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賢者の誤解と、主席神官の悦楽

 北側の森から特級魔獣を魔法召喚したミニミ軽機関銃でハチの巣にしてから(1章の出来事)、帰還する道中、オーエンは深い沈黙の中にいた。


 その隣では、エリが「やっぱりミニミは信頼性が高いわよね、弾詰まりもないし」と、上機嫌で呪文のような言葉を並べている。


「……なぁ、エリ。さっきの『エフエヌ……ミニミ』というのは、お前のいた世界では一般的なものだったのか?」


 オーエンが重い口を開くと、エリは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて頷いた。


「そうよ! 世界中で使われてる名銃なんだから。本当はもっと火力のあるM2重機関銃とかも捨てがたいんだけど、持ち運びを考えたらやっぱり軽機関銃かなって。あ、もちろんアサルトライフルも基本だけどね!」


 エリにとっては、単なる「ミリタリー知識」の披露に過ぎなかった。

 しかし、それを聞くオーエンの顔は、みるみるうちに青ざめていく。


(……なんてことだ。彼女のいた世界は、子供ですらそんな『効率的に人を殺める鉄の塊』を熟知していなければ生き残れないほど、血なまぐさい戦いに明け暮れる修羅の国だったのか……)


 エリが楽しそうに語れば語るほど、オーエンの目には、彼女が「戦火に焼かれ、武器を握ることでしか自分を守れなかった悲劇の少女」に見えてくる。


「悪かったな、エリ。……そんな物騒なものの話ばかりさせてしまって。ここではもう、そんな道具を使わなくてもいいように、俺が……」


「え? ううん、いいの。好きで話してるだけだから!」


「好きで」という言葉すら、オーエンの耳には「戦うことしか生きる術を知らなかった」という悲痛な叫びに変換されて届いていた。


「でも、すごーくお腹がすいちゃった。機関銃を連射すると、みるみる血糖値が下がる感じ? 神殿に帰ったら、何でもいいからお食事が食べられるようにお願いしまーす!」


 屈託のない笑顔で腹ペコを訴えるエリを、オーエンは痛ましげな視線で見つめ返すのだった。


 一方、神殿の奥深く。

 水晶玉に映し出された森の惨状を眺め、主席神官カルミナは狂喜に震えていた。


「素晴らしい……。あの娘、期待を遥かに超えているわ」


 彼女の白く細い指先が、水晶の中で粉々に砕け散った魔獣の残骸をなぞる。

 この魔獣は、カルミナが裏で古の儀式を用い、その強さを調整して解き放った「駒」に過ぎない。


「あの娘の力は、魔法という既存の枠組みすら破壊する。あれこそが、私が待ち望んだ『究極の兵器』だわ」


 カルミナは不敵に微笑むと、机の上に置かれた古い地図に、新たな印を書き込んだ。


「さて……次はどの程度の『絶望』をぶつけてあげようかしら。エリ、あなたのその指先が、もっと多くの血と火花を撒き散らすところを見せてちょうだい」


 救世主を崇めるフリをしながら、その実、彼女を最強の兵器へと育て上げようとするカルミナ。

 純粋なミリオタ女子高生と、彼女を悲劇のヒロインと信じ込む賢者。

 そして、それらすべてを盤上の駒として弄ぶ女神ミリエル。


 運命の歯車は、エリの意図しない方向へと加速し始めていた。


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