学生誘拐
北斗視点
「うっ・・・・・ん」
唐突に目が覚めた、気だるい体の上半身だけ起こすと頭に鋭い痛みが走った。その痛みに思わず頭を抑えて蹲った。
そして気づいた。
自分が今いる場所は見慣れたスラム街ではなく、コンクリート打ちっぱなしの壁が広がる、何の家具も置かれていない、殺風景な部屋だってことに。
そして思い出した。
俺たちは全身黒服の少女に殴られたって事に。
どうやら、俺たちは誘拐されてしまった。
そう理解すると一気に顔が青ざめていくのが分かった。そこで乃原のことが心配になり周囲を見回したら、俺の直ぐ横で気絶していた。
その姿を見てとりあえず安堵の息を漏らした。
この先どうしようか・・・・
一般の男子高校生の俺では何もできないが、精一杯頭を働かせた。
確かアノ少女から血のにおいがして・・・・ソレを少女に言うと殴られた。やっぱり、血のにおいがしたのは確かッだったんだ。
だから俺たちにソレがバレたからココまで誘拐したと・・・・・
そこまで考えると俺の脳内には一つの言葉が浮かんだ。
「殺される」と・・・・・
ヤバイ・・・・ 血の気が引いた。
まさか17才という若さで死ぬことになろうとは・・・・・。俺はもっと青春を謳歌したかったのに・・・・・
イヤ、そんな事考えている暇は無い!早くココから脱出しなければ!
「オイ!乃原起きろ!!」
大声で名前を呼びながら、肩を強く揺すっても乃原は目を覚まさない。
早く誰かが来る前に逃げないといけないのに!!
強硬手段として殴り起こそうとと拳を作って、ソレを高く上げた。
大丈夫。コイツなら殴ったって良いさ。 それで頭が可笑しくなたって、コイツはもとから可笑しいから大丈夫。死ぬよりかははるかにマシだろう。
そう勝手に決め付け。上に上げた拳を振りおろそうとした時・・・・・・
パシィ―
振り下ろす前に後からその腕を掴まれた。
一気に背筋が凍った。 恐怖で段々呼吸はしづらくなった。
誰かいる・・・・ 俺の後ろに誰かがいる。 きっと俺を殺そうとしているやつらだ。
殺される!!
「駄目だよ?女の子に手をあげちゃ~」
恐怖で体が硬直して、動けないでいると後ろからそんな明るい、少女の声が聞こえた。コノ場に似つかわしくない、声だった。
俺の腕を掴んでいる奴の声に違いない。
そして、その声には聞き覚えがあった。
アノ、血の匂いがした、全身黒の少女の声!!
冷や汗をたれ流して 腕をつかまれたまま、恐る恐る声のした方を振り向いた。
そこには、確かにアノ全身黒の少女がいた……
最初会った時は、帽子で顔が隠れて見えなかったけど、服装がさっきと同じでアノ少女なんだと分かった。そして、今帽子を被っていないから少女の顔が良く見える。
少女の顔は・・・・・
グラァ・・・・・
その時
視界がゆがんだ
視界が狭くなってきた
視界が暗くなってきた
そして
視界が失せた
第3者視点-
少年はそのまま気絶してしまった。全身黒色の少女の顔を見たとたん、プツンと糸が切れたように倒れてしまった。
少年と一緒に居た、今だ気絶している少女を守るようにして、覆いかぶさって倒れてしまった。
気絶してしまった少年の顔は酷く青ざめていて、何かに恐怖しているようだった。息が浅く今にも死んでしまいそうだった。
そんな気絶している少年を見て、全身黒色の少女はニヤァと笑って見せた。
「ありゃー気絶しちった~」
間延びした言い方で、酷く楽しそうに言った。 そんな少女の声は、今の状況と全く合っておらず、少女だけが別次元にいるようだった。
そして少女の顔も酷く楽しそうに笑っていた。
綺麗に整った顔立ちを綺麗にゆがませて、気絶している少年達を見下ろした。それはどこか一枚の絵のようだった。
「さぁーってどうしようかなぁー」
少女は呟くようにして、言葉を吐いた。
そして次の瞬間。
笑うように細めた目をゆっくりと見開いた。 ソノ目には全く生気が感じられなかった。
まるで死人のような、光がなくただ、闇だけの目。 何の希望も持たない、絶望しか感じていない目・・・・・。イヤ、絶望すらも感じていない。本当に何にも感じていない目だった。
その目には何も映っていない、気絶している少年達も映っていない。壁や床や天井すらも映っていない。少女は目に何も映すことは無かった。
少女は何も見ていなかった。
自分自身すらも・・・・・。
そして少女は目を開くと同時に笑みをやめ、完全な無表情となった。
少女は無表情のまま、何も見ることなく ポツと呟いた。
「悪なら殺せたのに」
コレは誰に向けていったことなのか。
あるいわ唯の独り言なのか。
それは少女にすらも分からない。