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~第壱章  異変~

1


ばっちぃぃぃん!!!


耳の奥まで響く爽快な音。



「いてぇぇぇ!!……なんだ!?」


頬の激痛に飛び起きる。


目の前には女の子が険しい剣幕でこちらを睨んでいる。



「いーかげん起きなさいよ!何回起こせば起きるわけ?」



さっきまで緊迫した夢を見ていたせいか、見知った顔がそこにあって妙にうれしく感じた。


…しかぁし叩かれた頬が痛い。痛すぎる。ちょっとムカついたので叩いたであろう本人に意地悪をしようと思い付く。


叩かれた頬をゆっくりさすりながら


「美奈子…痛いじゃないかぁ。………あー……血の味がする…口の中切れたじゃないか。どんだけ力込めたんだよ。今日のは強すぎじゃね?」


若干切れ気味に低い声で脅しをかけてみる。よし!これは名演技だ。慌てる美奈子を想像するだけで笑いが込み上げてくる。必死に堪えて居ると


「え!?嘘、ごめん!どこ!?見せて大丈夫?」


彼女は俺の頭をぐいっと両手で引っ張り、顔を寄せてくる。

しまった…不意を突かれた…本気で心配した彼女の真顔が!!…この距離はヤバい。予想外の出来事に逆に慌ててしまう。


「う…嘘だよ。大丈夫大丈夫! …たぶん 」

やっちまった…名演技がパーだ。目が泳いじまったし、声が裏返った。


彼女もそれで騙された事に気付いたのか、この距離感に照れたような、ムッとした表情になる。


「え?……もーー。また騙された。ってか、起きない人が悪いんです~。」


少し困った様な笑顔で、べーって舌をちょっと出している顔がかわいい…



はっ…



こほん、改めまして自己紹介。


俺の名前は白ヶ浜 兼斗 (しらがはま かねと)。仲が良い連中は“カーネ”と呼ぶ。

そしてこの娘は本田(ほんだ) 美奈子(みなこ)。俺の今までの人生の中で一番の親友にして、良くあるパターンの、幼なじみの腐れ縁。通称“ミーナ”だ。



え?ビンタすごかったねって?…あぁ、あれは俺が寝坊してるときはいつもだから気にしないで。今日のは普段の倍くらい痛かったけど(泣)



御想像通り、俺は彼女に惚れてるわけだが…どうにかこの気持ち伝えようと遠回しに頑張ったけど、彼女はすごい鈍の感だからさー。ストレートに言ったら今の関係壊れそうでさー…。


っって!何を言わせるんだ!……誰に語ってるんだ?俺は…



「?おーい?カーネ?会話の途中で二度寝??起きろー?」


ペチペチと遠慮がちのビンタで我に帰る。


「ってか、そろそろ本気でまずいんだけど?」


彼女の指差す方向をみる。シンプルな白と黒の時計がある。これは確か2年位前に、遅刻がうざいからつってミーナからの誕生日プレゼントだったよなぁ……ぼーっと時計を見つめ………


