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対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士   作者: Moonshine
第3章:第6要塞 

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8/8

数刻の間続いた、第6の騎士達とカイルの間の模擬試合・・という名の乱痴気騒ぎ、もとい大乱闘は続き、どうやらようやくそれなりの決着がついたらしい。


ボロボロのカイルは満面の笑みを浮かべて、両手にずるずると伸びてしまった騎士を二人、倒れた騎士達の山の中からひっぱってきて、ダンダップとマティアスの前にどん、どんと放り投げて言った。


「ダンダップ隊長、こいつらはよく訓練されている。とくにこの二人はよい騎士達だ。少し早さが足りないのが問題だが、走り込みを増やせばいい」


カイルに引きずられていた騎士は、鼻血を垂らしながらも実に誇らしげに嬉しそうな笑顔になって言った。


「いてててて・・すげえやカイル様、この第六騎士団のこの人数を相手に一人で、実に見事な戦いっぷりだ・・・」

「あいたたた・・・カイル様が辺境の稲妻と呼ばれているのは伊達じゃねえな・・ カイル様に手合わせしてもらえるなんて、俺達は今日はついてるよ、いててて」


マティアスは呆れ顔で言った。


「カイルお前なあ・・加減をしろよ。大丈夫かおまえ達? ええとそっちのお前は胸部の打撲、顔面の切り傷、それからそちらのお前は足の捻挫という所か? お前達見事な戦いぶりだった。カイルは辺境騎士団の猛者の中でも1,2を争う実力の騎士だ。そんな相手によく勇敢に戦った」


そうして目の前に放り投げられた騎士達の怪我の状態を近くでまじまじと見ていたマティアスは、ある事に気がついて息が止まるほどの衝撃を受けて、そして辺りを見渡した。

目の前の二人の騎士は、近くでみると見事な繕いの当たった継ぎだらけの制服を身にまとっていたのだ。

遠目から訓練を眺めているだけでは全く気が付かなかった事だ。


マティアスはじっと目の前の騎士のシャツの繕いを見て、そしてつぶやいた。


「・・・・見事な繕いだな」

「いてててて・・はい、俺等の制服にはどれも継ぎがあたっているんですよ、大事な戦闘に行くときは絶対に継ぎのあたった制服でいくんです。今日はマティアス様が見学だと伺ったので、ここの連中はみんな一張羅の一番継ぎの多い制服をきてきました」


憧れの辺境騎士団の猛者と拳をかわしたという、血が湧き、肉が踊るような戦闘の高揚感と、辺境伯の長子から直に褒めてもらったという興奮から、騎士達の口は一様に軽くなる。


「ほう、・・・それはなぜだ? 制服は支給品だし、望めばいくらでも与えられるだろう。わざわざ継ぎのあるものを選ぶ理由は、一体」


マティアスの目がギラリと光った。

第六の騎士達はそれに気が付く事なく、ただただ嬉しそうにマティアスに答えた。


「制服管理室の娘の施してくれた継ぎのあたった制服を着ていれば、戦闘の時に少し運がよくなる。大怪我せずに死なないで帰ってこられると、そう第6騎士団の俺達は信じているんです。ここの全員がそうです」


よく目をこらしてみれば、なるほどここにいるどの騎士の制服にもなんらかの繕いがほどこされている。

あまりに見事な繕い仕事なので一切その存在を感じなかったが、よく気をつけて見るとどの騎士の制服も、見事な継ぎだらけなのだ。


騎士達は次々に語りだした。


「繕いは多くあればあるほど運がよくなるんです!」

「でも他の誰が繕ったものでもだめなんです。ドルマちゃんの繕いだけなんです」

「一度ドルマちゃんの所に持って行く前に俺の妹が繕ってくれた事があったのですが、全然だめでした!」

「ああ、それはお前が崖から落ちそうになった時のシャツだな!」


騎士達はどっと笑い声を上げた。


マティアスはゆっくりと警戒心を解くような優しい笑みを浮かべて、話しの確信に迫る。

これがマティアスがはるばる第6を訪ねてきた本当の理由だ。


「とても興味深いね。詳しい話しが聞きたいな。私も戦闘に赴く時はかならず鎧の下に赤いハンカチをしのばせるんだよ。そうすると、出血するような怪我をする事がないような気がしてね。 私は臆病なんだ。それで、その制服管理室のドルマ、とはどういう娘なんだ? 私はゲン担ぎが大好きでね。詳しく教えてくれないか」


後ろでは、カイルが真剣な顔をしてじっと騎士達の言葉を待っている。


「おお・・・マティアス様ともあろうお方でも、俺達と同じ臆病な気持ちと戦っておられるのですね!」

「ははは、当たり前だ。それはそうだよ、私も痛いのは嫌いだし、魔獣はやっぱり怖いよ」


騎士達はまた笑いに包まれた。

この笑いは雲上の存在の辺境伯の長子という貴人、戦場のユキヒョウとまで呼ばれた辺境の守護神のマティアスでも、自分達と同じ弱さを持つ人間だと知れた、安堵の笑いだ。


騎士達は、第6の騎士仲間の間でのみ交わさせる内々の話しを披露してくれる気持ちになったらしい。

騎士の一人がマティアスに近づいて、言った。


「ドルマちゃんは峠の麓の孤児院出身の若い娘です。親はスタンピートの時にやられたらしくて、ドルマちゃんの本当の親は誰も知らないんです。気がついたら焼け野原を一人で歩いていた所を孤児院の院長が見つけて保護したのだとか」


「子供の頃から対人恐怖が酷い娘で、俺達も話しはした事はないんです。手紙のやり取りだけ、顔は見たことがないです」


「あ、俺は見かけた事あるぞ、茶色い髪で、笑うとエクボがあるんだ。小柄で可愛い顔だった。でも俺が声を掛けたら幽霊でも見たみたいな青い顔になって、全力で走って逃げられてしまったよ。ちょっとショックだったなあ」


「孤児院にいる時から繕いがものすごく得意で、対人恐怖のドルマちゃんにもできる仕事を探していた孤児院の院長の口利きで去年から騎士制服管理室の繕い係として働いているんです」


すべては調査書にかかれてあったドルマの報告内容通りだ。

マティアスは続けた。


「へえ、そうなのか。そのドルマという娘が繕うと、どうして運がよくなるのだろうね」


「あの娘はちょっと普通じゃない所があるって同じ孤児院の出身の子が言っていた。ひょっとすると何か特別な子なのかもしれないです。人前に姿を見せないのも、声を聞かせないのもそういう事が理由なのかもしれませんね」


「ははは、なんだそりゃ。単にドルマちゃんの技術が高いからだろう。ドルマちゃんが繕うと、体にぴったりに繕ってくれるから、繕う前より着心地がよくなって動きやすくなるんですよ。ほら」


そう言って腕を大きく動かしてみせた。上着の脇の部分に大きな繕いの後がある。


ダンダップは笑って言った。


「戦闘の場所では、人は不安になるものです。騎士達は無意識に何かそういう安心できる物を求めていたのでしょう。それが、第六では姿を見せない謎の多い娘の繕いものであっただけです。まあそれで実際に死傷者が減ったと騎士達が信じているので、どういう理由であれドルマには感謝です」


「・・・そうか。それは是非直接、ドルマという娘に会って話しがしてみたいな」


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