反対二人
第3者 視点ー
「真人、お前何してんだよ・・・てか、ソノ餓鬼はなんだよ・・・・」
葵は床に倒れていている、北斗と乃原を見下ろしながら、低い声でそう言った。
さっきまで不機嫌そうだった表情は、呆れているというより、どこか疲れているようだった。
そんな葵を気にすることなく、屈託の無い笑みを向けて、真人は北斗と乃原を指差した。
「えーこれねぇ~さっき大通りですれ違ったんだけど・・・その時この二人に血のにおいがするの気づかれちゃってね。咄嗟に殴って気絶させちゃったから、ココまで連れてきたんだよー」
真人は間延びした言い方で、そう言い放った。言い方と首をかしげながら喋るしぐさは、子供のように愛らしいが、言っている言葉がとても恐ろしい。
真人を言葉を聞いた葵は、軽く眩暈がして、足もとがふらついた。
何とか足を踏ん張ると、右手で顔を覆い隠し、深いため息をついた。
「お前・・・何してんだよ。別に殴るのは良い判断だと思うけど・・・・ココに連れてくるなよ。そこら辺に捨てておけばよかったのに。もし、こいつ等に俺たちの事知られたら・・・・」
疲れきっている葵に反して、真人は酷く楽しそうな顔だ。
終始、他人が見たら見惚れるほどの笑みを貼り付けている。
その笑みを貼り付けたまま、真人は口を開いた。
「大丈夫だよ・・・・・もしばれるようなことがあれば・・・・・」
そこで、言葉を一旦きった。 そして、真人は更にその笑みを深くしていった。
この状況に危機感を感じている葵に対して、真人はこの状況を酷く楽しんでいた。
泉真人にとって、危機的状況は自分が最も楽しめる状況でもある。彼女は兎に角危機的状況が好きだった。
危機的状況のスレスレを歩く、そのスリルが彼女にとって何より楽しいものだった。だから彼女はわざと危機的状況に陥るように策略をしている。
彼女にとって、危機的状況ほど、好きなものは無い。
それに反して、相原葵はかなり慎重な男だ。 何事にも慎重に取り組み、最大限危険なことは避けるようにしてきた。彼にとって危機的状況は兎に角避けたいものだった。
彼にとって危機的状況ほど、嫌いなものは無い。
そんな正反対の二人が、正反対の表情を浮かべながら、御互い見据えている。
その二人の間で倒れている、二人の高校生。
その高校生により、彼女等の人生が大きく変わることは彼女たちは今だ気づかない。
そして、大きく変わった人生で、真人が楽しむのか、葵が苦しむのか・・・・・・それは今だ分からない。