7時50分……



「やべぇ!今日日直だ!!あの担任怒らせるとまずい!!」


慌てて布団から出て、寝間着様に着ているジャージを脱ぎ捨て、パンツ一枚になる。


「………」



はっ……



気付くのが遅かった。顔を真っ赤にしたミーナの強烈な一撃が腹のど真ん中にズドンっっっと……



一瞬意識が遠のく。



「ぐえっっ…す、すぐに着替えるので玄関で待って居て貰えます…か…美奈子さん…」


彼女は無言で頷き迅速に部屋を出て行った。


……


階段を駆け下り、美奈子にボディコンタクトで(待たせた!ごめん、急いで行こう)と送る。


彼女はOKサインを出し、扉を開く。


「行ってきます!」

「行ってきます!おばさん。」


「いつも悪いわね、美奈子ちゃん。はいっ!!」



台所から駆けて来た母さんが、弁当の入った包みを俺とミーナに放る。

毎日手間をかけるからと、昼の弁当を用意して以来、学校のある日は母が二人分の弁当を作るようになった。


「いつもありがとうございます!おばさんの卵焼きが今から楽しみです!」


母に手を振り、我が家を勢い良く出る。


しばらく走るとミーナの愚痴が始まった。

「もー!なんでいつもレディの前で脱ぎ出すかなぁ。」


「仕方ないだろ?慌ててたんだから。朝から俺のヌード見れてラッキーだろ(笑)」


「む!!それは……ゴモゴモゴモ…(…好きか嫌いかで言ったら嫌いではないけど、物事には順番ってのがあって、唐突にそれをされると困ると言うか恥ずかしいと言うか…)」


彼女は恥ずかしくなると声の音量が小さくなっていくのだ。


…ミーナとは多分、親と同等くらいの長い付き合いだ。俺の親と彼女の親が同じ職場で、家も隣近所みたいなものだからか、物心が付く前から一緒に過ごしてきた。


同じ幼稚園、なぜか小中と同じクラス、席は必ず近くになる腐れ縁も腐れ縁。


母さんの話では、赤ん坊の時の俺は人見知りが凄く、初めて会う人や動物、人形を見るだけでも号泣。両親でさえ寝起きに目が合うと凄まじいく泣かれるから、かなり困ったらしい。


そんな俺が唯一何をされても泣かなかった存在が彼女だそうだ。



殴られ叩かれ。髪を引っ張られても泣かない俺の姿を見た母は“兼斗の運命の人”と決めたらしい…。


正直嬉しいような困るような…。お陰で大概の事は阿吽の呼吸で理解できる。あれ、これ、それで何となく通じて。簡単な思考なら、さっきみたいにアイコンタクトだけでいい。俺の意識がどっか行ってなきゃだけど。




そんな仲良しだから、昔からクラス中でも夫婦扱いだ。それ自体は悪い気はしないけれども…

もし結婚したとしてだよ?寝坊する度に強烈なビンタを食らうのか…下手すりゃ毎日!?ってか、夫婦喧嘩したら俺勝てなくない?


こわっっ!ぜってぇ勝てないわ…



ま…まぁ好きなのは変わらないけどな…

…なんでこんな風に思えるんだろうな…

いつから…?


気がつくと、じーっとミーナを見つめていた。



「なに??人の顔凝視したまま笑ったり泣いたりして。ってか、前向いて走りなさいよ!気持ち悪い!。」



睨んでるんだろうけど、恐いよりかわい…



「い、いやぁ何でもないって!多分……」



「本当に??」



「本当本当!それより時間!!急ごうぜ!」


そんなやりとりをしながら学校へ急ぐ。



何かが引っ掛かる。


(いつからだろう)

(………イツカ……)


ドクン…



いつもの風景。いつもの速度。隣にはミーナ。変わらないはずなのに、何かが違う気がする。

「はぁはぁ、はぁはぁ、。」


学校までの道のりが遠く感じる。そして体が異様に暑い。



ドクンドクンと心臓が変に高鳴る。息があがる。そして、普段は彼女に合わせて走っても余裕なのだが、今は一向に追いつけない。全力で走っているのに…だ。


「はぁ、はぁ、はぁ…あれ…美奈子ってあんなに走るの早かったっけか…」


言葉を放った途端に世界がグラグラと揺れる。

なんだ、大規模な地震か!?


揺れると言うより歪むと言った方が正しいかもしれない。


ミーナは大丈夫か!…


!?


彼女が平然とこちらに歩いてくる。



「どうしたの??酔っ払いみたいに千鳥足で…」



え?…揺れてるのは俺?…


「み………みーナ……」


「え?ち、ちょっと?カーネ?大丈夫!?」


彼女の声が段々小さくなって行く。


「…だいじょうぶ…」


精一杯の笑顔を送る。


「キミだけ……はマモるから…」



……プツン…





「カーネ?ちょっと?冗談だったら怒るわよ?カーネ?兼斗ーー!?」





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