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お……い。だ……ぶか……。
おーい。だい…………か……。
おーい。大丈夫か?
ぐるぐると回る頭の中で、確かにその声を聞いた。
ガバッ。伸也は、勢い良く起き上がった。が、まだふらふらしていてすぐに頭を地面に打ちつけてしまう。
「あー無理しない方がいいぞ。その薬結構アレだから。強力なやつだから」
ボーッとした頭をフル回転させる。
――ここは、どこだ? カレンに眠らされて……。
——しかもこの男の人は誰だ?
伸也は顔を覗き込んでくる、背が高く、割と“イケメン”な天然パーマの男の目を見る。
「いろいろ聞きたそうな顔だな」
「……は……い」
伸也は、出ない声を絞り出す。男は、フー、と煙を吐き出した。
「まあアレだ。名前、なんていうんだ?」
「木……原谷です。き、木原谷……伸也」
名前を聞いた男は、もう一度煙を吐き出す。
「そうか。俺のことは大西と呼んでくれ」
そして煙をゆっくりと吐き出し、カレンに向き直る。そして、こめかみを抑えながら何かを思い出すような顔をし、そのまま口を開いた。
「……この……き、木原君に謝っとけ。この薬使うなんて言語道断にも程がある」
「うん。ホン……」
カレンが何か言おうとするのを遮り、無理矢理口を開く。
「木原谷で……す。それに、大丈夫です。あの……く、クロロホルムですか? こういうのもいい経験という……か……」
カレンが怒られそうなのを見た伸也のフォローに、男は煙草をくわえている口の端を少しだけ歪めた。
——良い経験、って。俺はどんだけこの子に惚れてんだ。
自分に突っ込みながら、伸也も薄く笑みを浮かべる。
大西は呆れたように溜息をつく。
「……面白え奴だな。……だが」
大西はそこで一度区切り、言うべきか言わないべきか迷うような素振りを見せる。しかし数秒後にはもう一度溜息をつき、呆れたように口を開く。
「クロロホルム、じゃねえんだ。クロロホルムは水で濡らしたタオルに染み込ませたとしても、深呼吸でせめて五分は吸い込ませなきゃなんねえらしい。……俺らのは、麻薬を気体にしたやつだ。だから、一瞬でいけるんだってさ」
「だから、人体には毒ってことなの。ゴメン。ホントに。ホンットに、ゴメン!!」
遠くにいたカレンが続け、近くに寄って来ながら金色の頭を深々と下げる。
麻薬。その言葉に身震いしていた伸也。
しかし、
「いや、大丈夫。何の問題も無い……と思うよ」
カレンを前にした伸也は、余裕の表情でそう言っていた。
――ちょっと吸い込んだ程度なら問題ないだろ。
心の中まで妙なポジティブになっていた。開き直りと言ってしまっても過言ではなかった。というか、完全な開き直りである。
「……まあ、その、なんだ。元気そうだし、そこから降りるか?」
大西が遠慮がちに放った言葉で、伸也は自分がどこに寝転がっているかに気付いた。
「あ」
長いテーブルの上に、すっぽりと収まっていた。まるでこれから食事のおかずになるかのように。
上ったのは自分ではないはずなのに、なぜか恥ずかしくなる。伸也は、そそくさと机を下りた。