■ 第十三話 「ロリフェチという名の爆弾」
『…………』
部屋の空気が、凍った。
俺と竜星は無言で顔を見合わせる。
そしてもう一度、朱のステータスを見る。
――見間違いじゃない。
<ロリフェチ>
堂々と表示されている。
しかもユニークスキル。
逃げ場はない。
「……朱」
俺はできるだけ冷静な声で言った。
「な、なんだよ」
朱が少しだけ警戒した顔をする。
「お前……これ……」
ステータス画面を指差す。
「説明してくれるか?」
朱はちらっと画面を見て、
「……あー」
と言った。
その瞬間。
竜星が叫んだ。
「いや“あー”じゃねえだろ!!」
ベッドから立ち上がる。
「なんだよこのスキル!!」
「知らねえよ!」
「知らねえわけあるか!!」
完全に取り調べである。
俺も混ざる。
「まず聞くが」
「お前、ロリ好きなの?」
「好きじゃねえ!」
即答だった。
「ほんとに?」
「ほんとだ!」
「じゃあなんでこのスキル?」
「知らねえって言ってるだろ!!」
朱が頭を抱える。
……うん。
これは本当に知らなそうだ。
たぶん。
いや、たぶん。
竜星が画面を見ながら言った。
「てかこれ強くね?」
「どこがだ」
俺は冷静にツッコむ。
「ロリがパーティーにいるとステータス上昇?」
「100%+50%×人数?」
竜星が指を折りながら数える。
「一人いたら150%」
「二人いたら200%」
「三人いたら250%」
沈黙。
竜星がぽつりと言った。
「……ロリパーティー最強じゃね?」
「やめろ」
俺は即座に止めた。
「危険思想だ」
朱も必死に頷く。
「俺もそう思う!」
だが問題はそこではない。
俺は別の部分を指差す。
「ロリの捕獲率上昇」
「これ」
朱が固まった。
竜星も固まった。
数秒の沈黙。
そして。
「アウトだろ」
「アウトだな」
「アウトだわ」
三人で結論が出た。
朱が半泣きになる。
「俺のせいじゃねえ!」
「神様のせいだ!」
「たぶん神様の趣味だ!」
俺は腕を組む。
「……いや」
「神様の趣味でもだいぶ問題だろ」
「神様通報案件だぞ」
竜星が真顔で言う。
「てか」
「さっきの宿の受付」
俺の脳裏に猫耳少女が浮かぶ。
竜星も同じことを考えたらしい。
「猫耳ロリだったな」
朱が慌てて叫ぶ。
「違う!!」
「ロリじゃない!!」
「多分年上!!」
俺たちは同時に言った。
『たぶん?』
「やめろおおおお!!」
朱がベッドに突っ伏した。
◇
ひとまず落ち着いたところで、俺は考える。
戦力としてはどうか。
竜星。
ユニークスキル
<愚者の極致>
強い。
めちゃくちゃ強い。
ただし――
回復無効。
これはかなり危険だ。
「竜星」
「なんだ?」
「お前、絶対無茶するなよ」
「え?」
「怪我したら自然回復しかないから」
「……」
竜星が真顔になった。
「……それやばくね?」
「今さら気づいたのか」
朱が言う。
「お前マジで死ぬぞ」
「やめろ怖い」
そして朱。
スキル
<男は拳だ>
これは普通に強そうだ。
格闘特化っぽい。
だが問題は――
<ロリフェチ>
俺は深く息を吐いた。
「なあ朱」
「なんだよ」
「これ隠した方がいいぞ」
「俺もそう思う」
竜星が即答する。
「絶対ギルドに知られたら問題になる」
「通報される可能性ある」
「やめろ!!」
朱が叫ぶ。
その時だった。
コンコン。
部屋のドアがノックされた。
三人とも固まる。
「は、はい?」
俺が返事をする。
ドアが開いた。
「失礼します」
さっきの受付の猫耳少女だった。
トレイを持っている。
「お水をお持ちしました」
にこっと笑う。
その瞬間。
俺と竜星は――
ゆっくり朱を見た。
朱は顔を真っ赤にして叫んだ。
「違うからな!?」
「今なんも発動してないからな!?」
猫耳少女が不思議そうな顔をする。
「……?」
俺たちは同時に思った。
(頼む)
(何も起きるな)
(何も起きるな)
その時だった。
ステータス画面が、ぴこんと光った。
朱のスキル欄。
<ロリフェチ>
――発動。
俺と竜星は同時に叫んだ。
『発動すんなああああ!!』
俺と竜星の叫びが部屋に響いた。
