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晦冥の底から  作者: 歌瑞
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1 Encounter

擬音多めの文体で綴る予定です。



 真っ暗で周りが何も見えない。




 ばらららららっ

 連続して小さい破裂音。光っ…たかもしれない、遠くてよくわからない。


 きんかきんきんきんきん、

 硬いものが硬いものを弾いているような音。

 音の合間に、ちりんちりん、って金属が落ちるような音や、足音、ぽい音も不規則に聞こえた。


 どっ、がっ、ずばしゃっ

 …えーと、よくわからない、ぶつかった後になんだか水っぽい……微妙に固形っぽい……何かが叩きつけられたような…



 しーん。

 ……うん、今度はなにも聞こえない。絶対さっき派手に音をたててた何かがいるはずなのに、異常なくらい何も聞こえない。

 



 こわい。

 ぶるぶる震えてうまく動かない手を、そうっとそうっとずらした。

 指先に触れている壁はレンガかタイルみたいだ。真っ暗で全然見えないけど、ざらざらして平らで硬い感触が定間隔で引っかかるカンジから、そうなんじゃないかって思う。たぶん、石の壁。ひんやりしてる。

 ここどこ。人工の建物ぽいってことしかわからない、何も見えなくて。なんだか埃っぽいから、古い建物なのかもしれない。

 ……とにかく。危ない感じの何かがいるのは間違いない。あれ、銃の音だと思う。

 銃声なんか聞いたことないから、ホントにそうかっていわれたら自信がないけど。ホントだったらこわい。近寄りたくない。気付かれないほういいはず。


 音を立てないように、足を一歩……


 じゃり。

 ……!


 持ち上げようとしたけど思い通りに動かなかった、靴底が擦れて───



 ば、ざっ

「ふぐうっ!?」


 耳元で、違う真後ろで音が、首、絞められ、

「むううううう!!」


 暴れたつもりだけど手も足も動かなくなってた。ぎゅうって押さえつけられている。何に?

 石壁じゃない、ごつごつして、つるつるで、わたしの身体に絡みつくみたいにぐるっと何かが囲ってて、顎が痛い痛いいたい!


 みしっていった、顎が歪んで、口の中の奥歯がヘンにずれてる───!


 痛みで息も出来なくなるかと思ったら、急に緩んだ。なんだか首は別に絞められたわけじゃなくて、押さえつけた拍子に詰まりました、みたいなカンジ、な気がする。

 ゼイゼイ肩で息をしながら、呼吸ができてることにそう思った。


きるぎきゅる、ぎゅる

 何かを擦り合わせるような音が、耳元でした。

 黒板とかガラスを引っかく系の、生理的な不快感に鳥肌がたった。


ぎきゅるぎ

「っひぃ」

 産毛が全部逆立つような嫌な感触に身じろぐと、それは止まった。

 身体は動かせないままだ。自分の心臓がすごくどくどくいってて、その拍子に合わせて胴体が揺れているのがわかるくらい。


 きゅうぃーん、かたたた、ぴぴっ

 …え、今度は機械の作動音ですか。ぴぴって。

 それにしても痛い、背中のほう、出っ張ってる何かが食い込んでて痛い。




「האיש?」

「すいません何言ってるのかわかんないです───!」





「人間か」


 そう問われて一も二もなく頷いた。

「人間ですうううう!!」


 なんだか無駄に美声だった。

 ゆるゆる戒めを解かれながらそんなことを考える。足裏が平らな、おそらくは床に触れて、自分がそれまで足もつかないような状態だったことに今さら気が付いた。

「なぜ人間が五拾弐番区などにいる?」

 ごじゅうにばんく。それはどこだ。美声だけどなんだか、電子音声みたいなノイズ混じってないだろうか。

「わかんないです。ここどこなんですか」

 銃だとか、さっきの聞いたことない言葉とか、真っ暗闇で何にも見えない石壁のここだとか、まったくもって現実離れしている。実はこれ夢だったりしない?


 生まれたてのバンビみたいにがくがくする足でどうにか立った時に、うなじをべろっと何かが撫で上げて思わず反り返った。ななな何!

「認識票がない。抜いてもいないようだが。なぜ日本語を?」

「なぜって日本人だからですよ」

 ……撫でたのアナタですかセクハラで訴えますよ。

「血統が残存しているという話は聞かんな。複製か、不正規交媾産か?」

 声がずいぶん高い位置から降ってくるなあ。すごく背が高そうだ。

 ……話の内容はなんか理解できない。


「…貴方は日本人じゃないんですか」

 日本語話してるのに。

「違う」

 ……そうですか。ここどこ。ごじゅうにばんくとか知らない。

 じわじわとイヤな予感に侵食されて、頭の中の空元気テンションも落ちていきそうだ。


「まあいい。出自よりもここにいることが問題だ。来い」

 微かに空気が流れて、すぐそこにあった何かが動いたのはわかった。

 え。ちょっと。


 慌てて両手を突き出しつつ、恐る恐る足を一歩踏み出す。何にも触れない。

 ついさっきまでこのあたりにいなかった? 声がしてたのに。

 足音聞こえてないよ!?

「ま、待って」

 もう一歩。何もない。


 もう一歩。何もない! 暗闇しか!


