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晦冥の底から  作者: 歌瑞
4/24

4 Comprehension



 結果的に寝たかそれとも眠れなかったか、どっちだったかというと。


 …眠れませんでした。



 めちゃくちゃ暑かった! いや熱かったんだ!


 最初はすぐに寝ちゃってたんだ。

 目が見えないと他にできることもないし、三日ぐらい何も食べていないから、体力も落ちて貧血気味で、ぐったりしてるわけで。

 バイクに伏せってうとうとしていたんだけれど、だんだん、じりじりとね。


 熱いの。バイクが。

 フライパンの上の目玉焼き気分になれそうなくらい。

 わたしの上に覆い被さってる人と触れている背中のほうが冷たく思えて、いっそ後ろに乗せてほしいなって考えてた。


 でもどがーんって、バイクが跳ねて。

 あれはけっこうとんでたんじゃないかなあ。一瞬だけど、完全に身体が宙に浮いてた気がする。

 すぐに捕まえられて引き戻してくれたから、わたしは転がり落ちなくてすんだんだけれど。

 その時に浴びた陽光が、まるで火に触れたみたいに熱くて痛くてびっくりした。

 目が見えてなくてもわかるくらいだから、こんなの五分で皮膚がどうにかなっちゃうなって。


 ああ、いままでわたし日陰をつくってもらってたんだなって。

 


 あとはもう何が起きているんだかさっぱりだったけど、大怪獣戦争だった、音的に。


 土がどじゃーって、どすーんって音がして、砂煙でじゃっりじゃりのげほごほで、なんかものすごくおっきい生物の鳴き声っぽいのが、おおおーんって。

 揺れるバイクにぎゅうっと押し付けられて、けっこう苦しかった。


 どうなるのかと思ったら、背後でかぽがしゃ、ぽんって音がして。遠くでどーん。

 それで、おっきい生物の気配はしなくなった。



 ───ぽんってなんだろう、ぽんって。



 とか考えてたら、どうやら寝る間もないまま目的地、ザンツとやらについたらしかったのだった。

 ……ぽんってなんなんだろうなー。






    ※  ※  ※







 ざわざわと、人の気配がする。

 いろんなにおい、いろんなおと。


 ゆっくり進むバイクの上で周囲に耳を傾けると、人々の会話が日本語とまったく違うことにすぐ気が付いた。

 どう頑張って聞いても、英語ですらないようだった。


 うん、そうかなあとは思ってたけど。

 英語以外の言語の国なんてオチ…も無さそうだなあ。

 でなきゃ、あのおっきな虫や、さっき襲ってきた何かの説明がつかない。


 そのうちに停止したバイクから抱え上げられたので、おとなしく手足を縮めて身をまかせた。

 いろいろだるくてもう自分で動ける気がしないです。ぐったり。

 彼のじゃりじゃりと砂を踏む音が途中で変わって、どうやら屋内に入ったらしかった。


 内容のわからない会話が、重くなった思考の外でするすると流れていく。



 かしゃぎゅぎゅ、

         ぴぴっ

 !?


 両耳を何かに軽く圧迫されて、びっくりした。

 なんだろ、ぴぴ?

 電子、お  ん   ───


    な   に       が




 deもそれ、繋がったままじゃ不便だろ? どうすんだ」

「複写する。媒体を寄越せ」

「へいへい。書き出せんのか、アンタの。オレも欲しー」



 ……!?



