俺の黒歴史ノート転生記ー異世界転生したと思ったら、過去に書いた黒歴史ノートの世界に入っていたので、作者である俺が無双するー
上司に怒鳴られ、感情を押し殺しながら生きるだけの冴えないサラリーマンの森田裕樹。
自我を出さず、反論もせず、ただ毎日を消費していた男は、ある日、実家で黒歴史ノートを発見する。
学生時代に描いていた、自作の厨二病冒険漫画。
そこには、痛すぎる設定、長すぎる技名、仰々しい組織、意味不明な専門用語、そして当時の俺が本気で考えた最強の世界が詰め込まれていた。
だが、ノートを開いた瞬間――世界が歪む。
目を覚ますと、そこは自分が描いた物語の中だった。
炎を纏う主人公。
侵食獣。封鎖領域。詠唱拘束体。
記録を学習する怪物。
かつてカッコいいと思って作ったモンスターたちは、現実となって牙を剥く。
しかし、この世界には一つだけ絶対的な攻略法があった。
作者である俺だけが、設定を知っている。
敵の弱点。隠された条件。初見殺しギミック。ボスの行動パターン。
厨二病全開の能力。
すべてを知る主人公は、自分の黒歴史を攻略本として使い、仲間たちと共に世界を進んでいく。
だが、この世界は単なる妄想では終わらない。
昔の愚痴から生まれた嫌な同級生。
勉強嫌いから生まれた理不尽な試験型モンスター。
当時の劣等感から作られた最強キャラ。
過去の自分が閉じ込めた感情が、怪物として現れ始める。
そして主人公は知る。
魔王を倒さなければ、元の世界には帰れない。
これは、黒歴史に転生した男が、自分の過去と向き合いながら自分が作った最悪の世界を攻略する物語。
怒鳴り声が、耳の奥で鈍く響いた。「何度言わせるんだ! これは仕事だぞ!」
頭を下げながら、俺はただ「はい」とだけ返した。
それ以上の言葉は、出てこない。
いや、違う。出さない。 言い返せば面倒になる。感情を出せば、評価が下がる。笑えば軽いと思われ、黙れば無能だと叱られる。
だから、何も出さない。それが一番、楽だった。気づけば、俺は何もない人間になっていた。
帰り道、街のネオンがやけに眩しく見えた。意味もなくスマホを開いて、閉じる。誰からも連絡は来ていない。
「……帰るか」
その言葉にすら、感情は乗っていなかった。
――気づいたら、実家にいた。
現実逃避がしたく少しでも気が紛れればと足を運んでいたのだ。 久しぶりに帰ってきた自分の部屋は、時間が止まったようにそのままだった。
古びた机。埃をかぶった棚。使わなくなった教科書。そして、押し入れの奥にあった段ボール。
「……なんだっけ、これ」
なんとなく、開けた。
出てきたのは、たくさんびっちりと書き込まれたノートだった。
黒い表紙に、金色のペンで書かれたタイトル。
『漆黒の覇王と六つの神核』
「……うわ」思わず声が漏れた。
中を開くと、そこには、痛々しい絵と設定がびっしりと書かれていた。
キャラクター設定。能力。世界観。敵。技名。
「俺、こんなの描いてたのかよ……」ページをめくるたびに、記憶が蘇る。
誰にも見せなかったとても痛い思い出。だが、誰よりも本気で、これを描いていたこと。
黒歴史
今なら、そう呼べる。
「……結構、ちゃんと作ってるじゃん」
思わず、苦笑した。その瞬間だった。
視界が、歪んだ。
「……は?」
手の中のノートが、熱を帯びる。床が消え、空間が引き裂かれるように歪んでいく。
「ちょっ……待て――」
言葉の途中で、意識が途切れた。
風が、頬を叩いた。
「……っ」
目を開けと、そこは、見知らぬ荒野だった。空は紫がかり、空気は妙に重い。
「どこだよ……ここ」
立ち上がると、違和感に気づいた。視界が、少し高い。体が軽い。
「……?」
手を見る。
見慣れた手じゃない。細く、しかし引き締まった、戦うための手。
「……は?」そのとき、遠くで轟音がした。
振り向と、そこにいた。
「虚無に咲く蒼き零度!!」
銀色の髪を靡かせ、氷を操る女。
そして、その目の前には巨大な異形の怪物。
「……なんだ、あれ」
いや、違う。
見たことがある。
女が叫ぶ。
「暴虐無尽を繰り返す、侵食獣ヴァル=グリード!!」
――その名前。
「……あ」
思い出した。俺が、作った。
その瞬間、全てが繋がった。
「ここ……俺のノートの中かよ……」
信じられない。も、目の前の光景は現実だ。
そのとき、怪物がこちらを向いた。
「――ッ!」
まずい。完全にロックオンされた。
逃げようとするが、体が勝手に動いた。
「――来い」
低い声が、咄嗟に口から出た。
足が前に出る。手が構えられる。
「我が名は、レイアス――漆黒を継ぐ者」
「なっ……!?」
勝手に喋る。頭の中に流れてくる。
これが、俺のからだ?
怪物が突進してくる。だがその瞬間、理解した。
「……ああ、そうか」
思い出した。この敵の設定。
防御は最強。だが、3秒だけ無防備になる瞬間がある。
俺は一歩、踏み込んだ。
「今だろ」
怪物の動きが、一瞬止まる。その3秒。
剣を振る。
いや、正確には体が勝手に振った。
「――断ち切れ、神理を焼灼せし叛逆の蒼炎!!」
斬撃が、走る。
怪物は、あっさりと崩れ落ちた。
「……マジかよ」
息を吐き、理解した。
ここは、俺の黒歴史の世界。
そして俺は――
「主人公、かよ……」
自分の体を見下ろす。
恥ずかしくて、ダサくて、でも確かに本気だった世界。
でも、口元が、少しだけ歪んだ。
「……なら、使えるな」
この世界の物語は、全部俺が知っている。
弱点も、条件も、設定も、展開も。
つまり――
「攻略できる」
こうして、過去から逃げていた男は、過去そのものの世界で戦うことになった。
森田裕樹 レイアス




