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「マティアス様、わざわざようこそお越しくださいました」
「ダンダップ隊長、久しいな。慰霊祭以来だな。忙しい中出迎えをありがとう」
翌週、マティアスとカイルはもう第6要塞に足を運んでいた。
表向きはこの一年、死傷者を出さなかった第6要塞の視察を兼ねた異動。
辺境伯の長子自らと、その右腕である辺境騎士団長の息子の視察兼異動との事で、この何も見どころのない第6要塞は大騒ぎだ。
第6騎士団の全てが正装して整列してこの貴人を仲間へと迎え、要塞の窓から若い娘という娘が顔を出している。
そしてマティアスが窓に向かって微笑むたびに黄色い歓声とため息があがるのだ。
崖での戦闘に定評のあるマティアスは、その勇敢な戦い方で辺境で名をはせているが、実際の所、王都の夜会ではむしろその美貌の方が有名なほどだ。
(やはりというか・・本当にどこの要塞とも変わらないな)
(ああ。人も施設も、普通すぎるほど普通だ。だからこそ調査が必要だ)
仕事というよりも、ほとんど野次馬根性でマティアスについてきたカイルは、式典の馬上でこっそりと魔術を使ってマティアスと会話を交わした。
今よりずっと若い頃より、辺境伯の長子として仕事と戦闘ばかりの日々を送ってきたマティアスが、この所年齢相応の屈託ない笑顔を見せるようになった事に、カイルは気がついていた。
そしてこの笑顔を見せる時、その手には必ず何の変哲もない、第6からの白い封筒が握られている事も。
(面白いものが見られるかもしれねえ)
マティアスよりは人生を謳歌している自負のあるカイルは、窓に鈴なりになっている第六の娘たちに、大きな笑顔で手を振った。
歓迎の式典を終えると、早速ダンダップ自らが要塞の施設を案内する。
簡素だが、よく手入れされているよい施設だ。
次に案内された先は、騎士の訓練場だ。
大勢の第六の騎士達が、魔獣の到来を想定した訓練を行っており、その迫力は圧巻だ。
皆、今日はマティアスが見学に来るという事でいつもより気合が入っているのだろう、訓練場は砂埃と男たちの怒号で満たされており、活気に満ちている。
「ごらんの通りよく訓練をしていますが、他の要塞に比べて特に変わった訓練をはじめたわけではありません。ただ、うちの要塞から遠くない場所に牧場がありましてね、牧場からの新鮮な牛乳が手に入るのですよ。他の要塞との違いはそれくらいです」
そう言ってダンダップが差し出した牛乳をマティアスが飲むと、少し甘やかな味がした。
「たしかに、うまいな」
まだ子供のような見習い騎士が、遠くでわっと泣き出したのが見える。
周りの騎士達が嬉しそうにその肩を叩いているのも見えた。
「失礼、お見苦しい所をお見せしました。この牛乳はあの子の実家の牧場の牛乳でしてね。前のスタンピートの時にこの騎士団が牧場をスタンピートから守ったのがきっかけで、どうしても騎士団に入りたいといいまして、まだ若すぎるのですが特例で入団を認めました。マティアス様ほどの雲上のお方に自慢の牛乳をお褒めいただいて感動しているのですよ」
ニコニコとダンダップは嬉しそうだ。
どうやらこの騎士団は、新入りを大切にして可愛がってやるほどに雰囲気は良いらしいし、そして近隣の牧場の子供が憧れをもって騎士を志すほどには、住民との関係も良さそうだ。
「そうか・・よい要塞だな。騎士達はよく訓練されている。この要塞の騎士団をまとめるダンダップ隊長の手腕だろう。これからも励んでくれ」
「は・・はい、なんというありがたきお言葉・・はい、不詳ダンダップ、これからも一心に辺境の為にこの身を捧げて参ります!!」
今度はぐず、っとダンダップから鼻水をすする音がした。
どうやらこの要塞は皆心持ちが優しい連中ばかりらしい。
「なあダンダップ隊長! 俺もこいつらの練習試合に混じっていいですか!」
カイルがマティアスの後ろから声を上げた。
ダンダップの返事をまたず、カイルは目の前の騎士達の模擬試合に自ら飛び込んでいった。
どうやら先程から練習を眺めるだけでウズウズしていたらしい。
「うおおおお! カイル様が手合わせしてくださるそうだ! 俺が一番にお願いします!」
「こら、俺が先だ!」
「国で最強の辺境騎士団長の息子だからといって遠慮する事ないぞ! あの美しい顔に拳をいれてやれ!」
「ははは、お前ら順番など気にするな! 全員で掛かってこい! 俺が全員相手してやる!!」
急なカイルの飛び入りに、訓練は大盛り上がりだ。
辺境騎士団といえば王国全ての騎士の憧れだ。その騎士団長の息子であるカイルと手合わせできるなど、この長閑な第六の騎士達にとってこの上のない事だ。
「お、おい、カイル!」
マティアスは急なカイルの飛び入り参加に困惑するが、ダンダップは笑ってそれを許した。
「ははは、騎士団長のご自慢の御子息だけあって、カイル様は血の気が多いですな。いや頼もしい限りです、是非うちの連中を鍛えてやって下さい」
こうなると脳筋の騎士達を止める事など、だれも出来ない。




