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■ 第二十六話 「重い斧、四つの刃」

 斧が振り下ろされる。


 地面が抉れ、土が跳ねた。


「散れ!」


 竜星の声に、俺たちは反射的に左右へ跳ぶ。斧の一撃は想像以上に重く、当たればただでは済まないのが分かる。


 盗賊の頭は、ゆっくりと斧を持ち上げた。筋肉の盛り上がった腕、荒い呼吸、だが目はまだ余裕を残している。


「ちっ……ちょこまか逃げやがって」


 低く吐き捨てる。


 竜星が剣を肩に乗せて笑う。


「逃げてるんじゃねえよ」


「避けてるだけだ」


 言い終わるより早く、竜星が踏み込んだ。剣が振り下ろされる。盗賊の頭は斧で受け止め、火花が散る。


 その横から青森の刀が走る。


 狙いは脚。


 だが男は体をひねり、刃を外した。


「連携は悪くねえな」


 盗賊の頭が笑う。


「だが軽い!」


 斧を横に振り抜く。竜星と青森が同時に飛び退く。風圧が頬をかすめた。


 その隙に、朱が前へ出る。


 拳。


 腹に叩き込む。


 鈍い音。


 男の体が少しだけ揺れた。


 だが――


「効いてねえよ!」


 膝が飛んできた。


 朱が腕で受け、後ろに下がる。


 俺は剣を握り直した。


 さっき斬った盗賊の姿が、頭の隅に残っている。倒れる瞬間の目。刃の感触。


 胸の奥がざわつく。


 だが視線を上げる。


 まだ戦いは終わっていない。


 盗賊の頭が斧を構え直す。


「ガキども」


「まとめて叩き潰してやる」


 足を踏み出した瞬間だった。


「朱、左!」


 青森の声。


 朱が反応する。男の斧が斜めに振り下ろされ、地面に突き刺さった。ほんの一瞬、動きが止まる。


「今!」


 竜星が飛び込む。剣が肩を切り裂く。血が飛ぶ。


「ぐっ……!」


 男が唸る。


 そこへ青森の刀が走る。腕にもう一本の傷。


 俺も踏み込んだ。


 剣を振る。


 男は反射的に体をひねり、致命傷は避ける。それでも刃は脇腹をかすめた。


 男の顔から笑みが消える。


「……やるじゃねえか」


 斧を引き抜き、距離を取った。


 肩から血が流れている。腕も傷だらけだ。それでも目はまだ死んでいない。


 朱が息を整える。


 拳を握る音が聞こえた。


 男が笑う。


「ガキのくせに、よくやる」


「だがな」


 斧を肩に担ぎ直す。


「力の差は埋まらねえ」


 踏み込む。


 速い。


 さっきより明らかに速かった。


 斧が振り上げられる。


 竜星が受け止めるが、押し込まれる。


「ぐっ……!」


 その背後から盗賊が一人飛び出した。まだ残っていたらしい。短剣を振り上げ、竜星の背を狙う。


「竜星!」


 俺が叫ぶ。


 だが間に合わない。


 次の瞬間。


 拳が盗賊の顔面に叩き込まれた。


 朱だった。


 盗賊が吹き飛び、地面に転がる。


 そのまま動かなくなった。


 朱は何も言わない。


 ただ竜星の前に立つ。


 盗賊の頭が舌打ちする。


「邪魔ばっかしやがって」


 斧が横に振られる。


 朱が腕で受け、後ろに滑る。


 だが止まらない。


 踏み込み直す。


 拳。


 腹。


 もう一発。


 顎。


 男の体がよろめいた。


 竜星が笑う。


「効いてんじゃねえか」


 剣を振り上げる。


 青森も刀を構える。


 俺も剣を握り直した。


 四人。


 円を描くように男を囲む。


 盗賊の頭が、ゆっくり息を吐いた。


「……面白え」


 斧を構える。


「来いよ」


 風が吹く。


 草が揺れる。


 次の瞬間、四人同時に踏み込んだ。

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