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■ 第二十一話 「見えない距離」

 街の食堂は朝から賑わっていた。


 パンの焼ける匂いとスープの香りが店の中に広がっている。


 四人は窓際の席に座っていた。


 青森がパンをかじりながら言う。


「いやー生き返った」


「戦闘後の飯は正義だな」


 竜星もスープをすすりながら頷く。


「それな」


「昨日まともに食ってなかったし」


 青森が笑う。


「俺もだよ」


「ていうか久しぶりだな、お前ら」


 竜星が言う。


「転移してから会ってなかったな」


「どこ行ってたんだよ」


 青森は肩をすくめた。


「森」


「迷った」


 竜星が真顔になる。


「お前バカだろ」


「いや数学は得意なんだけど方向感覚が壊滅的でさ」


 龍凱が小さく笑った。


 そのやり取りを聞きながら、朱は黙ってパンを食べていた。


 青森がちらっと見る。


(……やっぱ静かだな)


 前の朱なら。


 今の会話に絶対割り込んでくる。


 「ロリがどうの」とか。


 「女の子かわいい」とか。


 でも今日は違う。


 竜星も気づいたらしく言う。


「朱」


「大丈夫か?」


「……何が」


「いや」


 竜星は言葉を探す。


「昨日のこと」


 少し沈黙が落ちる。


 店のざわめきが遠く感じる。


 朱はパンを一口食べてから言った。


「別に」


「普通だ」


 竜星は納得していない顔だった。


 だがそれ以上は聞かなかった。


 青森が空気を変えるように言う。


「そういえばさ」


「ギルドで噂になってたぞ」


「盗賊砦壊滅」


 竜星が吹き出す。


「マジかよ」


「まあそりゃなるわ」


 青森は笑う。


「しばらく依頼増えるかもな」


 龍凱が言う。


「……青森」


「これからどうする」


 青森は少し考えてから言った。


「んー」


「俺?」


「うん」


 青森はフォークをくるくる回す。


「正直一人で冒険するのも飽きてきた」


 そして笑う。


「だからさ」


「一緒にやらない?」


 竜星が指を指す。


「パーティ?」


「そ」


 青森は頷く。


「四人ならバランス良さそうだし」


 竜星は即答した。


「いいじゃん」


 龍凱も頷く。


「問題ない」


 青森は最後に朱を見る。


「朱は?」


 朱は少しだけ止まった。


 ほんの一瞬。


 考える。


 そして言った。


「……別に」


「いい」


 青森は笑った。


「決まりだな」


 四人のパーティが、ここで正式にできた。


 竜星が言う。


「よし」


「次の依頼行くか!」


 青森が笑う。


「休ませろ」


「昨日砦だぞ」


 店の中に笑い声が広がる。


 普通の朝だった。


 いつもの仲間。


 いつもの空気。


 でも。


 朱だけは。


 どこか遠くにいるようだった。


 拳を見つめる。


 洗い流したはずの血。


 それでも。


 まだ残っている気がした。


(……何人)


 頭の中で数字が浮かびそうになる。


 朱はすぐにそれを振り払った。


 考えるな。


 考えたら。


 きっと。


 ――壊れる。


 朱はパンを飲み込む。


 そしていつも通りの顔を作った。

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