プロローグ:女神の銃火
「守備隊の皆さんは後ろに下がってください!」
その凛とした声は、死を覚悟し、やっとの思いで戦線を支えていた兵士たちにとって、まさに福音だったに違いない。
「おおっ……女神様だ! 我々は助かったぞ!」
泥と血にまみれた男たちが、希望を宿した瞳で振り返る。
だが、彼らの視線の先にいた見慣れぬ戦闘服を着た少女――エリが手にしていたのは、杖でも聖印でもなく、FNミニミ軽機関銃だった。
「グルァァァァァッ!」
地響きと共に、森の奥から巨影が姿を現した。
身の丈は優に馬を超え、ぎらつく瞳にはどす黒い憎悪の炎が宿っている。巨大な犬、あるいは狼の姿をした特級魔獣だ。その硬皮は鉄よりも硬く、並の剣士では傷一つ付けられない。
「フフフッ。そんなやわな装甲では、私のFNミニミ軽機関銃の敵ではないわ。覚悟をするのね、ワンちゃん!」
エリが腰だめに構えた、無骨な鉄の塊。
彼女が引き金を絞った瞬間、世界は一変した。
口径5.56mmの魔弾が毎分数百発の勢いで発射される
――ダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!
鼓膜を震わせる凄まじい轟音。
彼女の正面から、光の弾丸が暴風雨となって魔獣に連射された。それは優雅な「魔法」などと呼べるものではなく、暴力的なまでに破壊に特化した「物理的な嵐」だった。
「反動は……うん、魔力式だからゼロ。最高ね」
「蜂の巣にしてあげるッ!」
猛り狂う光の弾幕が、魔獣を真正面から飲み込む。
魔獣は咆哮を上げ、自慢の硬皮で弾丸を弾き飛ばそうとしたが、それは無意味な足掻きに過ぎなかった。
秒間十数発という過密な魔弾の前に、魔獣の肉体は瞬く間にミンチへと変えられていく。
咆哮が悲鳴へと変わる暇さえ与えず、巨体は文字通り「消滅」していった。
……。
……。
再び静寂が戻った森には、蜂の巣になった無残な巨木と、もはや影も形もなくなった魔獣の残骸だけが転がっていた。
「……ふぅ。意外と簡単ね、魔獣退治って」
エリはケロッとした顔で、熱を帯びた魔法製の「機関銃」の銃口をフッと吹く仕草を見せた。
この世界の魔法は“イメージしたものが形になる”……なら、私が思い浮かべるのは当然、最新兵器よね。
魔法製の武器は弾切れ気にならないし、最強だわ。
その隣で、神の御業に驚愕したオーエンだけは開いた口が塞がらず、ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
(……いや、それにしても)
硝煙の匂い(というか、なぜか少しバッテリーの焦げたような臭い)の中で、エリはふと我に返る。
足元に転がる大量の空薬莢――もとい、魔力の残滓を見つめながら、彼女は冷静に自問自答した。
「……私はなぜ、こんなところでサバゲーをやっているのかしら?数日前までは私はただの女子高生だったはずのに」
そもそも、全ての元凶は実家の父の本棚だった。背表紙がボロボロになるまで読み耽った『ゴルゴ13』。A1-24(超A級射撃)の概念も、銃器の構造も、すべてはあの寡黙な世界的狙撃手から教わったのだ。私はゴルゴの職人としての矜持に痺れていた。
「まさかデューク東郷も、読者が異世界でミニミを撃つことになるとは思わなかったでしょうね」
そんなエリの様子を水晶玉越しに見ている存在が居た「素晴らしい……。あの娘、期待を遥かに超えているわ」その存在は新しいおもちゃを手に入れたことを密かにほくそ笑んでいた。




