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対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士   作者: Moonshine
第3章:第6要塞 

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9/17

(うわあ、なんて美しい人達なのかしら)


要塞の中庭での、マティアスの歓迎式典はこの要塞全ての人間が覗いていたように、ドルマも制服管理課窓から見ていた。


光を受けて輝く銀髪、大きな体躯、強い紺色の眼差し。

紺色の軍服で身をつつんで、誰をも寄せ付けない禁欲的なその美しさは、まるで氷でできた彫刻のごとくだ。


侍女達の噂話がドルマの窓からも聞こえてくる。


(マティアス様、戦場のユキヒョウと呼ばれているほどの峠の戦闘の名手らしいわ)

(辺境伯家の跡取りなのに、まだ婚約者どころか恋人もいらっしゃらないほどご多忙なのだとか)

(本当に素敵ね。王都の夜会にご参加になるたびに、馬車一杯ほどの恋文が贈られてくるらしいわよ。噂によると、王家の第三王女様がマティアス様に熱をあげていらっしゃっていて、前の王都での夜会の後に歌劇にお誘いになっているというのに、マティアス様は辺境の警備が優先と、お相手にもなさらずすぐ辺境に帰ってこられたとか。ああ、こっちを見たわ!本当に美しい方ね)

(お隣にいらっしゃるカイル様のまた凛々しいこと。こちらは辺境騎士団長の団長の息子なんですって、黒髪が素敵だわ。カイル様の方は特定のお相手はいらっしゃらないけれど、美しい女性との逢瀬はよく目撃されているとか。第6にご滞在の期間だけでも遊んでいただこうかしら)

(あら、いやだ。抜け駆けはなしよ)


(マティ様の出張って・・マティアス次期辺境伯のお供でいらしたのかしら)


ドルマは目をこらして歓迎の式典の周辺にそれらしき人影がいないかと探すが、さっぱりだった。


あの手紙を受け取った後、ドルマは散々迷った末に、マティと会う、という手紙の返事を出したのだ。

ドルマは対人恐怖だ。

人は怖い。

だがドルマは毎日の静かな暮らしに満足はしていたものの、話し相手すらいない、とても孤独で単調な日々に虚しさを覚えていた事も事実だ。


そんな中、ドルマの事を知らない第1の騎士が、ドルマの繕いの仕事を気にいってくれて、自分にわざわざ会いたいと、そう言ってくれた。

(変われるかもしれない)

ドルマは持てる勇気の全てをふるって、マティと会うことを決心したのだ。


マティは、今日の夕方、日暮れ前に制服管理課に訪ねてくると言っていた。

ドルマは朝から落ち着かず、繕いの仕事の最中に何度も何度も椅子から立ったり座ったりして、制服管理室の中整理をして、それから今日は朝から少し丁寧に編み込んだ三つ編みを触って、またなんとなく前髪を整えてみる。

そうして繕い仕事にとりかかっていると、今度もは耐えられないほどの不安が襲ってくる。

もうすでに、マティに会うと言ってしまった事への後悔の気持ちが浮かび上がってくる。

だが、いまさら断る事なんて事はできないし、怖い気持ちはあるがとても楽しみでもある。そんな不安と期待が入り混じった気持ちで、ドルマは実に居心地の悪い時間を制服管理課の中で過ごしていた。


(・・どんな人なのかしら)


ーーーーーーーーーーーーーー


マティアスは、歓迎の宴の主賓をカイルにまかせて、そっと誰にも言わずに宴を抜け出した。

カイルは宴での十八番である、子供の頃に父と一緒に遭遇して、なんとか駆除したワイバーンとの死闘の話しを披露して場は盛り上がりに盛り上がっている。主賓のマティアスが抜けても問題なさそうだ。

ワイバーンとの死闘の話しなど、滅多に聞けるものではない。

第六の騎士達だけでなく、食堂の男たちまでカイルの周りに集まって、みなカイルの話しを一つも聞き漏らす事のないように耳を傾けている。


(恩に着るよカイル)

(早く行け。できるだけ長く繋げておく)


カイルと読心術で会話して、誰にも気が付かれないようにそっと宴を抜け出したマティアスの行き先は、この宴会場の隣の建物だ。


この要塞のつくりについては、先に調べてある。

マティアスは足音を立てないように、目的の部屋に、真っ直ぐ進んだ。


「制服管理課」


もう要塞勤めの者たちの退勤の時間はすぎているのだろう。

誰も居ない廊下を真っ直ぐ進むと、目的の部屋は、呆気ないほどすぐに見つかった。

廊下の奥のつきあたりの部屋に、古びた大きな扉があった。その丁度上には白いペンキで塗られた板に、黒い文字でかかれた「制服管理課」のサインが掛かっていて、重そうな扉の前には大きな藤で編まれたバスケットが二つ、置いてあった。

バスケットの一つの中には、補修が必要だろうと思われる制服が雑に入れてあり、もう一つのバスケットの中には、きちんと修復されて、畳まれた制服が入っている。

畳まれた制服のポケットの中には、何かの紙が入っているのが見えた。見覚えのある白い便箋だ。

物言わぬ部屋の主への騎士からの差し入れだろうか、バスケットの中にはオレンジやナッツの袋などが一緒に入っているのが見える。


(なるほど、こうやってドルマは騎士達とコミニュケーションを取って仕事をしているのか)


ダンダップによると、ドルマは対人恐怖で姿を一切見せないとの事だが、それでもどうやら仕事相手である騎士達とは、それなりによい関係を築いているらしい。


マティアスは一つ息を吸うと、重い扉をコンコン、とノックした。


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