■ 第二十九話 「変わったもの」
朝。
窓から光が差し込んでいた。
目を開ける。
静かな朝だった。
昨日の戦いが嘘みたいに。
体を起こす。
剣を手に取る。
いつもと同じ。
重さも。
感触も。
だが。
心だけが少し違った。
胸の奥にあった重いもの。
それが。
奥の方へ押し込められている。
消えたわけじゃない。
ただ。
触れようと思えば触れられる場所にある。
でも。
今は静かだった。
ゆっくり息を吐く。
「……行くか」
部屋を出る。
階段を降りると、酒場はすでに賑やかだった。
「おー龍凱!」
竜星が手を振る。
「遅いぞ!」
青森はパンをかじっている。
「昨日は早く寝たんだろ?」
「まあな」
椅子に座る。
朝飯が運ばれてくる。
スープ。
パン。
干し肉。
朱はすでに食べ終わっていた。
壁際。
いつもの席。
俺はパンをちぎる。
その時。
視線を感じた。
顔を上げる。
朱だった。
じっとこっちを見ている。
目が合う。
ほんの一瞬。
朱の眉がわずかに動いた。
そして。
すぐ視線を外した。
何も言わない。
だが。
気づいたらしい。
昨日。
戦いの前。
俺は迷っていた。
剣を振るうことに。
人を斬ることに。
だが。
昨日の最後。
そして今。
迷いはない。
覚悟が決まっている。
それが。
朱には分かった。
竜星は何も気づいていない。
「今日出発だってよ」
青森が言う。
「街まであと二日」
「盗賊はもう来ないだろ」
竜星が笑う。
「頭やられたしな」
確かにそうだろう。
昨日の戦いで。
盗賊団はかなりの損害を受けた。
もう襲ってくる可能性は低い。
隊商の準備も始まっている。
俺はスープを飲む。
静かに。
朱が立ち上がった。
「……外」
短く言う。
そして歩いていく。
俺を見ることもなく。
扉を開けて外へ出た。
青森が首をかしげる。
「なんだ?」
「さあ」
竜星も気にしていない。
俺はパンを置く。
「ちょっと行ってくる」
「おー」
宿の外に出る。
朝の空気。
少し冷たい。
朱は井戸の近くに立っていた。
背中。
腕を組んでいる。
俺が近づくと。
朱は振り向いた。
数秒。
何も言わない。
そして。
「……変わったな」
静かな声だった。
「昨日」
「お前は迷ってた」
図星だった。
俺は答えない。
朱は続ける。
「今は違う」
視線が鋭い。
「覚悟決めた顔だ」
俺は少し笑う。
「そう見えるか」
「ああ」
短い返事。
朱は少しだけ目を細めた。
「……無理してないか」
意外な言葉だった。
俺は首を振る。
「大丈夫だ」
嘘ではない。
確かに。
昨日より。
今の方が楽だ。
朱はしばらく黙っていた。
そして。
「そうか」
それだけ言った。
だが。
完全に納得している顔ではなかった。
遠くで声が上がる。
「出発準備!」
「荷物確認しろ!」
隊商が動き始めた。
朱はそっちを見る。
「行くぞ」
「ああ」
二人で歩き出す。
宿へ戻る。
その途中。
朱が一度だけ。
ちらりとこちらを見た。
その目には。
ほんの少しだけ。
言葉にならない違和感が残っていた。
まだ小さい。
気のせいかもしれない。
だが。
確かにそこにある。
小さな亀裂。
それが。
ゆっくりと。
静かに。
広がり始めていた。
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