「待ってええええ」

 こんな真っ暗なとこに置いてけぼりにしないでー!

 泣きだしそうになったら手のひらがぺたんと硬いものに触れた。

「空間を認識出来ていないのか」

「なんにも見えないよ!」

 ぺたぺたぺた、ああよかった、ここにいる!


きるぎぎゅい、

 またあの擦れる音がして、唐突に身体を折りたたまれた。

 背中と膝裏に当てられたものに自分の全体重がかかってる、右側にある何かにぎゅって押し付けられて、空気がぐるんって回る───!


 ばたたたたたたたっ

「ひああああああ!!」


 足先で、破裂音と一緒に閃光が瞬いた。

 一瞬で見えたもの。

 わたしの脚より太い腕が真っ直ぐ伸びて、その手が持つ大きな銃の先から十字に光がふきだしてた。

 どっちも黒っぽくてごつごつしたシルエットで、視界の下の方にあった自分の脚がやけに真っ白でつるっとして見えた。


 すぐに暗闇に戻って、ちゃりんちゃりんちゃりん、金属製のなにかが落ちる澄んだ音がして。

 ちょっと遠くで、苦しげに乱れる呼吸が聞こえるような気がするのは気のせいに違いない。


 ばたたたたたっ

「いやあああ!!」

 とどめ! とどめさしたこの人!

 うん、ずいぶん低いっていうか広いっていうか、人間よりおっきい生物っぽい呼吸音だったけど!

 迷いなし! 容赦なし!


 音と衝撃波できーんってなってる耳を押さえてがたがた震えながら、はたとさっき見えた光景を思い出す。

 位置とか、角度的に、たぶん、おそらく。

 わたしの身体を折りたたんで、かつ支えているものって、この人の、左腕、一本じゃないだろうか。

 やっぱり足音はしてないけど、自分が微妙にゆらゆら揺れてるのはわかる。歩いているんだろう。


「……わたし、重くないですか」

 大きな声をだすのがなんだか憚られて、なるべくひそめて訊いたらすぐ近くから美声がかえってきた。

「荷重は問題ない」

 ……重くないってことだろうか。

 わたしの脚一本より腕のほうが太いのだから、この人にとってはたいした重さじゃないのかもしれないけれど。

 どれだけでっかいんだろうこの人。

「どこにいくんですか」

「取り敢えずは地上だ」

 おどろきのしんじじつ。目指すところが地上ですと。

「ここ、地下なんですか!」

「そうだ」

 だから真っ暗なのか。

「貴方はここで目が見えてるんですか?」

「知覚はしている」

 ……なんだか、固いっていうか、変わったっていうか、不思議な言い回しをする人だなあ。

 こんなに暗いのにどうして見えてるんだろう、すごーく夜目が利くとか?

「さっきの、動物? あれは何なんですか?」

「滓だ」

 おり?

 そんな名前の生物知らない。


 やっぱりここは、知らないところ、だ。


「わたし、家に帰りたいです」

「何処から来た」

「来たっていうか、いつのまにかここに居たんですよ。日本の 」

きゅぎいっ


 またその音、美声とおんなじ位置からとか近いよぞわぞわするからやめて───!

 ぐるん。さっきのぐるんは横方向だったけど、今度は縦にぐるんした。

 舌噛んだ! 舌!



 ばたたたたっ

  ちゅんちゅいん いいいん

 銃声と、ひどく甲高い金属がこすれる音。

 「ぎゃあ───っ!」

 音と一緒に四方八方に火花が飛んで、見なきゃよかったのに特に明るかった場所、真下を見てしまった。

 虫!

 なんか脚いっぱいあって節がいっぱいあるあれはまぎれもなく虫!

 サイズがありえない巨大さだったけど絶対虫!


 ひゅ、と内臓が浮き上がる感覚がして、自分が落下してることに気が付く。

 真下、虫!


「いやあああああ!」


 どっ、

  べきぐしゃっ

 硬いのが割れて潰れる音とかいやあああ!


 銃の弾丸を弾くような硬い虫ってどんな生物なのかとか、そんな生物をおそらくは踏みつけて潰す人ってなんなのとか、かなり高いトコからの落下だったっぽいのにあんまりわたしには衝撃がなかったとか、そんな疑問が脳裏をかすめたけど、もうその答えなんかさっぱり考えてられない。気持ちが悪いい!


 がっ、と下の方で何かを叩きつける音がして、わたしの身体はなぜか斜めに重力を感じた。

 え、この人上体斜めにしてない? 屈んでない? まるで足元を覗きこむような姿勢になってる気が。


 ばたたたたたたっ

 ひい───!


 すぐ下から聞こえるぎちぎちとかびちゃびちゃとかそんなものは知らない、聞かない、絶対見ない!

 とにかくちょっとでも音源から離れたくて、わたしはその人にびったり張り付いた。

 斜めで不安定で、落ちたら嫌だ、ちゃんと、しっかり、何かに掴まりたい───!

 べたべたと両手でまさぐって、ちょうどよく両腕がまわるところにかじりつく。


 虫とか! 暗闇で虫とか! 勘弁して!





今後の展開でイケメンを期待している方は退避おすすめ。

いえ私はイケメンだと思ってるんですけどね!

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