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BLACK×MUTANT  作者: 菅島晃
第二章 初日の辛い遅刻
12/14

 お……い。だ……ぶか……。

 おーい。だい…………か……。

 おーい。大丈夫か?

 ぐるぐると回る頭の中で、確かにその声を聞いた。

 ガバッ。伸也は、勢い良く起き上がった。が、まだふらふらしていてすぐに頭を地面に打ちつけてしまう。

「あー無理しない方がいいぞ。その薬結構アレだから。強力なやつだから」

 ボーッとした頭をフル回転させる。

 ――ここは、どこだ? カレンに眠らされて……。

 ——しかもこの男の人は誰だ?

 伸也は顔を覗き込んでくる、背が高く、割と“イケメン”な天然パーマの男の目を見る。

「いろいろ聞きたそうな顔だな」

「……は……い」

 伸也は、出ない声を絞り出す。男は、フー、と煙を吐き出した。

「まあアレだ。名前、なんていうんだ?」

「木……原谷です。き、木原谷……伸也」

 名前を聞いた男は、もう一度煙を吐き出す。

「そうか。俺のことは大西と呼んでくれ」

 そして煙をゆっくりと吐き出し、カレンに向き直る。そして、こめかみを抑えながら何かを思い出すような顔をし、そのまま口を開いた。

「……この……き、木原君に謝っとけ。この薬使うなんて言語道断にも程がある」

「うん。ホン……」

 カレンが何か言おうとするのを遮り、無理矢理口を開く。

「木原谷で……す。それに、大丈夫です。あの……く、クロロホルムですか? こういうのもいい経験という……か……」

 カレンが怒られそうなのを見た伸也のフォローに、男は煙草をくわえている口の端を少しだけ歪めた。

 ——良い経験、って。俺はどんだけこの子(カレン)に惚れてんだ。

 自分に突っ込みながら、伸也も薄く笑みを浮かべる。

 大西は呆れたように溜息をつく。

「……面白え奴だな。……だが」

 大西はそこで一度区切り、言うべきか言わないべきか迷うような素振りを見せる。しかし数秒後にはもう一度溜息をつき、呆れたように口を開く。

「クロロホルム、じゃねえんだ。クロロホルムは水で濡らしたタオルに染み込ませたとしても、深呼吸でせめて五分は吸い込ませなきゃなんねえらしい。……俺らのは、麻薬を気体にしたやつだ。だから、一瞬でいけるんだってさ」

「だから、人体には毒ってことなの。ゴメン。ホントに。ホンットに、ゴメン!!」

 遠くにいたカレンが続け、近くに寄って来ながら金色の頭を深々と下げる。

 麻薬。その言葉に身震いしていた伸也。

 しかし、

「いや、大丈夫。何の問題も無い……と思うよ」

 カレンを前にした伸也は、余裕の表情でそう言っていた。

 ――ちょっと吸い込んだ程度なら問題ないだろ。

 心の中まで妙なポジティブになっていた。開き直りと言ってしまっても過言ではなかった。というか、完全な開き直りである。

「……まあ、その、なんだ。元気そうだし、そこから降りるか?」

 大西が遠慮がちに放った言葉で、伸也は自分がどこに寝転がっているかに気付いた。

「あ」

 長いテーブルの上に、すっぽりと収まっていた。まるでこれから食事のおかずになるかのように。

 上ったのは自分ではないはずなのに、なぜか恥ずかしくなる。伸也は、そそくさと机を下りた。


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