事前事件(プロローグ)
ー深夜
とあるスラム街の路地裏。
夜中だから決して明るくは無く、薄暗い路地裏に俺と女は居た。
「ねぇ!ねぇ!何で逃げるの?
何で抵抗するの?何で何で何で何で私の思いを受けいれてくれないの?
可笑しいわ!だって私はコンナに貴方の事思っているのに何で貴方は避けるの?
ねぇねぇねぇ?何で?逃げないでよ!抵抗しないでよ!抗わないでよ!
全て貴方の為なんだからソレなのになんで貴方は・・・・・アハッハハハハ!
分かったわ照れてるだけなのね?そうなんでしょう?
逃げるのは照れ隠しなのね?もう!照れなくてもいいのに!アハッハハハハハハハッハハハハあーあ。
これでやっと貴方と一つになれるわ・・・貴方を殺してそして貴方の亡骸を私が食すの!何て素敵なことなの!これで一つになれるわ!
さぁ・・・・もう逃げないでね?」
可笑しい可笑しい可笑しい!
何なんだコノ女は! 何でコイツは俺にナイフを向けてるんだ?!
何でそんなに笑ってるんだ?!
何で何で何で俺がコンナ目に!!
俺は数日前の自分を酷く呪った。数日前バーで見かけて、美人だったからタダ声を掛けただけなのに!!
それなのになんで今、俺は・・・・! コイツ頭おかしいぞっ!
「ふ、ふざけんな!お前頭おかしんじゃねーのか?!」
恐怖で震え上がる体を押さえつけて、せめてものの反抗として、俺は女に声を上げた。
しかし女はナイフをむけたまま、心底不思議そうに首をかしげた。
「え?どうして?何で貴方を思うことが可笑しいの?どうして止めなくちゃいけないの?だって貴方も嬉しいでしょ?私と一つになれるのが。もう!照れなくてもいいのに!」
そして頬を赤らめて、恥らうようにいう女を見て俺は悟った。
コノ女狂ってると・・・・・。 全部全部狂ってる。
そして俺はもうコノ女に殺されるのだと・・・・。こんなスラム街の路地裏じゃ誰も通りはしない。
薄暗い路地裏に一体誰が来るって言うんだ・・・・・。
俺は壁に背を預け、ズルズルと地べたに座り込んだ。
もう俺は助からない・・・・・そう悟り、静かに目を瞑った
その時-
「ざーんねん!一つになるのはちょーっと無理な話かなぁー」
コノ雰囲気に全く似合わない、明るい少女であろう声が、ナイフを持った女の後ろから聞こえた。
でも、俺の視界からじゃ女が楯になって少女の姿が見えない。
助けてくれ・・・・た?
少女の存在は俺にそんな淡い期待を抱かせた。
「な!誰!!」
行き成り少女が出てきて、女は行きよい良く振り返ろうとしたが―
「アハッハ!誰・・・ねぇそうだねぇ・・・・『正義』とでも言っておこうかな?」
少女がそんな事を気の抜ける声でいいながら、女が振り向くよりも先に女を後から抱きしめた。
はっ?
少女の不可解な行動に思わず首をかしげた。
少女の両手は、女の首に回って
そして―
グキッ!
一瞬何が起こったのかわからなかった・・・・・。でもソノ・・・何かが折れる音は紛れも無く女から聞こえた。
正確に言うのなら・・・・少女が両手を回している 女の首からだ
そして、女の体が力が抜けたように、クタッとなり、少女にもたれ掛かった。
それで 気がついた。
この少女が女を殺したのだと。
首に回した両手でなんらかの技術を使って、少女より幾分も大きい体格でろう女の首を折って
躊躇無く殺した。
その事実にまた、震え上がった。
今度はコノ見ず知らずの少女に殺されるのはないだろうか。という恐怖が俺の体を支配した。
そんな俺を気にすることなく少女は、女の死体を左手で軽々と受け止め、既に力が入っていないであろう手から右手でナイフを取り上げて己のポケットにしまった。
そして、まるでゴミを扱うように、女の死体をベシャッと地面に投げ捨てた。
正直、少女の顔を見るのが怖くて、少女の手元だけ見ていた。
「はぁ・・・馬鹿だよねぇ・・・・行き過ぎた愛情が己を滅ぼしちゃうんだよな」
行き成り少女がそんな事を言った。
さっきの気の抜けた声とは違い・・・・低くうなるような声で・・・・。
「なーんちゃって~こんな上から目線のどこぞの神様の言葉なんて私は言わないけどね~!あーでも葵ちゃんなら言いそう!うん言う言う!アハハッハ今度言わせてみようかっなー!」
冷たく言ったかと思えば、いきなりまたふざけた様に言う少女。コノ少女が分からない。
しかし、今さっき人を殺したばかりなのに・・・・何でコノ少女は・・・
こんなに・・・・ 楽しそうなんだ?
「アハハハ!お兄さんもう駄目だよ?アンナ女を相手にしちゃーメッ!
なーんてね~」
ケタケタケラケラとまた笑った少女。
そうか分かった・・・・・この少女
「狂ってる」
そして俺は思わず、呟いてしまった。それが聞こえていたのか少女は、笑うのを止めた。
ヤバイ! そう直感した。
きっと俺は殺される・・・・・今度こそ・・・・
少女の顔は見えないが、きっと怒ってるにい違いない・・・・。さっきまでケラケラと笑っていたのに今は、黙ったまんまだ・・・・
きっと殺される・・・・・ そう思い、ほぼ生きることを諦めた
その直後-
「うんそうだよ、狂ってる」
そんな少女の声が聞こえて、驚きのあまり顔をバッと上げた。
そして俺は見た
「私はコノ町で最も狂ってる『悪』だよ」
そう言いながら
少女が
真っ赤に染まった服を着て
綺麗に
綺麗に
ゆがんだ
笑みを
浮かべていたのを