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BLACK×MUTANT  作者: 菅島晃
プロローグ 秘密の素晴らしい科学
1/14

「なあ、知ってるか?」

 薄暗い高層ビルの一室で、茶髪の二十代ほどの男は窓の外を見ながら微笑み、問う。

「何をだ」

 それに答えたのは、低く、重厚な声。スポーツ刈りの、厳つい男の声。彼は薄暗い部屋の中、茶髪に体を向け、ただ立っている。

 そんないかつい男の様子を窓に映して見た茶髪は変わらず窓の外を向きながら声を発する。

「……科学っておまえが思ってるより、すごく進んでるってことをだよ」

「……何が言いたい」

 茶髪は、ここで初めて厳つい男の方を向く。そして、へらへらとした表情で語りかける。

「そんな怖い顔すんじゃねえよ。……なあ、もしお前が世紀の大発明、タイムマシンを作ったらどうする? 科学者でも、なんでもないお前が」

 まるで、彼女がいるかを聞く男子中学生のような表情で問う。

 厳つい男は、少し考えた風に上を向いた後、きっぱりと言い切った。

「俺はタイムマシンを作れないし、作ろうとも思わない」

 その答えを聞いた茶髪は、大げさに自分の額に手を当て、窓枠に肘をつく。

「かー、どうしてそんな小学生みたいなこと言うかねえ。……空気読めてないよ。KYだよお」

「いいから早く言え」

 凄みをきかせて茶髪を睨みつけるが、全く動じない。それどころか、へらへらとした表情のまま、おどけてお手上げのポーズを取った。厳つい男の方を見る事無く。

 そこまでならまだ良いのだが、その体勢から放たれた言葉——いや、声は逆に厳つい男の余裕を無くさせた。

「……せっかちだと、命縮むよ?」

「……!」

 言葉は、どうでも良かった。ただ、その声に驚いた。チャラチャラした若者の声では無く、数々の修羅場を乗り越えてきた戦士、——いや、獣の声だった。その声に対して恐れを通り越して畏怖の念さえ持ち始めていた男だが、表情には出さなかった。——出せなかった。

「よっぽど立派な学者魂がなけりゃあ、その技術を世間に公開することなんてねえだろ? 独占するはずだ。俺だったらそうする」

 茶髪は、息をゆっくりと吐き出す。そして、目に真剣な光を帯びる。

「……さあ、こっからが本題だ。で、何が言いたかったかってえとだな……。黒バンもそうだってことさ」

 ボソリと放ったその一言は、どこか異様な感情が込められていた。何かをうれしがる反面、とても悲しく、嘆き苦しんでいるといったような、異様な感情。心の中で、相対する勢力が戦いを繰り広げている。

 しかし厳つい男は、言葉だけに反応し、ガタッ、と身を乗り出した。言葉に込められた異様な感情には気付くことは出来なかった。

「……どういうことだ? まさか、奴等の能力が科学よるものだとでも?」

 茶髪の男は意外そうに男の目を見つめ、少しだけ笑った。ただ純粋に、友の間違いを正す為に。

「ちげえちげえ。そんなでっかいことを言ってるんじゃねえよ。……あのさ、知ってるだろ? 移動の時に使うさあ、大昔からの夢の産物。まさにタイムマシン的な?」

 茶髪はそこで息を吸い込み、顔に能面のような表情を貼り付けた。


「瞬間移動装置だよ」


 沈黙。


「……は?」

 段々と、茶髪の顔に笑みが戻ってくる。

 厳つい男は数秒間、何を言われたのかすら理解する事が出来なかった。


「……お前、いくらなんでもそんな事を信じる程馬鹿じゃないぞ?」

 しかし数秒後の厳つい男はそう鼻で笑っていた。

 茶髪はその反応を見て、なぜか満足そうに(、、、、、)窓の方を向いた。

「信じなければ、それで良い。俺に君の頭をいじくって今の話を信じさせる、とかそういう技術は無え」

 そして茶髪は、窓の外を向いたまま、その顔から——

 ——笑みを消した。

「でなあ、俺はこんなことを言うためにお前を呼んだんじゃないんだ」

 ビクリ、と厳つい男は身を震わせる。茶髪の声が、おぞましく変わっていたからである。先程の、獣がそこにいた。

「……な、なんだよ、何の為に呼んだんだよッ!」

 完全に戦慄している厳つい男は、質問を叫びにした。そんな必死の叫びには答えず、茶髪はパチン、と指を鳴らした。

 ガタガタガタ、派手な音を立てて、厳つい男よりももっと屈強そうな男達がドアを蹴破る勢いで入ってくる。

 目を剥き、扉の方を向く。そして、首が壊れるのではないか、と心配になるほどに速く茶髪の方を向いた。

「どういうことだ。おいィィ! どういうことなんだ!!」

 茶髪は返事をしなかったが、その背中からは楽しげな雰囲気が伝わってくる。

 三人の大柄な男は、ギャーギャーと騒ぐ厳つい男を軽々と持ち上げる。

「おいてめえッッ! どういうことだ、やめろ、はなせえええ!!!」

 まるで地獄で罰を受けている時のような男の叫びは、一分後には、完全にそこから消えた。

 茶髪は、窓を向いたまま、小さく純粋に微笑んだ。

「なあに。死にはしない。実験台になってもらうだけさ。黒バンに対抗するための……」

 茶髪は外で光る数々のビルのネオンライトに向かってニヤリと笑った。


「俺の、科学のな」


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