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対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士   作者: Moonshine
第1章:死なない騎士団

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3/8

「ドルマ様。 

はじめまして。私の名前はマティ。第一要塞で騎士をしています。

先日の慰霊祭の式典でお会いしたダンダップ隊長の手袋には本当に素晴らしい繕いがしてありました。羨ましくてダンダップ隊長にお伺いすると、繕いをしたのは貴女で、第6では、貴女の繕いがある制服は幸運を呼ぶので、戦闘の際は貴女のほどこした継ぎのあたった制服をわざわざ着るジンクスがある、と聞きました。

 是非私も貴女の素晴らしい繕いと、幸運のお裾分けに授かりたいと、不躾にもダンダップ隊長にお願いして、貴女に手紙と私の手袋をお送りしましたが、どうか私の手袋も繕ってくれませんか 」


(・ですって。本当に嬉しいな)


ドルマは一人で制服管理室の扉の向こうで一人でエクボを浮かべてニヤニヤしながら、今日で何度めになるだろうか、このマティ、という名の第一の騎士からの手紙を開いた。


茶色い髪の、茶色い瞳をした小柄な何処にでもいるような普通の女の子の見かけのドルマだが、ドルマには酷い対人恐怖症があってほとんど人と交流する事はない。

一人で制服管理室の中で引きこもって繕い仕事をしているし、仕事のやりとりは全て筆談だ。

人と直接交流こそできないが、丁寧な仕事には自信があるし、第6では幸運を運ぶ繕い仕事だと、ゲン担ぎの好きな騎士達の間で評判になっており、筆談だけの関係の第6の皆からはとても重宝してもらっている。


そんなドルマが、こうやってはるばる遠い第一要塞の見知らぬ騎士から、わざわざ繕いの美しさを褒めてもらって手紙をもらって繕いの依頼まで受けたのだ。

ドルマは茶色いおさげの髪を一人でずっといじって、部屋をうろうろして嬉しさを抑えられない。


ダンダップ隊長は式典から第6要塞に戻ってくると、すぐに制服管理室を訪れて、第一の騎士様から君へお願いがあるんだ、と見慣れぬ丁寧な手紙と共に派手な穴の空いている上等の手袋を差し出したのだ。


【悪いねドルマ。君が忙しいのは知っているんだけれども、マティからどうしてもと言われてね。よかったら引き受けてくれないか。騎士という生き物はゲン担ぎというものが大好きでね。ドルマの繕いが素晴らしいのと、幸運を呼ぶという噂が気になったようなんだ。急ぎではないから、手の空いた時にお願いできないか】


制服管理室の扉の下から差し入れられたそっとダンダップのメモにはそうあった。


【ダンダップ隊長、うわあ、とても嬉しいです。私なんかでお役にたつのであれば喜んで!】


メモであれば普通の娘のように砕けた口調で話しができるドルマは、そう綴ってダンダップに返した。


尚、マティアスは、この手紙を運んだダンダップ隊長に、ドルマには手紙の主の正体は漏らさぬようにと固く口止めしている。


ドルマは丁寧に手袋を受け取った後、どうにかこうにか興奮をおちつかせて、ゆっくりと穴の空いた上質な手袋に対峙した。手袋の穴は、魔獣の牙によるものだろう。鋭利な刃物で引き裂かれたような鋭い斜めの穴。そして手袋を強く握りしめて拳で戦ったのだろう。関節の所が擦り切れていた。この第6では滅多に見ることのないような攻撃的とも感じる綻びに、ドルマはゆっくりと手袋の主に思いを馳せる。


(マティ様というこのお方は、随分と果敢に魔獣に挑まれる勇敢な戦い方をなさる方なのね。 ・・魔獣の牙がこの手袋の持ち主に触る事がありませんように。振るった拳が、その手を痛める事がありませんように)


そしてドルマはゆっくりと、元はネジが入っていた小さなブリキの缶に収めている裁縫道具を取り出して、ひと針、ひと針思いを込めて、繕いをはじめる。


気がつくと日は傾いて、いつのまにか窓の外にはカラスが遠くの山に帰る姿が見える。


ドルマの変わり映えのしない今日という日も、これでおしまい。


あとは慎重に、誰にも会わないように、すっぽりとフードを深く被って細い裏道を通って逃げるように寮の部屋に戻るだけ。

寮に戻ると寮の部屋の前に届けられる夕食を一人で食べて、入浴して眠りにつく。


それがドルマの毎日だ。

明日もまた、繕い物だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【マティ様。

こんにちわ。ダンダップ隊長からお手紙預かりました。繕い物の仕事を褒めてくださって、本当に嬉しかったです。私が繕った物を身にまとうとちょっと幸運になるという噂があるのは知っています。幸運の方はお約束できませんけれど、繕い物には自信があるんです。他には繕い物があれば、よかったらいつでも送ってきてください。 ドルマ】


第6要塞からマティアスに、ドルマからとても丁寧に繕われた手袋の小包が届いたのは、式典から二週間ほど後の事だった。

第6から第1への郵便物はおおよそ4日はかかる事から、ダンダップから手袋を預かってからすぐに取り掛かってくれたのだろう。


「ほう・・これは見事だ」


執務をしていたマティアスは、すぐにペンを放り出して早速簡素に包装された小包みを開封した。

包みを開封したマティアスは、中の手袋の繕いの跡の美しさに思わず感嘆を漏らし、久しぶりに己の元に戻ってきた手袋を、そうっと大切そうに身に着けた。


「へえ、見事なものだな。あれほどボロボロだった手袋が、こんなに美しくなって返ってくるだなんて」


手袋をつけるマティアスを隣で見ていたカイルは、しげしげと手袋を眺めてそう言った。

繕いの事など何もわからないような騎士のカイルですら、手袋に残された傷跡がこれほど美しく繕われて戻ってくるとは感動するほどの出来栄えだったのだ。


「ああ、それに、どういうわけだか手袋が吸い付くように手にぴったりになっている。信じられん。一体どんな魔法を使ったんだ・・ダンダップ隊長が後生大事にボロボロに繕われた手袋を着けていた気持ちがよく分かるよ」


マティアスは驚きをかくさずに機嫌よくそう答えて、同封されていた何の変哲もない、白い封筒のドルマからの短い手紙をカイルに見せた。


「へえ、本当にどこにでもいる普通の女の子からの普通の手紙・・それよりちょっとあっさりしているくらいに見えるけどな・・」


この辺境で最も身分も高く、そして大変に美麗な外見のカイルとマティアスの二人は、若い女性から手紙を受け取る事も珍しい事ではない。

大抵は華やかな透かしの入った美しい紙や、花が漉き込まれてある桃色の便箋に、ふんだんに詩や美しい美辞麗句が並べられているような物ばかりだ。


だが同じ妙齢の若い娘からの手紙だというのに、この簡素な手紙からは、本当にシンプルに己の仕事への誇りと、仕事で役に立てて嬉しいという気持ちと、またいつでも頼んでくれという親切心しか伝わってこない。いっそ新鮮な気持ちで手紙を読んでいたマティアスに、カイルがつぶやいた。


「この清々しいまでにあっさりした手紙の送り主が、実は若い娘で、重度の対人恐怖で人と話すこともできないなんて、・・・なんか気の毒だな」


カイルの言葉にマティアスは答えた。


「本当にその通りだな。幸運だのなんだのはまだ分からないが、ともかく繕いの技術に関してと、そして、とても性格の可愛らしい、良い娘だという事は分かったな」


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