■ 第十八話 「赤く染まった拳」
砦の中庭には、倒れた盗賊たちが転がっていた。
焚き火の火が揺れ、血の匂いが夜の空気に混じる。
「……はぁ」
朱は肩で息をしていた。
拳甲は血で汚れ、腕も重い。
それでも立っている。
横では青森大生が刀を肩に担いで周囲を見回していた。
「いやー」
「思ったより多かったね」
軽い口調だった。
だが地面に倒れている盗賊の数を見ると、普通の光景ではない。
青森は指を折りながら数える。
「えーっと」
「今ので九人?」
朱は小さく答える。
「……たぶん」
「たぶんって」
青森は苦笑した。
「いや怖い怖い」
だがその目は少しだけ真剣だった。
朱の様子を見ている。
「……朱」
「まだ奥にいる?」
「……いる」
朱は砦の奥を指さす。
「娘」
それだけ言った。
青森は「あー」と頷く。
「そっちが本命か」
そして軽く伸びをした。
「じゃあさっさと行こう」
「長居すると面倒だし」
二人は砦の奥へ進む。
石造りの廊下。
松明の光。
奥から男の声が聞こえる。
「何だ騒ぎは!」
怒鳴り声。
重い足音。
現れたのは大柄な男だった。
他の盗賊より明らかに体格がいい。
片手に斧。
目つきも鋭い。
周囲の死体を見ると、顔が歪む。
「……てめえらか」
低い声だった。
朱は何も言わない。
ただ拳を握る。
男はゆっくり斧を構えた。
「ガキが」
「ずいぶん派手にやってくれたじゃねえか」
青森が横からひょいっと手を上げた。
「あーどうも」
「通りすがりです」
盗賊の頭は一瞬固まった。
「……は?」
青森は真顔で言う。
「いや数学的に考えるとさ」
「ここで戦闘になる確率はほぼ100%なんだけど」
「一応挨拶くらいはしたほうがいいかなって」
「……」
沈黙。
そして盗賊の頭が怒鳴る。
「殺すっ!!」
斧が振り下ろされる。
朱が前に出た。
拳で弾く。
金属がぶつかる音。
だが衝撃が強い。
朱の足が少し下がる。
盗賊の頭が笑う。
「ほう」
「やるじゃねえか」
横から青森が刀を振るう。
鋭い一撃。
だが男は斧で受けた。
火花。
「二対一か」
盗賊の頭はニヤリと笑う。
「いいぜ」
「まとめて潰してやる」
斧が横に薙ぐ。
朱がしゃがんで避ける。
青森が踏み込む。
刀が閃く。
男の腕に浅い傷。
「……ちっ」
盗賊の頭が後ろへ下がる。
そして笑う。
「なるほど」
「雑魚とは違うか」
朱は拳を握り直す。
体が重い。
でも動ける。
青森が横で小声で言う。
「朱」
「この人、普通に強いね」
「……ああ」
「まあ」
青森は笑う。
「二人なら解ける問題だけど」
盗賊の頭が突進する。
斧が振り下ろされる。
朱が避ける。
青森の刀が男の足を狙う。
男は後ろに飛んで回避。
戦いはしばらく続いた。
そして。
隙が生まれる。
朱の拳が腹に入る。
「ぐっ……!」
体が一瞬止まる。
その瞬間。
青森の刀が振り抜かれた。
血が飛ぶ。
盗賊の頭は膝をついた。
「……くそ」
斧が地面に落ちる。
そしてそのまま倒れた。
静寂。
青森は刀を軽く振って血を払う。
「はい終了」
軽く言う。
だが朱は動かなかった。
ただ倒れた男を見ている。
また。
一人。
殺した。
青森が肩を叩く。
「朱」
「娘助けに行こう」
朱は少ししてから頷いた。
二人は奥の部屋へ向かう。
扉を開けると。
小さな女の子が隅で震えていた。
「……!」
朱がしゃがむ。
「もう大丈夫」
静かな声だった。
女の子は少しだけ顔を上げる。
そして泣きながら朱に抱きついた。
朱は何も言わなかった。
ただ、そっと背中を撫でた。
砦の外では夜風が吹いていた。
この事件は終わる。
だが。
朱の心の奥に残ったものは
まだ消えていなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ブクマ&反応&コメント待ってます!
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれるとまじで喜びます!
ゴホン、失礼。
↓↓ここをポチってくれたら幸せ(笑)↓↓




