■ 第三十七話 「嵐の前の静けさ」
ガルドの言葉に、少しだけ沈黙が落ちた。
「帝国か」
竜星が呟く。
ガルドは頷いた。
「ああ」
「ここ数年ずっときな臭い」
青森が腕を組む。
「国境か?」
「そうだ」
ガルドは続ける。
「小競り合いはもう何度も起きてる」
「騎士団が動いたって話も聞いた」
朱が静かに聞く。
「冒険者も?」
ガルドは苦く笑う。
「大規模な戦争になればな」
「騎士だけじゃ足りない」
竜星が肩をすくめた。
「まあ、そうなるわな」
周囲の冒険者たちも小さく頷いている。
ガルドは俺たちを見る。
「まあ」
「お前らなら大丈夫だろうけどな」
竜星が笑う。
「信用されたな」
ガルドは少し真面目な顔になる。
「さっきの戦いで分かった」
「お前」
俺を見る。
「本物だ」
俺は何も言わない。
ただ剣を鞘に戻した。
カチン、と小さな音。
短剣もチェーンを伝って籠手に戻る。
それを見て、ガルドが少し笑う。
「変わった戦い方だな」
竜星が言う。
「だろ?」
「こいつ最近覚えたんだ」
青森が小さく笑う。
「まだ試運転だ」
ガルドは感心したように頷いた。
「それであの動きか」
「末恐ろしいな」
周囲の冒険者たちもざわつく。
「三刀流か」
「見たことねえ」
その時だった。
「おい」
低い声。
振り向く。
一人の大男が立っていた。
筋肉の塊のような体。
肩にはギルドの紋章が入ったマント。
周囲の冒険者が小さくざわめく。
「あ……」
「ギルドマスターだ」
ガルドが少し驚く。
「来てたのか」
大男がゆっくり歩いてくる。
「騒ぎが聞こえたんでな」
視線が俺たちに向く。
「若いS級が四人いるって?」
竜星が軽く手を挙げる。
「俺らだな」
大男は少し目を細める。
「……なるほど」
俺の籠手を見る。
チェーン。
短剣。
「変わった武器だ」
大男が少し笑った。
「面白い」
それからガルドを見る。
「で?」
「喧嘩か?」
ガルドは首を振る。
「違う」
「腕試しだ」
大男は頷く。
「そうか」
そして俺たちを見る。
「S級なら」
「街で暴れるなよ」
竜星が笑う。
「善処する」
その時だった。
ギルドの方から、慌てた足音が聞こえた。
「ギルドマスター!!」
一人の職員が走ってくる。
「どうした」
息を切らしながら言った。
「国境から報告が!」
周囲の冒険者がざわつく。
「帝国軍が」
一瞬の沈黙。
「動き始めました」
空気が変わった。
ギルドマスターの目が鋭くなる。
「……ついにか」
竜星が小さく呟く。
「早いな」
ガルドは空を見上げる。
「だから言っただろ」
俺は静かにその話を聞いていた。
帝国。
まだ見ぬ国。
だが。
その影は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
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