~第零章 ~
…気が付いて目を開けてみるとそこは暗闇で。
「…?」
目を開ける。思い切り見開く。凝らして見る。しかし、何も見えない。一度まぶたを閉じ、もう一度開く。しかし何も見えない。
「なんだこれ…」
目の開いている感覚はしっかりとあるのに何も見えない。失明でもしたのだろうか?。
気を失う前の事を思い出そうとする。数分間考えてはみたが、何も浮かばない。
ここはどこだろうか。というか自分は誰だろうか。それさえわからない。しかし、意識や思考だけはしっかりしている。失明な上に記憶喪失か?まいったな…
とりあえず他の感覚を確かめて見る。
匂いを嗅ぐ。
生臭く、何とも言えない異臭がする。なるべくは鼻で息をしないようにしよう。
「あー」
声は出る。舌で口の中を弄る。歯もあるし、違和感は無い。
手を軽く振ってみる。虚しく空を切るが、手足十指のすべて感覚はある。
視界は全く見えない。相変わらず暗闇に包まれている。
手を叩く。
パンっ!と言う音が響く。耳も好調だ。そして音が大して反響しないので、外に居るのだろう。
足を動かしてみる。
ゴリゴリっ…
…宇宙空間に浮いていたと言うわけではなさそうだ。地面をしっかりと踏んでいる感覚があるし、重力を感じる。
目と記憶意外はなんの問題もない。
とりあえずそれらだけならなんとかなるかもしれない。
「ふぅ……まぁ慌てても仕方ないし、このまま立ってても何にもならないから、少し移動してみるか。」
意外と冷静で居られる自分を少しだけ自賛した。
足場や周囲を手で確認しながら、そっと移動してみる。弄ろうと伸ばしている手は何にも触れない。きっと他人が見たら滑稽な姿だろうな…ん?
ふと気づいた違和感。そう、周囲に人の気配が無い。クスクスと言う笑い声があっても良さそうなんだが…。
こんな不思議な動きをしているのだから。
考え事をしていたせいか、躓いて転びそうになる。
たぶん転んだら起きれない。気を引き締めなきゃ!。
ゴリっ…ゴリっ…
…しかし俺は今どこを歩いているのだろう。地面は湿った大きめの石の上を歩いているかのようで、ゴツゴツぬるぬるして、さらに上り斜面になのか非常に歩きにくい。
…どの位歩いたのだろうか。
結構歩いたが障害物にもぶつからない。
いい加減疲れてきた。
「うーん…このまま歩いていいのか?」
と思っていると何かを蹴飛ばす。
ジャリッ…カツンカツンカツン…
その何かが遠くに転がり落ちるような音を聞いてぞっとした。
ここからは下り道のようだ。
やべぇな…ただでさえ、ヌルヌルして滑るのに…せめて目が見えたならな…
なんて思った次の一瞬。一筋の白い閃光が見えた。一気に広がり、俺の視力を襲う。
「!うわっっ眩しいっっっ」
思わず目蓋を閉じる。
…眩しいと言うことは失明では無くて、“光が全くない真っ暗闇の空間を歩いていた”のだとすぐ理解した。
…徐々に慣れてきたその瞳に映った最初の風景に愕然とする。俺の立っていた所は、崖の上みたいで、とても高い場所だった。
下の方には赤い水たまりがあちこちに点在し、人なのか分からないがボロ布を纏った“者”がズルズルと歩くのが見える。
しかし危なかった。あと一歩踏み出していたら大怪我では済まされないような高さの崖っぷちなのだから。
砂利だと思って踏んでいた地面をよく見る。濁った白い色……この形は…
骨!?しかも…この大きさや太さは人の…?
今まで人骨の山を登っていたと考えた途端に全身に寒気が走る。
…じゃああの赤い水たまりは血なのか…
周りを見ると似たような白い山がいくつも見えた。まるで本か図鑑で見た地獄絵図の様だ。
ってことは俺は死んだのか!?ここは地獄!?冷静だったはずの頭は一気にパニック状態に陥る。
「な、なんだってんだ!?俺が何をしたってんだ!。ここはどこなんだよぉぉぉぉ!!」
その叫び声に反応するかのようにそこら中にいた“者”がこちらを振り返る。
訳がわからない状況で、放心になりかけていた俺の視界に、黒い何かが素早く動くのが見えた。それはその辺の“者”とは明らかに違う動きをしている。そしてその移動方向はこちらを目指しているような……
瞬きをした次の瞬間にはそれを見失う。
ガシャッッ…
…今まで感じなかった人の気配が背後に…
見るのが怖い…。
勇気を出して振り返る。そこには真っ黒なマントのような布切れを全身に羽織った、俺よりも一回り小柄な体格の人が立っていた。
「な、なん…」
言葉を発しようとした時、そいつの手に持つ物に言葉を失う。
え??…鎌?
…!!
目の前の黒い布切れの人は手に持った鎌を高々と振りかざし、そのまま高速で俺に振り下ろす。
やばい!死ぬ!!
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鎌が当たるか当たらないかの瞬間。頬に強烈な痛みと鼓膜が破れるかと思うくらい爽快な音が響く。
ばっちぃぃぃん!!!!