第3話:剣術
大きさは学校の体育館程度の大きさで、
壁のほとんどは分厚い鉄で出来ており、所々に傷が見える。
ここが今日から訓練する場となるのである。
「まず始めに剣術のコーチを紹介します。
功刀 忍先生です」
そう紹介された人物は、引き締まった筋肉に長髪を後ろで結わえており、
年齢は30代半ばぐらいだろうか。
「君が噂の異世界の住人か。今日からよろしく頼む」
張りのある力強い声である。
「柳沢翔だ。こちらこそよろしく」
「まずは訓練に使う剣を渡しておく」
そういって腰に差してあった剣を鞘ごと渡された。
鞘から剣を出して眺めてみる。
刃の表面が光沢しており自分の顔が鏡のように映し出されている。
「そいつは練習用の剣だから安物だ。
よし、さっそく俺の攻撃を防いでみろ」
まだ何にも教わってないのにいきなりですか。
そんなことを思っているうちに功刀は鞘から剣を抜いた。
「おい、ぼさっと立ってると体が真っ二つになっちまうぞ」
訓練なのに真っ二つにされたんじゃ堪ったものじゃない。
慣れない剣を両手で支え、見よう見まねで構える。
「しっかり防げよ」
そう言い放つと高く振り上げていた剣を俺に向かって振り下ろした。
風を切り裂きながら襲い掛かってくる剣を何とか両手で握っている剣で受け止める。
剣と剣が触れ合った瞬間に鳴る高音の金属音が耳を伝い脳に響く。
功刀は剣を受け止められるとすぐさま構え直しに今度は横から斬りかかった。
再び襲い掛かってくる剣をギリギリのところで受け止める。
「ま、このくらいは出来て当たり前だな」
いや、結構きついからね。
「だがこれはどうかな」
そういうと三度襲い掛かってきた。
しかし今度は剣を振る速度が速く、持っていた剣を弾き飛ばされてしまった。
剣は床の上をすべるように転がっていく。
「それで防げまい」
功刀は剣を俺の腹へと向けて突き刺す。
だがそう易々と刺されるわけにはいかない。
向かってくる剣をギリギリのところで横に避ける。
しかし剣は予想以上に早く、横腹を服と一緒に斬られる。
だが幸い傷は浅いようだ。しかし訓練なのに本当に斬られるとは危なすぎる。
「あれを避けるとはなかなかの反射神経だな。じゃこれはどうかな」
そういうと剣を水平に振り切った。
今度もギリギリのところをバックステップで避ける。
避けられるのを予想していたように今度は縦方向に剣を振り下ろしてきた。
深い!避けきれない!
瞬時にそう判断すると振り下ろされた剣を
頭部に当たる寸前のところで両手で挟むように受け止めた。
いわゆる真剣白刃取りである。
これには功刀も驚いたが、それ以上に自分が驚いた。
まさか本当に出来るとは思っても見なかった。
「なかなかしぶとい奴だな。しかし・・・」
功刀は剣を掴まれた状態のまま腹に向けて膝蹴りを放った。
膝は見事に腹に食い込んだ。
「ぐはッ」
痛さに思わず剣を放し、その場にうずくまってしまう。
そのチャンスを功刀が見逃すはずも無く、
うずくまっている俺に剣を振り下ろした。
痛さに耐えながら何とか横に転がり剣から逃れる。
続けざまに功刀は剣を振り下ろす。
その攻撃も横に転がりながら避けると、
すぐさま起き上がり跳ばされてしまった自分の剣の元へと走る。
滑り込むようにし自分の剣を掴むと功刀が居る方向へと構えた。
功刀は剣を構えることなくゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「さて、次はどうかな」
不意に剣を構えたかと思うと、物凄い速さで襲い掛かってきた。
まるで北斗百裂拳の剣バージョンのようである。
そのあまりの速さに付いて行けず、時間に比例して体中に切り傷が増えていく。
「まだまだー」
そのうち速さに慣れてきたのか、だいぶ攻撃を受け止めれるようになってきた。
刃同士がぶつかり合うたびに金属音が鳴り響く。
体はまるでボロ雑巾なみに切り刻まれてしまっていた。
「ハァハァハァ」
息も上がり、だいぶ体力が消耗しているようだ。
一方功刀は余裕の表情で剣を振るっている。
「そろそろ終わりにしますか」
そう聞こえた瞬間、目の前に居たはずの功刀の姿が消えた。
その代わり首には本来は冷たいはずだが、
何度も剣同士がぶつかり合ったため熱くなった刃先が突きつけられていた。
ぜんまい仕掛けのロボットのようにゆっくりと視線を自分の背後へと向ける。
そこには先ほどまで目の前に居た功刀の姿があった。
いつの間に背後を取られたのだろうか。はっきし言って人間の動きじゃないな。
「勝負あったな。しかしなかなか見込みがありそうだ」
そういうと面白い玩具でも見つけた子供のようにニヤリと笑った。