば悪い人もいる。そう思っているのだ。集団では、全員の平均が見られる。ものすごく良い人がいれば、ものすごく悪い人がいる。はずだ。例え良い人だけが集った気であっても、実際は悪い奴だったりとか、集団に与することによって悪い奴になったりとか、そういう人がいると信じている。ここで言う“悪い奴”というのは、伸也にとっての“悪い奴”であり、社会での一般的な価値観に必ずしも当てはまるという訳ではないのだが。
——要するに、伸也は集団を相手にすることが苦手なのである。
そんなことを考えていると、伸也の背後に――急に――人の気配を感じた。
「――ッ!!」
慌てて後ろを振り返ると、そこには二人の人間がいた。
眼鏡をかけた長身の優男風な人と、その腕に縋るように立っている、超絶美女。
伸也は彼らの後ろを見る。——壁。地下室の少しくすんだ色の壁しかない。
ドアは、伸也がずっと目でとらえていた。
つまり、彼らが伸也の視界を通らずにこの部屋に入ってくることは不可能なはずだ。
「ど、どうやっ……て…」
その声は、あまりにも掠れていて、他の人間に届く事は無かった。
「大西君、この子が新人?」
女は、驚いて振り返った伸也の顔をまじまじと見てから大西に目を移す。
——新人? 何の事だろう。
新たな単語に、伸也は不安を覚えるが、それは気にかけられることなく会話は進む。
「ああ。……それより、俺のことを君付けで呼ぶのやめろ。年上の男には、特に敬意を払えとか教わらなかったか?」
煙草をふかしながらの、低いトーン。女にとっては、慣れた受け答えなのか、そのまま大西の言葉を無視する。
――もう、何が何だか分からない。
頭の中で、色々なことが渦巻き、頭が弾けてしまいそうだ。だが考えることをやめると、なぜか危険な気がした。俯きがちになったその時、伸也に向かって笑い声がかけられた。
「大西君に何も教わってないんだろう? かわいそうに。俺が説明するよ」
笑い声、そして少しだけ茶色に染められた髪の持ち主の顔をまじまじと見る。細目の上に眼鏡を掛けており、誰にでも好かれそうな笑みを浮かべている。
その伸也の視線をどう感じたのか、優男は頭を掻きながら口を開く。
「ごめん。名乗ってなかった。……僕は、佐々本。佐々本優。佐々木じゃないよ? ……で、こちらは僕の交際相手の針矢沙羅ちゃん」
よろしく、と針矢が微笑みかけて来たので、慌てて頭を下げる。続けて、佐々本にも。
「俺は、木原谷伸也です。よろしくお願いします」
そんな伸也の対応に、針矢は溜息をつく。
「固い固い。固いよー。私達これから仲間なんだからさあ。もっと、ゆる〜くいこ?」
「沙羅ちゃん、始めっからそれは無理だって」
佐々本がそれを窘めながら、伸也の方に向き直る。そして、先程よりも少しだけ低いトーンで言葉を放った。
「じゃあ、説明するよ」
ゴクリ。
伸也は、なぜか唾を飲み込んでしまっていた。