だが、時すでに遅し。
ぴこん。
朱のステータス画面が光り、ユニークスキルの文字が淡く輝く。
<ロリフェチ>――発動
猫耳の受付少女は、トレイに水の入ったコップを三つ乗せて立っている。
「お水をお持ちしました」
にこっと笑う。
……やばい。
この笑顔、完全にロリである。
いや、違うかもしれない。
でも見た目がロリだ。
その瞬間だった。
朱の体から、うっすらと光が溢れた。
ぴかー。
「おい待て」
竜星が言う。
「なんか光ってる」
「うん、光ってる」
俺も頷く。
朱本人はというと――
真っ赤になって固まっていた。
「ち、違うからな……」
ぼそっと言う。
「俺が好きで発動してるわけじゃないからな……」
だがその時。
ステータス表示が変化した。
ロリ数:1
ステータス上昇:150%
俺と竜星は同時に叫んだ。
『数字出るのかよ!!』
猫耳少女がびくっとした。
「ど、どうかされましたか?」
「い、いやなんでもないです!」
俺は慌てて答える。
朱は顔を真っ赤にして俯いている。
だが俺は見逃さなかった。
――口元が緩んでいる。
「おい朱」
「な、なんだよ」
「お前今ちょっと嬉しいだろ」
「嬉しくねえ!!」
即答だった。
しかし竜星が言う。
「でもお前、さっきからずっと見てるぞ」
「見てねえ!!」
「いや見てる」
「見てねえって!!」
完全にパニックである。
猫耳少女は首を傾げていた。
「えっと……お水、こちらに置きますね?」
「ありがとうございます!」
俺は全力で営業スマイルを返す。
頼む。
早く帰ってくれ。
朱の精神がもたない。
しかし――
猫耳少女がテーブルに水を置いた瞬間。
朱のステータスがまた光った。
ぴこん。
ロリ数:1
ステータス上昇:150%
竜星がぽつりと言う。
「……これさ」
「近づくと更新されるんじゃね?」
「やめろ」
俺は即座に言った。
「検証するな」
朱はもう限界だった。
「帰ってくれえええええ!!」
猫耳少女がびくっとする。
「す、すみません!?」
慌ててドアへ向かう。
「な、なにか失礼が……」
「違います!」
俺は全力でフォローする。
「こいつが変なだけです!」
「えっ」
「違ううううう!!」
朱が絶叫する。
そして猫耳少女は逃げるように部屋を出ていった。
バタン。
静寂。
数秒後。
俺と竜星は同時に朱を見た。
「……お前」
「な、なんだよ」
「ロリ好きなんだな」
「大好きだよ!!」
開き直った。
竜星が爆笑した。
「認めた!!」
「認めたぞこいつ!!」
そういえば街に入る前、暴露してたな。――忘れてた⋯⋯
朱は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「仕方ないだろ!!」
「可愛いものは可愛いんだよ!!」
「猫耳とか反則だろ!!」
俺は額を押さえる。
「お前そのスキル完全に適正だな……」
「くそ神様……」
朱が天井を睨む。
「なんで俺だけこんなスキルなんだよ……」
竜星が言う。
「でも強いぞこれ」
「強いけど!!」
「社会的に終わる!!」
正論だった。
俺も頷く。
「絶対ギルドで見せるな」
「捕まる可能性ある」
「犯罪スキル扱いされる」
「やめろ怖い」
朱が震える。
だが竜星はまだ笑っていた。
「でもさ」
「ロリ仲間増えたらもっと強くなるぞ」
「やめろ」
「ロリパーティー」
「やめろ」
「最強」
「やめろ!!」
朱が枕を投げた。
竜星の顔に直撃する。
「いてっ」
そして数秒の沈黙。
俺はため息をついた。
「……まあいい」
「とりあえず今日は寝るか」
「明日から冒険者だ」
竜星が頷く。
「そうだな」
朱も頷く。
「……うん」
その時。
ぴこん。
朱のステータスがまた光った。
三人同時に凍る。
ドアの外から声がした。
「すみません……」
猫耳少女の声だった。
「コップもう一つ忘れてました……」
俺と竜星はゆっくり朱を見る。
朱は顔を真っ赤にして叫んだ。
「神様あああああああああ!!」
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