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■ 第十九話 「夜の残り火」

 夜が明け始めていた。


 森の道を、三人と一人が歩いている。


 朱。


 青森。


 そして、助けた少女。


 少女は朱の服の裾をぎゅっと掴んで離さなかった。


「……」


 朱は何も言わず歩いている。


 拳甲についた血は、途中の川で洗い流した。


 それでも。


 感触だけは残っている気がした。


 青森が隣で話しかける。


「いやーしかしさ」


「久しぶりに会ったと思ったら盗賊砦壊滅って」


「イベント発生率高すぎない?」


 軽い口調だった。


 わざとだと分かる。


 朱は小さく答える。


「……たまたまだ」


「いやたまたまで済むかなこれ」


 青森は指を折る。


「まず森で盗賊遭遇」


「次に砦突入」


「最後に殲滅」


「普通の冒険者は途中で逃げるんだよ」


 朱は黙った。


 青森は少しだけ真面目な声になる。


「……無理してない?」


 朱は答えない。


 ただ前を向いたままだった。


 青森はそれ以上聞かなかった。


「まあいいや」


「街着いたら飯食おう」


「俺めちゃくちゃ腹減った」


 少女が小さく言う。


「……おにいちゃん」


 朱が足を止める。


 少女が見上げる。


「ありがとう」


 小さな声だった。


 でも、はっきりした言葉。


 朱は少しだけ困った顔をした。


「……気にすんな」


 それだけ言った。


 そしてまた歩き出す。


 青森はその背中を見ていた。


(……やっぱ変だな)


 昔の朱なら。


 もっと軽口を叩いている。


 もっとバカみたいに笑う。


 でも今は違う。


 静かすぎる。


 青森は頭をかく。


(まあ)


(あんな状況なら普通そうなるか)


 やがて森を抜ける。


 街の門が見えてきた。


 その頃――


 街の中。


 ギルドでは。


「まだ戻らねえのか?」


 竜星が机を叩いた。


 目の前には俺が座っている。


「……」


 俺は黙っていた。


 ギルドの職員が困った顔をしている。


「ですから」


「討伐依頼は出していますが……」


 竜星が睨む。


「だからそれじゃ遅えんだよ!」


 俺が静かに言う。


「……竜星」


「落ち着け」


「落ち着けるかよ」


 竜星は拳を握る。


「朱一人で砦だぞ!?」


「死んでてもおかしくねえ!」


 その時だった。


 ギルドの扉が開く。


 全員が振り向く。


 入口に立っていたのは――


「……お」


 青森だった。


 刀を肩に担ぎ、軽く手を上げる。


「久しぶり」


 竜星が固まる。


「……青森?」


 主人公も目を見開く。


 その横に。


 朱が立っていた。


 そして。


 少女。


 竜星が立ち上がる。


「お前ら……」


 青森が笑う。


「盗賊砦」


「片付けてきた」


 一瞬。


 ギルドが静まり返る。


 次の瞬間。


「……は?」


 空気が凍った。


 その中で。


 俺だけが朱を見ていた。


 そして気づく。


 朱の目が。


 少しだけ変わっていることに。


 ほんのわずか。


 でも確実に。


 前とは違う。


(……朱)


 胸に小さな不安が生まれた。


 それが大きくなるのは


 まだ少し先の話だった。

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