聖槍ジャベリン
王都の城壁からほど近い平原に、その怪物はいた。
鈍く銀色に光る鱗に覆われた装甲竜。その巨体が動くたびに地響きが鳴り、王都の精鋭たちが放った無数の矢が、足元に折れたマッチ棒のように転がっている。
戦闘魔導士の放つ火魔法も装甲竜の厚い鱗に弾かれている様相だった。
「……あれが標的ね。確かに、普通の火魔法じゃ初速不足で弾き返されそうだわ」
エリは静かに、右肩に「見えない筒」を担ぐジェスチャーをした。
頭の中に描くのは、現代の戦車すら一撃で屠るトップアタック(直上からの攻撃)兵器――。
「ターゲット、ロックオン」
エリの魔力が指先に収束し、肩の上に光り輝く「筒」が実体化する 。周囲の空気が震え、オーエンがその凄まじいプレッシャーに息を呑んだ 。
「発射!」
シュゴォッ! と空気を切り裂く音とともに、光の槍が放たれた。
槍は一旦、空高くへと舞い上がる。逃げようとする竜の動きを嘲笑うかのように、空中で急旋回。そして――。
「トップアタック……命中!」
光の槍は、兵士たちが言っていた唯一の弱点、首の付け根へと垂直に突き刺さった 。次の瞬間、竜の巨体が内部からの爆発に耐えきれず、激しい閃光とともに崩れ落ちた。
「……やった」
勝利を確信した瞬間、エリの視界が急激に暗転した。足の力が抜け、膝から崩れ落ちる。現代兵器を魔力で再現する対価――それは、凄まじいまでの「血糖値の低下」だった 。
「エリ! しっかりしろ!」
駆け寄ったオーエンが、意識の遠のくエリを抱きとめる。エリの顔は真っ白で、唇は小刻みに震えていた。彼女が命を削って戦っているのだと、オーエンの胸に鋭い痛みが走る 。
(やはり……この子は、これほどの代償を払ってまで戦いの螺旋の中に……!)
オーエンは震える手でポケットを探り、一粒の「氷砂糖」を取り出した 。
「エリ、これを。……口を開けるんだ」
言われるまま、エリの口内に冷たくて甘い塊が放り込まれた。
舌の上でゆっくりと溶け出す強烈な甘み。それが血の巡りを呼び戻し、脳にエネルギーを送り届けていく。
「……ん、甘~い……。オーエン、これ……」 「氷砂糖だ。……すまない、これくらいしかお前にしてやれることがなくて」
申し訳なさそうに眉を下げるオーエンを見て、エリはふっと力なく笑った。
「ううん、最高……。生き返るわ……」
オーエンにとっては「戦士への憐れみ」だったが、エリにとっては「最強の糖分補給」だった。
この日を境に、エリが大規模な兵器魔法を使う前には、必ずオーエンの手から一粒の氷砂糖を受け取ることが「儀式」として定着することになる。
それを眺める周囲の神官たちは、「救世主と賢者の、なんと尊い信頼の絆か」と涙ぐむのであったが、実情は単なる「低血糖対策」なのであった。




