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空を焼く黒影と、量産される「エリ・モデル」

 装甲竜をあのような「槍」で容易に撃破できるとは、何て素晴らしいことでしょう 。 神殿の最奥、主席神官カルミナ・ヴェルディアは、水晶玉に映るエリの勇姿をなぞりながら、恍惚とした笑みを浮かべていた 。


「今度は、空を飛ぶ竜を相手にしたら……あなたからはどんな『概念』が飛び出すのかしら」

 カルミナは、次なる魔獣を召喚するための禁忌の儀式を開始した。 彼女の瞳には、最強の兵器を完成させようとする狂気的な悦楽が宿っていた 。


 一方、王都ではエリの意図しないところで「技術革新」が起きていた。 エリが魔法で具現化した自衛隊仕様の戦闘服が、その実用性の高さから「王都守備隊」の制式装備に採用されたのだ 。

 王都中の縫製ギルドからの問い合わせが殺到し、エリは連日、構造の解説に応じる羽目になった。


「あー、もう! 完全に失敗したわ……」


 エリは鏡に映る守備兵たちの姿を見て、深いため息をついた。 この世界には「ファスナー」の製造技術がなかったため、結局、大量のボタンで留める折衷案に落ち着いたようだが、その無骨なスタイルは「救世主モデル」として市民の間でも流行の兆しを見せていた 。


「エリ様、出動のときです」


 客間の扉を開け、賢者オーエンが恭しく、そしてどこか悲痛な面持ちで現れた 。


「北部の山岳地帯に『黒竜』が出現しました」


 エリは、広げたままのミリタリー雑誌(の記憶)を閉じ、顔を上げた。


「黒竜? どんな魔獣なの」


「竜族最強と謳われる存在です。高速で空を飛び、一吹きで城塞をも溶かす炎を吐くと言われています」

 オーエンは、その存在の恐ろしさを噛みしめるように言葉を継いだ。

「その力は神に近く、極めて高い知性を持つとも……。まさに生ける厄災です」

「知性があるなら、話し合いができそうなものだけど」


「……滅相もございません! 黒竜に襲われれば、王都など一瞬にして灰燼に帰します。恐ろしさが先に立ち、対話を試みた者など歴史上一人もおりませんよ」


「とにかく、現地に行かないと始まらないわね」


 エリは立ち上がり、オーエンの顔をじっと見つめた。


「それと、その『エリ様』っていうの、やめてくれない? 以前みたいに『エリ』って呼び捨てがいいんだけど」


「……仰せのままに、エリ」


 オーエンは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに微かな笑みを浮かべて深く頭を下げた 。

 エリは、神殿が用意したひらひらと邪魔なだけの「聖女用ドレス」を脱ぎ捨てた 。 代わりに、機能性を追求した自分専用の戦闘服へと着替え、最強の「対空兵器」のイメージを脳内に構築し始める 。


「空飛ぶトカゲなら……次は携帯型地対空ミサイル『スティンガー』か、いっそ防空ミサイル『パトリオット』かしらね」


 不遜に微笑む少女と、彼女を「死を覚悟した悲劇の英雄」と信じて疑わない賢者は、再び戦地へと足を踏み出した 。


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