「聞き取れるか?」


 なにこれ、耳鳴り、みたいな、言葉の内容が───


「どうよ? コレが駄目なら埋め込むしかないけど。でも人間は開くとすぐ死ぬらしいしなあ。おーい。もしもーし」


 脳に直接圧力がかかってるみたいな、むりやり意味が頭に入り込んでくる、なに、これ、


「駄目なんかな? 動かないけど…いってェ! なんだよちょっと触るくらいいいだろー」


 何を喋っているのかわかる、けど、こんな感覚、知らない。

 音はわからない言葉のまま、頭の中で勝手に理解させられてる、みたいな。

「なん、ですかこれ」

「翻訳機だ」

「うっひゃ喋った! なあなあ何て言ってんの?! やべーコレすげー!」

「頭が、ぎゅうって」

「おわーヨダレでる。 ちょっとさあ、味見しt   」


「多少の反復が必要だ。無理ならば外す」

「…悪かったって。喰わないって。ちょっとした冗談だからさ、抜いてくれよ…」


 ───なんだかハイテンションな人がひとりいるみたいだけど。

「どうして、わかるようになったんですか、コレ」

「やべやっぱウマそ    …ごめんって」

「受けた情報を翻訳して脳に伝送している。問題ないならこのまま使え」

「なあなあなあー。どうなの上手くいったの? 人間にも使えんの? 抜いてくれよう熾青のダンナー」

 がったがったがった。この場に居るもう一人の声がするところから、何かを揺らす音もしている。


「これでいい。次だ」

 彼は数歩、その声の主の近くまで歩いて「抜く」ということをしたらしい。

 …しゃりんって、薄い金属、刃物を撫でたときみたいな音がしたよ。

「ふーもう容赦ないんだからさー。えーっと、ゴーグルだっけ。その子ちっちゃいからなあ、クライン種用ので使えっかなあ…」

 がたがた、ごそごそと物を漁る音がする。

「でも中央にくれちまうんならそこまでしなくてもよくねー? もったいないなあ、オレなら内緒で喰っ……いやなんでもないって、あホラこれとかどうよ」


 ……さっきからなんか味見とか喰うとか不穏な言葉が聞こえてますが、この翻訳機壊れてないよね……?


 彼の腕から、平らなところへと腰掛けさせられた。

 顔の上部分を覆うものが押し当てられる。

 大きな手が角度をちょいちょい変えて、何かを確認しているようだった。

「目を閉じていろ」

 わたしの顔に巻かれた布の、後頭部にある結び目が、解かれていく。押し当てられたものはそのままに、横からしゅるしゅると布が引き抜かれていった。

 ハイテンションな人の言うところの、ゴーグルなのだろう。ベルト部分が後頭部にまわされ、きゅっと絞られる。

 暗闇から出た直後に感じた、まぶたを突き抜ける痛みはない。

 そうっと、開けてみた。


 灰色がかって色味の薄い世界が目に映る。

 焦点が合わなくて、ぼんやりとしてなかなか像を結ばない。


「どうどう? 見えるー?」


 上からひょいと覆い被さるような影が現れて、



 ! !



 心底びっくりした。


 うん、人間じゃなかった。

 ちゃんと見えたわけじゃないけど、とにかく鋭く尖った乱杭歯が一番に目に入って。

 『人間は』『人間に』そんな台詞あったけど、味見とか喰うとかって、冗談でも比喩でもなくて、もしかしなくても、ほんとの。


 ぎゅうっと心臓が縮み上がる恐怖に、後退ろうと後ろへ手をやって、でもそこには何もなくて。身体がぐるっと反転した。

 けど「あ、落ちる」って思うと同時に、もうだいぶ馴染んだつるつるでごつごつの感触に抱え込まれて、すぐさまかじりついた。



「えーオレにビビってダンナに懐くってどういうことよ」



 納得いかねー。

 そういう声に、わたしはそろりと視線を上げた。



 『ダンナ』と呼ばれた『彼』は、黒くて、感触どおりにつるつるでごつごつしてそうで、目とか鼻とか口とか、それにあたるパーツはあるけれど、およそ人間らしさがなんにもない、そんなヒトだった。



 ……



 振り返ったら、ハイテンションなヒトが、ん? と首を傾げてた。

 目はある。鼻もあるし口もある、すごい牙だけど。

 いちおうは柔らかそうな皮膚で、髪の毛生えてて、どっちがわたしと近いかっていったらそっちなんだけど。



 ………



 とりあえずわたしはつるつるでごつごつなヒトに張り付いた。





 だって、ね。

 そうしてると、安心だったんだもの。





題に英語つかってますけど英語わかんないんですよ(´・ω・`)

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