鋼鉄の竜と、一粒の氷砂糖
平穏な日常は、一通の早馬によって呆気なく破られた 。 王都アルセリアシティ近郊に、古の装甲竜の一種が出現 。 最強と謳われる王都守備隊の重装騎士団が総出で当たるも、その鱗一枚に傷一つつけることができず、戦線は崩壊寸前だという 。
「エリ、毎度で悪いんだが……王都を救ってくれないか」
オーエンが苦渋の表情で切り出すと、エリは読みかけの魔導書を閉じ、ふむ、と顎に手を当てた 。
「今度の魔獣は、どんな奴なの?」
「装甲竜だ。この間の『ミニミ』では通用しないかもしれない 。とにかく防御力の高さが半端じゃないんだ。魔法も物理攻撃も、すべてその硬鱗に弾き返されると聞いている」
防御力特化 。 その言葉を聞いた瞬間、エリの脳内にある「兵器カタログ」のページが猛烈な勢いでめくられた 。
「分かったわ。だったら、対戦車兵器を考えてみる。装甲を貫くなら……やっぱり携帯式対戦車ミサイル『ジャベリン』がいいかしら。たかが竜ごときに『110mm個人携帯対戦車弾』で十分かしら」
「ジャ……ベリン? 槍の一種か?」
「うーん、まあ、空飛ぶ槍みたいなものね。とにかく現場に行ってから、実際に戦った兵隊さんに話を聞くのが一番だわ。敵の防御の厚みが分からないと、武器の選定も火力の調整もできないし」
「火力の調整」という物騒な単語に、オーエンはまたしても胸を締め付けられた 。(ああ、やはりこの子は、敵を効率よく殲滅するための計算が染み付いてしまっている……!)
二人は急ぎ、用意された馬車に乗り込んだ 。 拠点の街アクアリシアから、王都アルセリアシティへの強行軍だ 。
馬車の揺れに身を任せながら、オーエンはふと思い立ち、上着のポケットに手を伸ばした 。 そこには、先ほど厨房からくすねてきた数粒の「氷砂糖」が忍ばせてある 。
(戦いのことしか頭にないこの子に、少しでも……年相応の子供らしい喜びを思い出させてやりたい)
それが、死線を潜り抜けてきた(と誤解している)少女への、不器用な賢者なりの精一杯の気遣いだった 。
馬車が王都の城壁を視界に捉えた頃。 遠くで、地響きのような竜の咆哮が轟いた 。
「よし、やるわよオーエン! 聖槍ジャベリン、お見舞いしてあげるんだから!」
やる気満々で「見えない発射筒」を肩に担ぐジェスチャーをするエリの横で、オーエンは「おやつ、食べるか?」と切り出すタイミングを完全に見失っていた 。




